10日目、雨
「なあ、未だに一回も見てないけど筆頭魔導士ってどんなやつなんだ?」
魔法の訓練中、俺はふと気になった事を何となしに尋ねてみた。
人間、やってる内に慣れは来るもので、今では魔法を使いながらも軽い会話程度なら可能なのだ。
だが、威力を高めようとしたり、形状を想像通りに変化させようとしたり、効率良く発現させるのはそれなりに集中力が必要な訳で。まだまだ精進が必要なのだ。
相変わらず、隣で火の玉を使ったお手玉なんて事を平然と遣って退ける彼女には無縁な話だろうけど。
……熱くないのか?いや、河豚は自分の毒で死なないし、つまりはそういう事なんだろう。俺はやりたくないけど。
ともかく余裕の出来た俺は、前々から気になっていた事を聞いてみたのだ。
「いえ、お二人共一度は見ているはずですよ」
はて?そんな奴、見た事あったか?
一度は見たと言い切れる。と言う事は絶対どこかのタイミングで見てる、若しくは会ってる。って事なんだろうけれど……
「もしかして、こっちに来てから最初に会ったあの人?」
最初に会った人……?俺の中で、最初に会ったあの人、と言えば君なんだが……
「ほら、レン君。いたよね?それっぽい人が何人か兵を連れて、さ」
「……ああ!あいつか!あの神官っぽい服着た偉そうなやつ!」
いたいたそんな奴、と手を叩き納得する。確かに、アイツが筆頭って言われても納得だ。それっぽかったし。
「その通りです。彼はギャビン=ブルワー。ここの魔導士の中でも一番偉く、それなりの地位も持ってる為、非常に厄介な男です」
明らかに棘の入ってる言葉でそう言う騎士団団長殿。過去に何かしらあったであろう事は容易に想像できた。
「それで、突然どうしたんです?そんな事を聞く、と言う事は何かしらの意味があるのでしょう?」
「そらそうだ。だって、今までまともな魔法の講義なんて受けてないんだぞ?そろそろ、実際の魔導士から話も聞きたいってもんだ」
時々テレンスが持ってくる、魔導士の書いた書物というのは何度か目にしたが、正直あまり参考にならない。
大多数がどうでもいい研究のレポートのようなものなのだ。あ、でも水を使った洗濯し辛い服を清潔にする魔法は役に立った。俺は水が出せないけど。
「確かに、色々気になるよねえ。私もそろそろ火力を上げたいな~。なんて、思ってたし」
これ以上を求めてどうすんの、君。
……いや、向上心があるのは素晴らしい事だ。かの偉大な小説家も作中でそう言っているしな。うん。
「そうですか……ふうむ。困りましたね」
と、露骨に困ってそうな声で露骨に困ってそうな態度を取るテレンス。やっぱ地味に腹立つなコイツ。
「分かりました。まあ、そのうち時間を取ってもらうとしましょう。掛け合っておきます」
分かってもらえたようで何より。
そうして、いずれ来る日の為に今日も魔法技術の向上に精を出した。
次に繋がる為の建設的な事が出来た、10日目の話。
「では、本日の訓練はこれで終了です。お疲れさまでした」
そう言って訓練場を後にするテレンス。それを見届ける、勇者二人。
この後、俺達は互いに自室に戻り風呂や夕食を摂って寝る。それがいつもの光景だ。
なのだが。
「悪いが、今夜俺の部屋に来てくれ。大事な話がある」
と、耳打ちする。
正しく伝わったか、こちらを一瞥した後、何も言わずこくりと頷く彼女。
その夜、俺の部屋を訪れた彼女を見据え、大仰に両手を広げて、俺は高らかに、言った。
「よく来てくれた。さあ、君の意志を聞こうじゃないか──」
遠くの方で、雷の落ちる音が聞こえた。
これが、此処に来てからの、俺の最初の一手だ────




