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姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
第二章 ジエジンの復活戦術
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結晶の囚人~蜀漢という国~

「貴様の事がだんだんわかってきたぞ、ジエジン」

 姜維は休ませる暇を与えずジエジンを責め立てていく。氷の防御に弾かれるも、彼の左肩をひたすら斬りつける。

「怯めば、隙をつかれれば、防御も攻撃も出来ない。貴様は人間と変わらないな、ジエジン。どんな能力があろうとそれを生かす事が出来なければ、宝の持ち腐れだ。人を殺す力も、行かせなければ意味がない」

「だが、テメェは、我を、殺せないッ!」

 口調が荒れ出した。焦っているのだろう。それでも気にせず、姜維は手を止めなかった。

「人間が何故、一人の人の下に集うかわかるか。小さな力を一つにするためだ。劉備様や主公も所詮はただの人間でしかない。だが、百、二百、億万人の人が支える事であの方達は神となる。――だが貴様は一人だ、ジエジン。その力を生かすための知力も何も存在しない」

「ッ、ならばテメェはあるのか、姜維」

「ある」

 即答した。間を入れず答え、相手の右脇腹を蹴り、僅かに後退し、振り下ろそうとしたジエジンの攻撃を回避する。首筋を掠り、深く抉れた。

「貴様と戦うための知恵を元姫殿が持ち、それを支援するために劉備様が、更には貴様を捕まえるために兵士達、他の将兵達――蜀の誰もが協力し一つとなっている。つまり、私と相対する貴様は、蜀そのものと戦っているという事だ」

「はっ、戯言、だな。所詮我には勝てんッ!」

 剣を氷の床に突き立てるジエジン。地面から鎌のような氷の刃が現れ、姜維へ扇状に向かってくる。何度も、何度も、何度も。絶え間なく襲う攻撃を姜維は身体を捻り回避。だが止む事のない攻撃に少々頭を巡らせ己に向かってやって来る刃を見据え、地面を蹴ると刃に一瞬だけ足をつけては宙へ飛び上がり、身体を反らしては舞うように回転、ジエジンの背後を取った。

振り返るジエジン。右足を蹴り上げるが姜維は体勢を低くし避け、その右脚を左手で掴んでは後方へジエジンの身体を振り、氷の地面に叩きつける。氷の割れた音と紫の鮮血が舞い、頬に付着した。姜維はジエジンの身体を高らかに宙へ高らかに振り飛ばし、己は助走をつけて地面を叩きつけるように飛び上がり、彼を視界に入れては槍を振り上げる。持っていた剣を大剣へ変えるジエジン。防御のために剣を横に向け面を突き出す。姜維はそれすら気にせず、ただ、振り上げた槍をジエジンの頭目がけて槍を叩きつけるかの如く振り下ろす。彼の身体は一気に氷の床へ。

轟音を立てて氷の床へめり込むジエジン。姜維は地面に着地し、空中に散る氷の欠片を視界に収めながらじっとジエジンが居るだろう場所を見つめていた。

「……ッ、は、はは、姜維、認めてやるよ。確かにテメェは強い。それだけの傷を負い、我を此処まで追い詰める。貴様は確かに優秀な武将だ」

ジエジンは立ち上がり、額から血を流しつつ立っていた。頭は僅かに亀裂が入り中から赤い脳が見えていた。人間の脳を見たのは初めてだった。

「だがな、テメェとてその身体で戦い続けるなど不可能だ。我の攻撃を浴び続け、動き続けるなど――人間が出来る事ではないのだからな」

 姜維はただジエジンを見据える。何も言わない。肯定だった。

姜維は人間であり、ジエジンとは違う。体力に限界がある。もし、彼が体力に限界がないというのなら劉備と元姫に急いで貰わなければならない。そして己の時間は、きっと、少ない。それは最初からわかっていた事で、だからこうやって会話の時間を戦闘の合間に入れる。姜維の策でもあった。

「――確かに私は貴様とは違う。だからそれがどうした。言ったはずだ。私一人の力は小さくとも、一つを結集すれば大きな力になると」

「ふん、戯言だな、姜維。そんなの、弱者の言い分だ」

 ジエジンは剣を再び手に現し空を切るように下へ振り下ろす。ジエジンを中心とし、氷の瓦礫や岩が四方八方から現れ姜維目がけて吹っ飛んでくる。姜維は槍で氷の瓦礫を斬り捨て、瓦礫に飛び移ると己が斬り捨てた氷の瓦礫をジエジン目がけて槍で吹き飛ばす。斬って、飛ばし、斬って、飛ばす――何度も繰り返す。ジエジンはそれを剣でいなし、回避していた。

 ――やはり、そうか。

 わかった事が一つ。己の攻撃であっても自由自在に操るまではいかないという事。それが可能なら彼は姜維の攻撃を回避するまでもない。恐らく、その理由は彼が元々元姫の核であるからだろう。少なからず元姫の影響を受けている事は確かなのかもしれない。元姫が核を求め、ジエジンは元姫を否定する。だが己の主の影響力は強い――だから彼女が居る事で不自由を強いられている。そう考えても良さそうだ。

 ジエジンが姜維の攻撃に慣れて来た頃、頃合いだと思った。姜維は同じように己を狙う氷を避けつつ斬り、同様にジエジンへ飛ばす。氷の陰に隠れ、飛ばした氷に飛び移りジエジンに見えないように片手で捕まり、ジエジンへ向かう。

「そろそろ手がなくなったようだな、姜維」

 剣で再び氷が斬られ――ジエジンは驚くような声を上げた。姜維がいないからだ。先入観に囚われた彼は目視出来る距離に姜維が居ると思っていた。姜維はこれを狙った。

割られた氷から現れた姜維。厳密には氷の裏から現れた――だが、ジエジンには瞬間で移動したように見えただろう。姜維はジエジンの首に狙いを定め、槍を両手で構え、その首に突き刺した。軋む首、亀裂が入る。ジエジンの口からは紫の血液が吐き出される。右目に付着するが気にせず力を込め続けた。首は彼の胴体から離れ、宙に舞う。

「ッ――!」

 同時に最後の足掻きなのか、氷の瓦礫が姜維を襲い、姜維の身体は吹っ飛ばされ地面を転がる。ジエジンの胴体が氷の地面に倒れると同時に瓦礫も消えた。

 やったか、なんて言葉を吐くつもりはない。わからない、本当に倒したのか。だが、ジエジンは静まり返ったまま動かない。姜維は小さく咳き込み血を吐き捨てた後、ゆっくりと立ち上がり一定の距離を保ったままジエジンを見つめる。

「……これで、終わってくれればいいが……」

 だが、もし、これで終わりなら哀姫はどうなるのだろう。この世界から抜け出すには? 核の回収は? わからない事だらけである。とりあえず元姫達を呼びに行くかと考えた時だった。


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