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エリスが居る場所  作者: 改革開花
二章 心の置き処
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14 空回り


「この度はご迷惑をお掛けして! 誠に申し訳ありませんでしたぁぁあああ!」


 開口一番、牢から出たエリスはもはや雄叫びの勢いで謝罪を告げた。

 

 王国東部防衛騎士団セルディール支部、その地下にある営倉部屋。セルディール内で規則に違反した者を収容するこの牢から、エリスは数分前に解放された。解放の影には東部の副団長の指示があり、処罰も制限も課さない無償の解放が意味するのは事件解決への期待という名の圧力である。期待とは便利な言葉である。何せ掛ける側は幾らでも掛ける事が出来る上に、勝手に裏切られたと被害者面出来るのだから。


 兎にも角にも。そう言った経緯の末にエリスは解放され、冒頭の謝罪である。謝罪相手は勿論、エリス除く第三班の面々。軽はずみな暴挙を行った後輩、もしくは部下を如何に叱るかを考えながら牢に案内され、さぁ馬鹿面下げて出て来たエリスに怒りの一声を浴びせる所からだと息を吸い込んだら先の謝罪である。意気込んだならぬ息込んだ彼らは全員同様に思考が彼方にぶっ飛び、浴びせる筈だったお叱りの言葉は情けない戸惑いの息となって漏れ出てしまう始末。


「あ、あぁ……。まぁ、反省してるみたいだし? 今度からは気を付ける様に」


 何とか持ち直したミーナから彼女にしては弱弱しい、もしくはうろたえた声色で許しの言葉が出ると、それだけでエリスへの責め立ての場は自然消滅する。どが付く直球での謝罪による先手――エリスはそんな事考えていなかったが、謀らずとも彼らの怒りを削ぐ形となった。

 



 

「――って感じ。エリス分かった?」

「はい、大丈夫です」


 さて、いつまでも牢前で居る事もあるまいとその場を離れた一行が向かったのは、東部の支部から程近い場所にある宿の一室だった。部屋は既に東部名義で予約されていた為、比較的スムーズに拠点を構える事が出来た。

 ――宿泊費が王都防衛騎士団(こちら)持ちな事にミーナは歯を剥いて怒りを示していたが。

 そうして部屋に移り、荷物を置いてやっとある程度落ち着きを得た所での情報の擦り合わせだ。エリス不在の間にあった会話をミーナから聞き、今回の目的を共有する。


「でも、居るかも(・・)しれない闇商の捜索って……何だかふわふわした話ですね」

「そもそも東部の副団長――エルヴェの野郎が闇商が居るかもって考えた根拠自体が、セルディール内の商業報告書に違和感を覚えたってもんだから」


 セルディールは王国にありながら王国とは隔絶した、管理された貿易用の飛び地の様なものである。その内部では管理、把握の一環として、どんな些細な取引ですら東部へ報告書を提出しなくてはならない決まりとなっている。つまり、東部にはセルディール内の全取引情報が集まる――筈なのだが、その報告書に言い表せぬ違和感があるとはエルヴェの弁だ。


「とにかく……今回もまずは情報収集。セルディール内を巡回、ついでに聞き込み。日が沈んだらここに戻って情報交換。その流れで」


 ミーナの案に異論は無い。エリスとしても、ブレポス(前回)と同じ流れなのは不安が無くて良い。寧ろ是非とも、と言った所だ。


「じゃあ今回は特に班分けはせずに各自行動で」


 だから、次にミーナが続けた言葉にエリスは少なからずうろたえた。前回と同じと勝手に予想していただけに、「各自行動」の言葉の重みがずんと圧し掛かる。

 だが――


「よーし……」


 重圧とは別に滾る心もあった。

 牢の中での決意。その時に灯った炎は依然弱まらず、寧ろ時と共に強くなっている。目指す騎士への道。その道のりが長く険しいならばこそ、立ち止まる余裕も気圧される弱さもあってはならない。

 エリスは腰の辺りへと手を伸ばす。そこにはシャーロットが作り上げたエリスだけの武器「自己満足」がある。この武器はエリスの力の象徴だ。今はちっぽけだろうと、これからこの武器と共に強くなるのだと、自分に言い聞かせる為に鞘の上から刃を撫でようとして、


「あれ? 無い?」


 手が虚空を掻いた。視線を腰にやっても、そこにはある筈の短刀が無い。

 ――もしかして、失くした?

血の気が引いて行く。音さえ伴って、エリスの顔色が青を越えて白くなる。と、そこへ。


「ん? エリスの武器なら預かってるよ。はい」


 セシリアがエリスへと自己満足を差し出す。

 ――少し考えれば分かる話で、相手方にして見ればエリスは急に攻撃してきた輩だ。そんな奴の武器を取り上げないというのは、安全面から考えて絶対にあり得ない。となれば、エリスが気絶中に「自己満足」は東部に取り上げられていて、それが解放の折にセシリアに渡されたのだろう。

 何だかむず痒い気恥かしさを覚えつつ、エリスはセシリアから自己満足を受け取って腰に装備する。例えるなら必死こいて探していた失せ物が、ポケットにあったのをしばらくして気付いて、それを人に見られて小さく笑われた時の様な感じだ。

 道化と言うか、何と言うか。


「じゃ、エリス。またね」

「う、うん」


 セシリアはそう言い残して部屋を出る。気付けば他の面々も既にセルディールへ繰り出している様で、部屋に残っているのはエリスだけであった。

 エリスは狼狽の心を溜息と一緒に吐き出して、机の上に置いてある鍵を手に取る。最後なのだから鍵閉めは当然なのだが、自分の熱意に殉ずるならばいの一番に情報収集に駆けだす位だったのに。

 何ともまぁ、締まらない第一歩だった。



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