表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エリスが居る場所  作者: 改革開花
二章 心の置き処
57/117

29 外道魔術師の終わり


「な、これは……!」


 余裕綽々だと椅子に座っていた男は、セシリアの魔術の発動と共に椅子から飛び上がる――魔窟は塗り替えられた。瘴気は吹き飛び、室内を充満しているのは光だ。見る間に色を変え、決して同じ色に留まらない靄の様な光が、この部屋を満たしている。


「空間を飽和するこの魔力量……。小娘、一体何をした!?」


 男の言葉使いが荒くなる。表情からは人を見下していた様な笑みが消え、吐き捨てるように言葉を放つ。それこそが男の本性だと、この場に居る誰もが感じ取った。

 本性を露わにする男にセシリアは手の平を向けると、


「ここは私の箱庭。あなたみたいな奴が出る幕なんて――無い!」


 セシリアの怒号に感化された様に空間が輝き、輝きの間から水の縄が飛び出した。どこから生まれたのか、それは分からない。気付けばそこにあって、ずっとそこにあったような気がする――その水の縄について、エリスは何と無くそんな風に感じた。水の縄は全身をぐんとしならせ、男の方へと迫る。男は身を守る為か、水の縄へと手を向けて――驚愕に目を見開いた。


「な、何故だ! 魔術が、私の魔術が発動しない……!」


 男が驚き、立ち竦んでいるその隙を突いて、水の縄は男の身体を締め上げた。足に手に纏わり付き全身へと絡み付いて縛るその様子は、縄というよりは蛇と言うべきかもしれない。見た目が生物らしく無いだけで、拘束の手法自体は蛇のそれだった。


「くっ、何故だ……。この部屋に仕込んでいた全ての魔術式が、私から体外に出力される全ての魔力が失われ(・・・)ている(・・・)。小娘め、一体何をしたのだ!?」

「ここは私の箱庭。あなたみたいな輩の自由は、認めない」


 セシリアは水の縄に囚われ、立ったまま悶えている男へと顔を向ける。その顔に飾られている二つの翠の宝石は、普段の彼女の目からは想像出来ない程に冷えた色をしていた。男は思わず、自分が捕えられているのも忘れて後退りしようとして、体勢を崩して床へと倒れた。セシリアの視線が必然、見下ろすものとなる。


「ミ、ミカエラァア! 私を、守れぇええ!」


 男は怯えた声で、自身の傀儡へと命令を下す。その言葉にハッとして、エリスとアウレニアは先程まで対峙していた相手を見るが、そこには無表情で直立する、不動の人形があっただけだった。

 男の目に、絶望が灯る。


「まさか……。主従権を、血の契約を書き(・・)変えた(・・・)のか? そんな馬鹿な! 魂に刻む血の契約の改定、しかも術者の意思に反した強制の改定など、出来て堪るものか。そんなのは我が帝国、否、王国や共和国を含めた三国の魔術師の誰でも不可能な筈だ! それをこうも容易く……貴様、一体何者なのだ」


 男の問いに、セシリアはただ静かに答えた。


「ただの騎士だよ。あなたみたいな外道が許せない」


 その言葉を合図に、世界が激しく明滅する。室内を満たしていた光は変化のサイクルを早め、最早光の嵐と化している。数秒前よりも今が、そして数秒後には更に。光の明滅は眩く、激しい物となっていく。それに伴い、男の全身を縛っていた水の縄が男の身体に食い込んで行く。みちみちと肉を圧縮する音を響かせながら、ゆっくりと、しかし確かに男の身体を押し潰さんとしていた。手足は既に関節で折られ、内臓を抱える胴体は強烈な圧迫に次々と破裂していく。断続的に血を噴き出しながら男は何故か、恍惚と絶望をない交ぜにした様な眼で、セシリアの事をずっと見ていた。びくんびくんと身体を痙攣させ、目と鼻と口から血を流し、顔色が赤を通り過ぎて青くなってもずっと見ていた。


「気持ち悪い」


 男の熱視線にセシリアは明確な拒絶を吐いた。それを聞いたが最後に、男はぴくりとも動かなくなった。


「ほんと、魔術師ってみんなそう」


 力尽きた男を見下ろしながら、セシリアは呟く。その呟きが、エリスには遠く聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ