カミサマたちはマイペースな聖女が大事
俺たち神獣は基本的に亜空間と呼ばれる空間の裂け目のような場所に住んでいる。
亜空間は魔力の濃度が高く、魔力の流れを調整できる力を持って聖女以外の人間は魔力で溺れ死んでしまうし、第一に亜空間に入ることすらできない。
偶々迷い込んできた今回の聖女の子供が、どうも自分の力に気づかず無意識のうちに魔力の流れを調整していたのには驚いたけどねー
その時の俺は国は守護していたものの、人間自体好きじゃなかった。
今までの聖女全員というわけじゃなかったけど、俺の住処にやってきては力を貸して欲しいだの俺に寄り添いたいだの鬱陶しかった。
人間でいうなら勝手に人の家……とまでは言わないけどさ、そうだな、庭に入り込んでそのことになーんの言葉もかけずぺらぺら話してくるみたいなもんだよ。
酷い奴は俺にしなだれかかってきたり色目使ったり………
俺は基本人間に近い姿でいる事の方が多い、その方が燃費がいいからね、人間の姿は結構見目がいい方らしい(俺個人が見た目を詳しく設定したわけじゃないし、人間の基準とか知らないからね)
聖女としてちやほやされまくった奴の中には勘違いして俺すら其奴に恋慕を抱くとでも妄想してきた、俺の心に寄り添いたいとしなだれかかってきた、お前らの自己満足の為に俺を利用する気か?この、俺を?
たしかに俺は国を守護してはいるが、人間が好きだと言ったことは、一度もないが?
ただ地形と環境がいい場所だったから、そんだけの理由で守護しただけの、この、俺を
悪いが俺は、気に食わなければ何でも食い潰す、そういう類の神獣なんだよねー
何人か聖女を殺しては外に放り出して、そうして俺に当時の聖女が、俺を国を滅ぼそうとしてるだとか言い掛かりをつけてきた時があった。
あのさぁ、先に“無礼”を働いたのはどっちだよ。第一ね、本当に滅ぼそうとしてたら守護とくっての。
その時の聖女は当時随一の力を持っていて(って言ってもレイラと比べれば埃みたいなものだけど)、俺の住処の入り口を無理矢理開けて聖女の力を付与して、一時的に亜空間で生きれるようにした(色目使ってたらしこんでそそのかした)兵士と共に乱入してきやがった。
あぁうざったらしい、俺の庭に無許可で入ってきて我が物顔して俺の機嫌を悪くした奴以外を殺したことはあったか?
かつての聖女供にも言ったんだけど?何度も、俺を怒らせたくないなら二度と来るなって言ったのにその後も何度もなんどもきた学習しなかったから殺したんだよ、勝手だ?
当たり前だろ、いつカミサマが人間に都合がいいと錯覚してた、盲信してた。
かつてノアの一族だけ船に乗せてそれ以外は海に沈めたりしたんだよ、俺たちは自分本位な事以外どうでもいいんだよ
その時の聖女も兵供も全員殺して外に捨てた、そのせいで血で汚れた庭を元に戻すのに30年近くかかった。
その時の国王は聖女がそこまで阿呆だった事を知らなかったらしい、顔を青くして教会で何度も何度も謝っては守護を解かないでほしいと懇願した。
だから、守護を解かない代わりに聖女をきちんと管理しろと命じた。
王子と婚約を交わし、国王の元で二度と今回のことが起きないように両者を管理しろと(今になって思えばそんなことしなきゃよかったよ、王子の方が馬鹿だったらどうしようもないもんね)
今回のことを教訓にさせれば俺の庭に我が物顔で入って来る馬鹿もいなくなる。
……そう、思ってたんだけど。
聖女が死ねば次の聖女が生まれる、けれど聖女の力は遺伝性のものじゃないし突起した見た目の特徴があるわけじゃない。
何処かの家でひっそりとうまれ、その力を発揮する事でようやく見つかる。
前回の聖女が死んだから国は必死に聖女を探しているらしい、あの時の悲劇を起こさせない為にも。
聖女の力を無自覚に使いこなしながら俺の庭にひょっこりと迷い込んだ子供を王宮に突き出してやろうとも思ったが、俺がそこまで面倒見るのもめんどくさい。
俺の庭でうろちょろしていた子供は俺を見つけるときょとんてした後、はっと何かに気づいたように俺に近づいてきた。
「ここ、おにいさんのおうち、ですか?」
「…………まぁ、庭みたいなもんだけど?」
子供は俺の言葉におろおろとして頭を下げた。
「ごめんなさい、おにいさんのおにわって、しらなかったの」
……へぇ、驚いた。
まぁここが何で俺が誰で自分がなにとか知らない幼い子供だったとはいえ、ここに入ってきた人間の中で始めてだね、無許可で入ってきたことを謝ったのは。
おもしろい、これは初めて見るタイプかも、ちょっと興味が湧いた。
「いいよ、別に」
「ほんとう?おこってない?」
「そうだね、怒ってはいないよ」
安心したように息をはいて、しばらく“おはなし”をして、「おじゃましました」と言って帰った子供はその次の日もやってきた。
律儀に入り口の前で「はいっていーですか!」と聞いて、いいよといったら「てみやげです!」と毎回焼き菓子やらを持ってきた。
子供______レイラはやってきてはつまらない世間話をして、時折返事をしてあげれば嬉しそうに声が弾んだ。
周りの人間には「姿の見えないお友達」、つまりは精霊だったり、人間ではない種族。
俺みたいな国を守護するほど、一柱で強大な力を持つ奴と違い、精霊やら妖精やらはその女王といった一部の上位以外は普通の人間には見えない、聖女やもしくは、魔力量が大きくなければ。
レイラは変わり者として、特にコンセンサスを求める人間の中でも“普通と違う”ものには無邪気に爪弾きする子供の中では浮いた存在だった。
両親はレイラを大事に育てていたらしいけど、恐らくは、その話をしても馬鹿にせず時折は返事をする“普通と違う”俺に共感のような、かつての聖女のようなそれを抱いていたから______そう思ってたんだけど……レイラは昔から、俺からしても“変わり者”だったらしい、ほんと、昔から思うようにならない子だったよ。
何で毎日俺の所に来るのかと聞いた時、レイラはきょとんとして首を捻った。
「だって……おにーさん、ここでひとりだったでしょ。わたしね、かわりものらしいから、おともだちとおかあさんたちいがい、いっしょにお話しとかしてくれるひといなかったから」
______あー、やっぱり、失望じゃあないけど、少しがっかりしかけた俺にレイラは言葉を続けた。
「ひとりじゃ、ひまでしょ?わたしも一人だから、いっしょにおはなししてほしくて。おともだちも、おかあさんたちも、いつもいっしょなわけじゃないから、一人でひまなの。おにーさんもひまそうだから、わたしとおはなししてくれるかな、って」
______つまり、この、神獣の、カミサマの俺を、暇人みたいだったから、それだけの理由で?
寂しいとか、だれか慰めてくれたり一緒にいてくれたりする人が欲しかったとかそんな訳じゃなくて、暇そうだったから!?
ていうか、普通それを素直に俺に言うって、どうなの。
「あ、さいしょはそうだったけど、まいにちくるのはおにーさんとおはなしするの、楽しいからだからね!」
「……くっ……くくく……あーはっはっはっ!!まじでか!たったそれだけ?!そんなこと言ったの、しかも俺本人に直接言うとか、ほんと、あっはっはっは!!!」
ばからしい、ほんとばからしい
毎度毎度想像つかないことしてくれるよこの子は、まず第一に入り口の前で入っていいですかって聞くこと自体おかしかったわ、そういえば
人間一括りに考えてたのはだれだよ、俺だわー!これじゃあ今までの、あの時の、俺を化け物と呼び腐った聖女供よりもたちがわるいじゃん!
あー……ほんっと、ばからしい……
「そういえばさぁ、俺の名前すら聞かなかったよねお前」
「?おしえてくれなかったから、きかれたくないのかなって」
「うん、人間なんぞに俺の名前呼ばせるかって躍起になってたからね。ただ、うん、レイラは“気に入った”から。俺の名前呼んでよ」
______俺の名前はナーガラージャ、東じゃあ九頭龍なんて呼ばれ方もされるんだけど……好きなように呼んでよ、レイラ。
“お気に入り”には祝福と加護を、その身に降りかかるあらゆるものから守ってみせよう。
お前に害なすものすべて、この毒で滅ぼしてあげよう。
「______カミサマはさァ、傲慢で横暴で平等じゃないんだよねー。“お気に入り”の子に害なすものは、何であろうと滅ぼす、だってそんなもの、いらないでしょ?」
恐怖で顔を引きつらせている第二王子であるカロル、泣き叫ぶアリシア、その他、つまりはあのパーティでレイラを嵌めた、今までレイラを貶めようとしていた彼等を足蹴にする。
その後ろでハーピィのような外見の空神がケラケラ笑い声をあげ、双子の精霊が無邪気残酷に声をだす。
「あハ、レイラのこと傷つけようとしたもんネ、レイラを都合のいい悪役にしようとしタ、悪いことしたラ、罰せられるのが人間のルールなのニ、なんでお前らがレイラを酷くいうノ?」
「めだま、した、ひきちぎる?」
「あたま、あし、きりおとす?」
「い、いや、たすけ、なんで、……ちがう、そうよ、あのおんなにむりやり、そうよ、そうよ、あの女に無理矢理操られてるのよね、わたしが、たすけてあげる、か、ら"」
「誰が、いつ、お前が口を開いていいと言った?操る?俺たちを?レイラはそんなことしないし、お前達の言う“カミサマ”を、一人の人間が操るなんて、できるわけないだろ?……嗚呼嫌な事を思い出した、たすけて、“あげる”?誰が?」
どろりとナーガラージャの体から毒が溢れる。
死ねないのに死ぬほど苦しい痛みが襲って、カロルが喘ぎながら言葉を紡ぐ。
「ひっ、お、おれは、このくにの、おうじで……そ、うだ、そうだ!おれは、わたしは、こいつらなら、どうしてもいいから、たすけ、」
「あー、そうそう忘れてた。お前とっくに王位継承どころか王子ですらないよー。第一の方の王子が、聖女を今まで虐げて、王族としての配慮も立ち振る舞いも欠けて、阿婆擦れを聖女と公表して……第一にそれもニセモノ。そして俺たちの怒りを買った。そんなやつを庇うほど王様は寛大じゃない、だーって国民もろとも滅ぼされるかもしれないもんなぁ!」
無邪気な笑顔が恐ろしい、ナーガラージャのその言葉に同調するように空気がうねる。
「だからお前らがどうなろうと国は関与しない、レイラが望んでなくても、俺たちは許せないし許さない」
「だっテ、レイラに酷いこといっタ、酷いことしタ、レイラに全部なすりつけようとしタ」
「ぼうりょく、ふるった。ぜんぶ、れいらにおしつけた、じぶんをたなにあげて」
「けんりょく、ふるった。ぜんぶ、れいらになすりつけ、じぶんをたなにあげて」
カミサマはな、自分のお気に入りが一番大事なんだよ。
その子が幸せならそれでいい
その子に害をなすものはいらない
お前達はレイラに害をなした、それじゃあ、天罰が下るべきだよなァ?
ノアの一族以外堕落が蔓延した地上を洗い流して無くしたように、お前らも“居なくなって”然るべきだよなァ
だって、お前ら、俺たちに喧嘩を売ったもんなァ
カミサマの“お気に入り”に手を出したんだから、知らなかったじゃすまねぇぞ、餓鬼供
あぁ、大丈夫、安心しろ。
死にたくなるくらい苦しいかも知れねぇが、死にはしない。
俺たちの気が済めば解放してあげるよ、その後は人間の方に任せる。
当初は死ぬまで牢獄でって言う感じで決まったらしいけど、思いのほか批判が殺到みたいだから、その後に死ぬかも知れねぇけど、まぁ、どうでも良いか
「さァて、“お仕置き”の時間だ、覚悟は出来てんだろ?」
_____それから、数日後
聖女を騙ったアリシアや、国家機密を犯し学園内でも暴力なども犯して居た元王子カロル、あの時の彼らの言う断罪を引き起こした彼らは処刑された。
当初は牢獄に死ぬまで…と言う裁決のようだったが、民衆の怒りや批判の声、神の怒りを買ったことなどの結果処刑が下されたのだ。
処刑されるその直前まで彼らは虚ろな瞳で誰かに謝り続けて居たという、天罰を受けたのだと、誰かが言った。
聖女を騙るというその罪深さ、それらは後世まで受け継がれることとなる。
そして、レイラが本物の聖女であることを公表した。
今までそれらを公表しなかった為にこのような事を引き起こしてしまったことを国王とともに謝罪した。
そしてこれから先、国の為、民のためにその身を捧げると宣言したレイラは、名前だけでなく、確かに聖女だったと、受け継がれることとなる。
ナーガラージャ自体は蛇の王様という事なので王様みたいな意味です。蛇神ですが日本にわたるに至って龍神になったそうなので、このお話では龍神としました。
ナーガラージャと呼ばれた蛇神様の中で日本の九頭龍とイコールになったナーガラージャが居たそうですので、このお話の龍神は九頭龍さんになりました。
前回結局ざまぁ要素を書かなかったので龍神との出会いと一緒に書かせていただきました、結局龍神の思い出で殆どですしざまぁ要素は薄めになりましたが……