表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
第二章 ジエジンの復活戦術
20/141

結晶の囚人~敗北~

「いや、違う」

 姜維は踵を返そうとし留まった。こんなにあっさり斃れたのかと。否、違う。ジエジンはまだ死んでもいないし負けてもいない。もし、ジエジンが斃れたのならこの世界は解除されるだろうし、哀姫も助かるはずだ。しかしそれがない。

 一ヶ月前――元姫が蜀へ来た時を思い出す。そうだ、彼女は何か言ってなかったか。記憶を巡らせ、姜維は記憶の海から情報を引き出した。

 ――私は追われているの。能力を狙う人達に。

――ええ、そうよ。夫の、司馬家に追われているわ。

 ――私の主、主公は冷徹な方。私を狙っている。

 違う、どれも今関係ない話だ。姜維は脳内からすぐに切り捨てた。他に何か言っていた、核に関する事は今日まで詳しく教えてくれなかったが、道中に何か大事な事を言っていた気がする。姜維は再び記憶の渦を辿る。

 ――核は私達神器の力そのもの。全て揃えば不老不死も夢じゃない。

 ――回収の仕方? その時になったら教えてあげるわ。

 ――司馬家は夫の家なのに味方してくれないのかって? してくれているわ。でも、主公を欺くために敵対しなくてはならない。私はこの力を悪用されないために逃げているの。

 ――核は人間のように急所を持たない。回収するにも、核の中にある力の源を取り出さなければならないの。それは小さな欠片だったり、血管の中にある細胞とかだったり様々だわ。

 はっとした。思い出した。そして、姜維は警戒を高めた。

 そうだ、何故今まで忘れていたのだろう。いや、違う、あの時は話半分で元姫を信じていなかったのだ。だから適当に聞いていた。故に忘れていた。

「斬り刻むしかないか」

 姜維はジエジンの動かない身体を見つめる。核が持つ力の源――それを取り出さなければ勝利はない。哀姫も、誰も助からない。

姜維は警戒を強めつつ一歩また一歩と足を進めていく。流石に斬り刻めば力の源を取り出せるだろう。この様子じゃしばらくは目を醒まさないはずだ。姜維は冷や汗を一筋滴らせ、氷の地面を踏み締め進む。戦いの時より緊張感があった。

ジエジンの前へやって来る。動かない。槍でつついてみる。反応を示さない。死んではいないはずだ。なら、今が好機――であるのだろうか。姜維はジエジンの身体に左手を伸ばす。


「不用心だな、姜維」


 聞こえた声に背筋が冷えた。目の前のジエジンは氷の粒となって消えていく。振り返る――前、振り返る事すら出来ず姜維は大量の血液を口から吐き出した。血液は姜維の衣服を汚し、地面に決して少なくはない量の血溜まりを作る。

 何が起こった。頭がついていかなかった。

 だが痛みがある、強烈な痛みだ。口元を血で汚しながら視線を下に向けると、己の身体を氷の床から射出する二本の巨大な刃が貫いていた。心臓は回避している。こんな傷を受けたのは、魏の武将である鄧艾と戦った時以来か。

「へえ、流石。冷静に分析出来る気力はあるって事か。ますます腹立つな、テメェ」

 ジエジンはいつの間にか元に戻っている右手を振り、自らの前に生み出した氷の刃数十本で姜維の腹部を貫いた。吐き気と、気持ちの悪さがこみ上げ血を口から流す。人間であれば自然な反応だ。姜維は朦朧とする意識の中、ジエジンを見据える。

「人間は弱い。たったこれだけで動けなくなる。姜維、貴様が人間でなかったならもっと強くなれただろうに」

 嘆いているようだった。人間という存在に。ジエジンは姜維を静かに見下ろした後、腹部に刺さっている剣の一本を掴み、傷を抉るように左右へ動かした。姜維は声を上げず、ただ唇を噛み締め耐え、睨み上げる。

「姜維、我とて貴様を、殺したい訳ではない。我の目的はただ一つよ」

「もく、てき……だと?」

「我ら核は神器の能力でしかない。元姫は神の代行者だが、我ら核は代行者の忠実なるしもべ。神器が居なくては何も出来ぬ。――だがそれは、我らが神器の中に居ればの話。外に居る今、我らはこうして身体を得て、力を、思考を得た! そう! 我は今! 此処に生きている!」

 剣を動かし、抉りつつ喜びに満ちた顔を漂わせるジエジン。姜維は血を口から吐き出しながら、霞む視界の中でジエジンを見つめる。

「……なんだ、貴様、もしかして」

「ほう、我の目的を理解したか。流石とでも言っておいてやる。だがな、姜維」

 ジエジンは剣から手を離し、姜維の一つに纏めている茶髪の髪を掴み後ろへ引く。

「――テメェがどれほど足掻こうと、我の勝利に変わりはねえんだよ。一つをかけても一つにしかならない。一をかけても一にしかならないのと同じだ」

 まあ、テメェのしぶとさ、執念深さは褒めてやるよ。

 ジエジンはその言葉を残し姜維の髪から手を離した。力強く引いたせいか数本抜け落ちる。彼は背を向け一歩踏み出し、歩いて行く。

「じゃあな、姜維。後は我の木偶人形に遊んでもらうといい」

 再び濃霧が出始める。濃くなった濃霧の中、四つの影が見えた。敵だ。己よりも遥かに巨大で、威圧感のある敵だ。濃霧で姿は見えない。だが、わかる。危険な事くらい。それなのに落ち着いていた。冷静で居られた。それは多分、自分が此処で斃れても、元姫と劉備が居るからだ。

 かといって諦めるつもりはない。此処で死ぬつもりもない。

 どれほど傷を負えど手放さなかった槍。血に塗れた槍。弱々しい力だが、まだ、振れる。姜維は力強く握り締め振り上げると、槍を地面から出ている氷の刃に向けて振り下ろす。それと同時に、濃霧の中から巨大な氷の人形が四体現れ、巨大な拳が姜維へ向かい――赤い血飛沫が再び氷の世界を彩る。

姜維が己の身体を拘束している氷刃を槍で叩き割るのと同時の事だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ