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呼勇至魔記  作者: SaicA
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0日目(1)

 最後の記憶は整理できた。次は…これは大事だ。「自分の事」を整理しよう。

 俺の名前は…「有栖川刀夜(ありすがわとうや)」。そう、刀夜。自分の名前は憶えてる。これは良し。歳は17、高校二年生だ。いや、だったと言うのが正しいか?既に帰還する希望など一縷も無い。あちら側から異世界への転移は可能だが、あちら側に返す手立ては無い。恐らくその可能性は高い、と想定している。読んだ知識、と言うよりは参考書(ライトノベル)では良くある話だ。

 と、ここで思い出したかのように顔を歪ませ舌打ちする。…気分が暗くなっていた。もう少し明るく行こう。明るくフランクに、だ。オーケイ?


 次は記憶だ、忘れ物は?大事な見落としは?記憶の欠如は無いか?恐らく心配ない、記憶には自信がある方ではない。が、ちゃんと覚えている。この前のテストの点も、友人や家族の名前も、子供の頃の思い出も。

 己が己たる自己の確立、自身を構成する過去、それらの証左から転移の際に精神的操作─この場合記憶喪失等─を受けてない事を確認する。

 しかし、もしも、これら全てが創られたものであれば?それは既に考えた。いや、この場合は考える必要は無い。全て創り物なら今の確認も何の意味を持たない。故に、この思考も、行動も、言葉も、創り物で、全て作品をなぞるが如く起こるのならば。哀れにも手のひらで踊り続ける人形(マリオネット)と成り果てるのは不可避なのだから。


 経緯(いきさつ)の整理は、終わった。

 精神的安全は、多分確認できた。

 自分の意志は──考えるまでも無い──


 もう残っているのは、目が覚めた時に真っ先に気づいた──隣で倒れていた謎の少女について…くらいか。

 ─ちなみに、なぜ少女と判断したかだが。何処かの学生であると証明するその制服(ふくそう)。皺が無く綺麗な整った顔立ち。自分よりも確実に低いが、同学年女子の平均的な身長に近い背丈。これら材料から、恐らくほぼ同年代の少女と判断した─

 せめてこの頭の痛くなる現実から逃れようと、明るく前向きでフランクな感じで頑張るつもりでいたのだが、6秒と持たない。諦めよう。難しい言い回しや思考を好むのは、後天的な呪いだ。13~4歳頃に囚われ、時以外の治療法の存在しない呪い(ちゅうにびょう)に、ね。

 …自問自答に、フランクも何もないのだけどな。

 うん、何だか悲しくなってきた。矢張り現実から目を背けるのはやめよう。残念ながら考えたくも無い現実と向き合う時が来たのだ。落ち着いて現状の整理といこう。


 さて、此処は何処なのだろうか。真っ先に出た感想が、これだ。

 この部屋だけで何畳あるのかと考えさせられる広さ。元の世界の建物の内装を微塵も感じさせない荘厳的な造り。機械的で、且つ職人の仕業を思わせる設計と装飾。柱の一つ一つからも感じる物々しさ。人気(ひとけ)をまるで感じられない雰囲気。足元には、諸悪の根源(まほうじん)。恐らくは、ここが「王宮」…いや、「神殿」と言われるような場では?

 人一人を対象として展開されたと思わしき魔法陣。無機質で生活感の感じられない呼び出し先。隣には未だ目覚めぬ謎の少女。これらから、導かれる答えは?


 1.この神殿で奉る何らかの神性的存在より呼び出された。この場合、目覚めた時点で何かアクションが起こらないのが不可解。

 2.この神殿の持ち主及びそれに属する者に呼び出された。この場合、何故このような場に呼び出されたのかと、見張りは愚か人の気配すら無いという点で不可解。

 3.それら以外、想像の及ばぬ領域での出来事であり、たかが人間の力ではどうにでもならない時。この場合、お手上げ。


 つまるところ、こちらの常識では不可解な点が存在する。と言うよりも、知識(じょうほう)が足りない。

 …やはり、情報を集めるしかないか…

 出来るならば避けたかった。思考してるこの間にも自然と目覚めてくれるのをずっと待っていた。だけど、そうは問屋が卸さない。観念した俺は、意を決して眠る少女を起こす事にした。

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