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呼勇至魔記  作者: SaicA
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30日目、快晴(3)

 この世界に来て、真っ先に覚えた事。

 それは、玉座の間への経路。これだけはしっかりと、頭の中に叩きこまれていた。

 記憶の指示に従い、歩いて行く。この際、人とは一切出会っていない。


 「恐らく、勇者に都合がよくなるというのは本当だ。現に、言葉が通じる以上認めざるを得ない」

 俺は誰かに聞かせるともなく、論じ始めた。

 「だがそれは真実であって、全てが真実ではない。一部の現実が隠されて、真実へ転じている」

 声は通路に、いやに響いた。

 「もしも、都合の良いように『見えてない』としたら?もしも、都合の良い事実だけ『隠されて』いたら?」

 記憶のナビゲートは終わり、終着点へと辿り着く。

 「もしも────出会った人間も出会わなかった人間も全て、真実でないとしたら?」

 豪勢な扉を開き、ここに来た日と、同じ場所へ。

 見えたのは、何も変わらぬ景色。唯一、人がいないという点を除いて。


 「これは俺の推測だ──勇者召喚はかなり大規模な魔法だった。代償も大きかった。負傷した人は多いし生命の危機な人だっていた。これらは全て事実である」

 玉座へ向けて歩きながらも尚述べ続ける。王の欠けた王を称えし部屋は、人の気配も無く唯々静かであった。

 「ただそれが、余りにも大規模過ぎただけだった。……違うか?」

 返事は無い。

 「俺はね、不思議でしょうがなかった。何故たった二人の人間に騎士団長が就くのか。何故最初の日以外その騎士団長以外人を見ないのか。何故この城から出れないのか。何故何処からも人の声が聞こえないのか」

 それはパズルのような、謎解きを課された長文問題のような。


 「本当はあの男を制圧した後ここを制圧するつもりだった。でもそれは止めた。『視えた』んだよ。都合の良い世界が、俺に都合の良い様に剥がれ落ちて」

 その瞬間。視界を埋める罅。激しい音を立てて崩れ落ちる景色。これは、俺が見ている「都合の良い心象風景」に、他ならない。


 見えたのは、全く違った景色。


 血痕で塗り潰された、朱殷色の赤い床。


 空間の端々に、積み上げられた屍。


 今際の際に残されたと思しき、爪や刃の痕。


 自決も他殺も垣間見える、死体の傍を転がる凶器。


 生者の存在を受け付けない、酷く凍えた空気。


 言うなれば、死屍累々。正に、地獄。


 これが、隠されていた真実。


 常人ならばこの雰囲気に呑まれていてもおかしくはない。いや、俺がそうなっていてもいいはずだった。

 「因果応報、だな」

 だが、代わりに口から無意識に零れた言葉は、酷く冷めた軽蔑の言葉だった。


 「これが、お前の求めた結果か?王国の筆頭魔導士さん。いや、テレンス殿?」

 そう、誰もいない玉座に向けて問う。

 「良く、分かりましたね」

 影から現れるように、その男は出てきた。それは、良く知る顔だった。

 しかし、装いは何時もの騎士の鎧ではなく、神官のような姿。

 「何故分かったか、聞かせて貰えますか?」

 「簡単な話だ。俺がお前より優秀だった。それだけだ」

 俺だって何の情報も無しにここまで辿り付いた訳じゃない。現実と、偶然と、真実。これらの要素が噛み合い、混ざり、答えに導かれたのだ。


 だけどそんな事よりも、俺はもう既に限界を迎えていた。

 「俺は最初から怒っていた。自分の世界から俺を引き剥がしたお前に。俺は憎んでいた。好きでもないのに閉じ込められたこの世界を。俺は復讐したかった。身勝手で自分の都合を押し付けた、お前達に!!」


 駆ける。何かから逃げるように。


 ──此れは逆恨みではなく、正統な復讐だ──


 踏み締める度に、床は沈み、城は揺れる。


 ──押し付けられた理不尽への、憎悪──


 握った剣は雷を纏い、劈くような音を立てる。


 ──そこに善悪は無く、赦罪の概念も無い──


 音速にも迫る速度で肉薄する。あと、一歩。


 ──そう。此れは、不幸が招いた悲劇なのだ──


 「うあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 悲鳴にも似た叫びと共に、心臓が在る一点をただ正確に貫く。勢いに任せ、そのまま壁まで叩き付けた。

 諸悪の根源は、向かう俺に対して立ち竦むのみで、何の抵抗もしなかった。


 「カハッ………………お、お見事…………」

 飛び散る、血。絞り出すように掠れた、声。

 「………………」

 俺に返す言葉は無く、ただ沈黙するだけ。

 「異界の……勇者達よ…………」

 辛うじて出される言葉。遺言くらいは、聞いてやろうと思った。

 紡がれるのが呪詛であろうと、構わない。一層、その方が良いとすら感じた。

 「君達を…………帰す方法、は…………無い…………」

 初めて聞く事実。だが、驚きは無い。

 「……せめてもの、贖罪、として…………グフッ…………言わせて……くれ…………」

 喀血しながらも、全ての力を出し切らんとする。その姿は、悲壮に満ちていた。

 「身勝手、にも…………我々の……都合で…………呼び出して、しまった…………」

 知っている。ああ、知っているとも。だから、もう喋るな。

 「……それを…………赦してくれ、とは…………言わない…………」

 もういい。それ以上言うな。それ以上は、その言葉を言うのだけは、止めろ。

 「………………本当に、済まなかった…………」


 そう言い残し、涙一筋流すと共に、貫いた身体からは力が抜け落ちた。

 死体から剣を引き抜く。剣を握ったその手は、その身体は、赤く、朱く、返り血に染まっていた。

 生まれて初めて、確かに人の命を、この手で絶った瞬間だった。

 この時の俺は、酷く冷たい、感情の抜け落ちた目をしていたらしい。

 

 無人の廃城を出た俺達は、城下町へと来ていた。

 城下町は、人も、死体も、何もなかった。恐らく、あの男が全て処理したんだろう。

 一通り確認した後、武器屋で手に馴染みそうな剣を拝借したり、身支度等の諸々を片付ける。

 人がいないなら、所有権もクソもあるまい。うん。そう自分に言い訳して、罪悪感を投げ捨てる。


 「……さて、本当にいいのか?」

 ここまで苦言の一つも無く付いてきた彼女に問う。

 「うん。これも何かの縁だし、一蓮托生ってやつ?だから、私は君についてくよ」

 笑顔で返ってくる頼もしい言葉。

 「それに、こんな所で一人でいるのも寂しいしね。一人より二人。でしょ?」

 「ははっ、それもそうだな」

 そう言って、隣に並び立つ彼女。

 異世界に飛ばされた二人の勇者。行先は、未定。

 「じゃあ、行くか。……エリー」

 「! うん、行こう!」



 この世界に来てから、30日目。


 天気は、雲一つ無い鮮やかな晴天。


 輝き落とされる陽の光は、まるで新たな勇者の旅立ちを祝うよう。




 「それに、『私』の命は、貴方の物だから」


 彼女のその言葉は、誰に聞かれる事も無く、霧散した。




 そして、舞台は2年以上の歳月を経た、未来へ。


次とエピローグで終わりです

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