30日目、快晴(2)
一応言っておくと、俺は至って普通の人間だ。こんな人外の動きが可能なのは理由がある。
剣が片手で振れそうな頃、俺は確かに違和感を覚えていた。
人間は、こんなにも早く成長するものなのか?と。
そこで俺はふと思い出した。勇者たる俺達には「祝福」を受けている、と。
しかし、それを調べようにも方法が無い。対照実験が理想だが、比較対象がいない。
……いや、いない事もないが向こうも勇者だ。
取り敢えず、剣以外の事で試してみよう。まずは基礎体力とか、その辺りから手を付けて行けばいい。
結果、ドンピシャだ。軽い筋トレから始めてみたのだが、こちらに来る前と大して変わらないまま幾日が過ぎた。
剣はそれこそ昨日の自分以上に振るえる。しかし筋トレの記録は上達せず、基礎体力もあまり変わらない。
これはなんの差がある?
暫定的に「剣装備時、全能力値が上がる」という事にした。
まるでゲームだな。と、自嘲的に笑ったのは覚えている。
────これは後の話だが。差、というか条件の違いは判明した。
それは、勇者の矜持を示す時。世界を変革させんと、意志を持った時────
力比べも酣に、振り払い距離を取る事で仕切り直す。
さてこの後どうするか。何が有効かと思案する。あれもダメ。これもダメ。それもダメ。と来たら次は──
「これしか、無いよな」
呟き、大きく後ろに飛ぶ。何度も飛んで、これでもかと離れる。
追撃の気配は無い。好都合。距離、約百メートル。
見据え──奔る。いつになく全力で、駆ける。
最大限の助走で最高速に達する。一陣の風と成る感覚。
さてここで物理の問題だ。速度が2倍になると、衝突の威力は何倍になる?
答えは、2分の1掛ける、質量掛ける、速度。……の2乗。とどのつまり、4倍。
さあ、神速の力を味わえ。加速した思考で嗤う。激突まであと、0秒────
と、いう所で、俺は手にしていた剣を利用し、運動エネルギーの殆どを地面に叩きこんだ。突き刺さる剣。抉れる大地。対価は、一時の飛翔。
そこで、戦闘中に初めて、俺は敵の顔をじっくりと観察た。
その顔を染め上げた感情は、驚愕と、困惑と。或いは、屈辱か。
奴の足は氷の檻に囚われ、動けぬ木偶と化していた。
その様を見届けた俺は、現状を作り出した禍根、即ち氷の魔法を地面へと放った彼女の隣へと降り立った。
「上出来だ」
「貴方の技量在っての結果ですよ」
言葉を交わし、互いに称賛を送る。
「さて勇者様、これはどういう事でしょう?いや、言い方を変えましょう。この後、どうするおつもりで?」
「そんなの、決まってるだろ?」
背中越しの会話。一歩一歩と近付いて行く。
「安心していい。その氷も直に消える。最も、全て終わった後での話だが」
立て掛けられていた剣を取る。勿論、練習用でも、模擬戦用の物でもない。刃の付いた、敵を切り裂く為の剣。
「まあ、足の1、2本くらいは潰しておくけどね」
自分でも驚く程、酷く無感情な声が出た。だが、それに気付いたところで腕は止まらず。手にした剣は、既に両の脚の腱を切り裂いていた。
怨嗟の声も、断末魔も、苦痛に喘ぐ音も、聞こえなかった。
何故なら、目の前の男は、最初から声が出せる状態ではなかったのだから。
「……行くか」
そして、俺達は死体一つを残した訓練場を後にした。




