2日目、曇り
「では本日は、剣の扱いについてご教授いたしましょう」
昨日と同じ優雅な中庭で、凡そ優雅で無い人間からの講義を受けた日の午後。俺達は兵士の訓練で使われる場、所謂訓練場へと来ていた。
「こういうのって剣道の体験が活きるって言うけど、中学での授業以外経験が無いな……」
「私は持って振れるかが心配かなー」
そんな会話をしていながら、剣を扱うのにこんな浮付いた雰囲気でいいのか?と自問自答。まあ、良い訳ないんだけど。
「もし扱うのが難しいのであれば、短刀も視野に入りますね。ですが、エリーシア様にも最低限の鍛錬は受けてもらいます」
うへぇー。と、嫌そうな声を出す彼女。現実は甘くない。
「さて、始めましょうか。まずは私の動きを良く見ていて下さい、瞬きは厳禁ですよ?」
そう言って自らの剣──ファンタジーでよく見る両刃の西洋剣──を抜刀するイケメン騎士。当たり前だが、様になっている。
「もう一度言いますが、しっかりと見ていてくださいね?」
2度目の忠告を入れ、柄を握る手に力を込めるテレンス。瞬間、その剣士からは確かに只ならぬ空気が発されていた。
右上段からの振り下ろし。踏み込んだ足が極小規模で地響きを招く。間髪入れずに往復の切り上げ。空気の揺れる音。流れるように袈裟斬り。西洋剣の事実を忘れさせる程に切断の想像を容易にさせる。その場で一回転し薙ぎ払い。鋼鉄の盾をも挫かんとする勢いを証明する風圧。エトセトラエトセトラ──
元の世界にも存在した型に嵌った動きは達人が如く。ファンタジー特有の出鱈目な剣技は、それを感じさせない程に洗練された動き。彼の力量は、正しく騎士団団長に相応しいモノがある事を実感した。
「さて、如何でしたか?これが、私の実力です」
ああ、最後の一言以外は完璧だよ。と、内心。
「すごかったです!流石は団長さんですね」
「そうだな。剣とは無縁の生活だったけど、今のが凄いって事が分かる程度には凄かった」
「ふふ、褒めても何も出ませんよ?」
いや、お前がそう言わせるように仕向けたんだろ……
「では、私の剣技も見せた事ですし、そろそろ実技に移りましょう。ここに練習用の剣があります。勇者様方にはこれを最終的には片手で振れるようになって頂きたい」
そう言って剣を手渡される。ので受け取る。って重ッ!?
「お、重いね……」
両手で剣を持ち見様見真似で構える彼女。剣先は絶えず揺れている。
確かに、重い。以前知的好奇心の赴くままに電脳の海で調べた事があったが、得た知識と比べるとかなり違うのでは?確か、2kg前後と記憶していたんだが……
「練習用の剣と言いましたが、練習用だから軽いと誰が言いましたか?実際の重さと比べて倍の重さにしてあります。なのでその剣が片手で振れるようになれば、戦場で片腕を斬られても戦闘続行が可能です」
にこやかに言うが、そんな簡単な話ではない。要は4~5kgある長い棒を片手で軽々振れって事だぞ?正気か?
例えるなら、教師が使うような指示棒や長定規が米袋くらいの重さになるのだ。しかも質量の大半が持ってない方。普通に考えて辛い。
「……それ、本気で言ってんの?」
「勿論」
こいつ、脳筋属性も持ってんのか──心の中で、虚しい叫びが木霊した。
その日は何回も、無駄に重い剣で素振りさせられた。当たり前だが、両手持ちだ。
夜は筋肉痛の苦しみに悩まされた。そんな、2日目。
騎士団最高戦力の実力を垣間見た、数少ない機会だった。