30日目、快晴(1)
目が覚めた。
窓から差し込む朝日が眩しい。
そこで気付いた。ああ、今日は珍しく、雲一つない快晴なのだ。と。
こんな日は、朝から優雅に紅茶でも飲みながら高貴さを醸し出したくなる。
まあ、俺は至って普通の一般家庭育ちだから気品なんてものは持ち合わせてないのだが。
そんなどうでもいい事を考えつつ、俺は身支度を整える。袖を通したのは、ここに来る時着ていた制服。
急に呼び出された俺達に替えの服など無い為、こっちに来た時予め衣服は何着か渡されていた。普段はそれをローテーションして着ていたので、こうしてこの世界で制服を着るのは今日が初だ。
ちなみに、以前彼女に頼んで水を使った魔法で洗濯してもらっている。水洗いできるタイプでよかった。
着替えを終え部屋を出ると、同じタイミングで部屋を出た彼女と目が合った。身に着けているのは、制服。
「おはよう、レン君」
「ああ、お早う」
なんてことはない、普段と変わらぬ挨拶。
但し、ここからの二人に会話は無い。それも、変わらぬ光景。
別に、示し合わせた訳では無い。話の種が尽きた訳でも無い。そういう取り決めをした訳でも無い。
この距離が、お互いにとって丁度良かっただけの話なのだ。
そのまま、互いに無言で朝食を終える。それを見計らったかの如く、テレンスが現れる。これも、いつもと同じ。
「お二方共、今日はこちらに来られた時の恰好なのですね」
中々に目敏い。まあ、確かに特徴的な服ではある。
「実はこの服は隠された秘密があってな。俺達の世界に魔法は無くても、それを補う「科学」ってのがあるんだ。まあつまり、これを着てると普段より動きやすくなるんだ」
「ほう、それは興味深い。後で見せて貰っても?」
「残念だけど、中身は俺にも分からないからどうしようもないな」
それは残念。と諦め顔のテレンス。
勿論、こんな服にそんな大層な機能は無い。
だがそれを補う為の、余り有るメリットは確かにあった。
相変わらず人っ子一人いない訓練場へとやって来た俺達は、早速と言わんばかりに剣を取り、構えた。
「では、その「科学」と言う力を見せて貰いましょうか」
「言われなくても、今日は『特別』だ」
言うが早いか、俺は全力で眼前の男の背後を取る。時間にして瞬き程の間。
そのまま無防備な背中を斬り付ける。が、何かしらの方法で存在を気取られていたか、背面に回された剣で受け止められる。
ならばと剣を矢の如く引き絞り、全力の刺突を繰り出す。だが先刻の打ち合い衝撃を利用され、距離を取られていた為、俺の剣は虚しくも空気を刺し穿つのみだった。
一度やった行動を繰り返すのは愚者の極み。今度は真正面から向かっていく。
剣を振る。搗ち合う。剣を振る。搗ち合う。これの繰り返し。どっちの剣が速いか、速さ比べだ。
今の剣に大した重さは込められていない。だからと言って、怒涛の連撃を受けるがままと言うのは、無謀なだけである。
単純な速度だけなら俺に分がある。だが、どうやら先方はこちらの動きを読んでいるかのか、俺の動きに付いて来ている。
然もありなん、経験値で言えば俺は殆ど零。元々ただの一般人だったのだ。これくらいのハンディキャップは合意の上。
このまま続けても襤褸が出るだけだな──そう思い、無理矢理に力を入れた一撃を横に払う様叩き込む。
後手に回る代償だ。内心ほくそ笑む。競り合っていた弾かれ、態勢を僅かに崩した。
そんな隙を俺が逃すとでも?
即座に全力の一撃を見舞う。少しでも俺に有利になるよう、上段からの振り下ろしを選んだ。
だが、奴もそのまま受ける程愚かではない。斜めに構え、正面から俺の剣を受け止める。鍔迫り合いの形。
速さ比べの次は、力比べ。
だが、ここでも地力の差が影響する。矢張りと言うか、力比べは拮抗し、事態は硬直していた。
嗚呼、こんなものか──と、俺は失望にも似た思いを感じていた。




