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エリスが居る場所  作者: 改革開花
二章 心の置き処
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12 命令違反はお互い様


「先程は私の部下がご無礼を。申し訳ございません」

「いえ、それはこちらもです。本当は私が直接迎えに行くつもりだったのですが……少し遅れてしまいまして」


 机を挟んで、ミーナと長身の男が言葉を交わす。ミーナの背後にはエリスを除く第三班の面々が並んでいた。

 ミーナ達は今、「東部」の詰所、その二階の応接間に居る。部屋の装飾は必要最低限と言った感じで、詰まる所詰所の応接間でしか無いという印象を受ける。騎士としての役割に必要無い物は排除しているのだろう。


「しかし……先程の一幕。いえ、責める訳ではありません。寧ろその逆、実に見事な一撃でした。ミーナ女史が防がなければ、確実にあの部下は打倒されていたでしょう」


 長身の男の語る一幕とは、入口で守衛に就いていた騎士へエリスが攻撃を仕掛けたあの一件である。如何に挑発されたからと言って、流石に突如の奇襲をミーナが容認する事など出来る筈も無い。ミーナは無言で目を伏せ、相手の次の言葉を待つ。

 ――エリスが自分達を貶された事でああも反応してくれて少し嬉しかったのは、ミーナの心の内だけの秘密だ。班を率いる長として、喜ぶ訳にはいかない。


「実に素晴らしい。あの少年は?」

「先日、私達の班に入った新米、身分としましても見習いです」

「なるほど。見習いであの腕。私達とは違い、そちらは練度が高い様だ」


 そう言うと、男は物憂い気に視線を落とした。ミーナが男にどういった言葉を掛けるか逡巡している間に、男は元の凛とした視線に戻ったが。


「いや、失礼。手前とあなた達の落差にどうにも落ち込んでおりまして。若輩のこの身、数多の騎士を先導するには荷が重く。やはりミカエラ様の様にはいきません」

「ミカエラ東部騎士団長のお具合はやはり……」

「えぇ。容態は優れません。近隣の名うての医者を呼んでみた物の、特段改善の色は見えず……」

「心中お察し致します」


 察するとは言ったが、何を察しているのだろうか。ミーナは口からつい出た安い慰めの言葉に、自分で自分に嫌悪感を抱いた。

 一方、ミーナが嫌悪感に苛まれているとは露知らず、男は軽く咳払いをし、身を乗り出して唇を舐めた。その振舞いに、ミーナは話が本題に入るのだと察する(・・・)


「まず、私達――と言うよりは私ですね、その現状を伝えさせて貰いましょう。ミカエラ様が病に倒れて以後、ミカエラ様の存在によって成り立っていたと言っても過言ではない当騎士団は大きく揺れました。それは今も変わりません。形式上、副団長である私が暫定的な指揮権の頂点にありますが、それは正しく形だけ。私の命令に従う者など、全体の二割居るかどうかと言った状態です」


 男は堂々と内部事情を開陳する。その余りの大胆さに、ミーナは男の言葉を危うく左から右へと流しかけた。寸での所で虚空に逃げ行きそうな情報の尾を捉え、その情報について思考する。確かに、男の語る内部事情は大方の予想を反していない、寧ろ予想通りの内容だ。ミカエラのカリスマによって成り立っていた「東部」にして見れば、ミカエラの喪失は致命的な物だろう。

 ただ、それを自分達、王都防衛騎士団に大っぴらに語るのはどういう了見か。余りにも優しく親切であるが故に、尚更怪しくなる。

 

「現在、当騎士団の運営はミカエラ様が倒れる前に作られた手引き(マニュアル)を基に行われている形です。その手引きの内で言うなら、事の以前以後は変化ありません。ただ、それは同時に新規の任務を与えられない事を意味します。先程言った通り、私には人望がありませんから」

「となると、私達への依頼は手引き(・・・)に無い(・・・)突発的な事態への対応だと考えても?」

「はい、その通りです。もっとも、何が起こるのか分からない状況で備えて欲しい、その様なニュアンスとは異なります。飽くまで、臨時戦力としてあなた達に期待したい。――図らずとも、あなた達の「強さ」は証明されましたしね」


 その為の冗長な前置きだったのかと、ミーナは舌打ちしたい衝動に駆られた。エリス、引いては第三班の有能性を大袈裟に評価し、逃げ道を防いだ上で突発的な事態とやらを丸投げする。ミーナ達が解決すればそれで良し、解決出来なければ責任を負わせる。更に言うなら、解決出来ない(・・・・)事が前提の依頼ですらあるかもしれないのだ。自分達が失敗の汚名を被りたくないからこそ、泥除けとして呼び付けられた――そうであって欲しくないが、互いの騎士団の関係性を考えると、それが一番あり得そうだから性質が悪い。

 ともすれば、エリスと守衛との一件ですら計算の内だったのかもしれない。油断ならぬ相手だと、ミーナは気を引き締める。


「それで……私達への依頼の内容を伺っても?」

「勿論。あなた達王都防衛騎士団に依頼したいのは『セルディール内に潜伏していると予想される、闇商の発見及び捕獲』です」



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