知らない場所で目覚めました。
目を覚ますと、化け物によって壊されていく村のど真ん中に立っていました。
「って、ちょっと待って。」
訳分かんないってッ!!
目を開けたら厳つい狼みたいな化け物が目の前に居るとか聞いてないんですけれども!?
と、狼狽えている暇もなく、けたたましい鳴き声が耳を裂く。
咄嗟に足が動いた。
化け物の足の間をすり抜け、走る。
図体のでかい化け物は、案の定方向転換に時間が掛かっているようで、直ぐには追って来ない。
(出来るだけ、遠くへ・・・!)
もつれそうになる足を必死に動かし、見知らぬ街を駆ける。
走って、走って、走って。
辿り着いたのは、行き止まりだった。
瓦礫によって打ち止められ、それ以上先には進めない。
そしてその瓦礫の下からは、誰かの足が、手が、または上半身が突き出ている。
この下には一体、何人の人間が埋まっているのだろうか。
「何、これッ・・・!」
荒い息遣いが聞こえ、振り返れば直ぐそこに化け物。
じりじりと、獲物を追い詰めるために近づいて来る。
「あ、ああ、そっか、これはきっと、夢だ・・・だってこんな、こんなこと」
化け物の足が、振り上げられる。
しかし、それは自分に向かってではなく、自分の真横に叩き付けられた。
「ぎっ」
地響きと、何かが潰れる音と、奇妙な声。
潰れたのは、瓦礫から上半身だけが突き出していた男だった。
恐らくまだ息があったのだろうが、今や彼の消息を心配する必要はない。
人間の跡形もない、只の肉片になったのだから。
体に、生温い感覚が伝う。
飛び散った血肉が、掛かったのだろう。
強烈な鉄の匂いが鼻を突く。
ここが現実である事を、神様に突き付けられた気がした。
「う゛え゛っ」
吐き気に頽れる自分を、化け物は見つめている。
獲物を嬲ることを愉しむかのように、舌なめずりをして。
死ぬのだ。
自分はこれから、この怪物に喰われる。
来るであろう痛みを少しでも和らげようと、目を強く瞑った。
「おるぁっ!」
ずしゃり。
突然の怒声に、ハッとして目を開く。
目に飛び込んで来た、真っ二つに裂かれていく化け物に、更に瞠目した。
「よっしゃ、いっちょあがり。」
声の主は、茶髪の青年だった。
太刀を肩に担ぎ、安堵の溜息を吐いている。
死なずに、済んだ。
それだけを、やっとの事で頭が飲み込み始める。
最大限張っていた緊張の糸がプツリと切れ、そのまま目の前が真っ白になった。