表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エリスが居る場所  作者: 改革開花
三章 泥の底で光るモノ
101/117

34 魔戦◯

 エリスの内側に、何かが居た。黒い画用紙に白い絵の具を塗りたくった様な、白色でしかない白色がそこに居る。


「本当に、君には支払えるものが無いかな?」


 白色は嗤う。そこに悪意は無い。あるのは好奇、もしくは嗜虐の心か。重ねて言う。そこに悪意は無い。あるのは真っ白なままに他人の懐を弄り暴く、不躾に過ぎる善意の声だけだった。


「あるじゃないか。君が君であるという、掛け替えの無い宝物が」


 ――それは、エリスにとって唯一の物。少年を無名の少年からエリスにする、命より大事な楔。払える訳が「じゃあ、目の前の少女を見殺しにする事だ」。


「君がここで君自身を払えないなら、君に目の前の化け物は倒せない。そして当然、少女も助からない。君は生き残る可能性が僅かだがあるけれど、まず間違いなく少女は死ぬ。……君が、見殺しにする」


 答えに窮する。少年には決断出来ない。自分を自分として守る為に少女を助けるのに、その少女の為に自分を捨てるのでは本末転倒に「考えるまでも無い事だろう?」


「君が君を犠牲にするなら、少女は助かる芽が出る。君が我が身可愛さに自分の切り売りを渋れば、少女は死に、君が君と定義する自分も死ぬ。天秤だよ。この世は常に選択の連続だ。そして、選択する時のコツは、分かり易い損得害益の比較だ」

「分かるだろう? 一人が死ぬのと、二人が死ぬのと。もっと言おうか? あの化け物をこの場で殺せれば、死ぬのは間違いなく君だけだが、この場であの化け物が生き延びれば、確実に二人が死に、更に他の人間も死ぬかもしれない。十人か、百人か、もしかしたら千人、という事もあるかもしれない。何せ魔蝿は静かな分布拡大を得意とする、厄介な魔獣だ。ここから生き延び、繁殖し続ける未来も十二分にあり得る」

「仮に千人が犠牲となったとすれば、比率は一対千だ。天秤は見るからに千に傾く。そちらの方が価値が高く、重いという訳だ。子供でも分かる計算のお話だよ」

「さぁ、選びたまえ。自らを捧げ英雄と――否、『騎士』となるか。自分を惜しんで大虐殺の引き金となるか」

「選びたまえ」

「選びたまえ」「選びたまえ」

「選びたまえ」「選びたまえ」「選べ」「選びたまえ」

「選びたまえ」「選びたまえ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」


「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」


「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」「選べ」


「選べ」


 差し出された白い手を、少年は静かに取った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ