勇者編第五話『異世界の魔法』
魔法の説明回。
朝霧たちと再会した次の日。俺はあてがわれた豪勢な部屋で魔術の勉強をさせられていた。
「う、うぅ。異世界でも勉強かよぉ」
「嘆くなよ。仕方ないだろ」
俺の愚痴に朝霧がため息をついた。その後ろで、フェオーリアも苦笑いを浮かべる。
女の子と話すと緊張するボッチな俺だけれども、不思議と朝霧の場合だと緊張しない。男らしい話し方をするからなのか、彼女が持つ凛とした雰囲気のせいなのか。それとも、彼女が俺とでも対等に接してくれるからなのか。理由はいくらでも思いつくけれど、これだと思うものは特にない。おそらく全部なのだろう。
なぜ、朝霧が俺の部屋にいるのか。これは俺がフェオーリアに朝霧たちが知り合いだと話したからだ。
勇者でありながら俺はこの世界についてあまりに知らなさすぎるので、魔王軍との戦いが始まる前になんかいろいろ勉強させようという話になり、気心の知れた人間と一緒の方がやりやすいだろうということで朝霧がこの部屋に呼ばれた。
本当はほかの三人も呼ばれたがこなかった。そんなに仲良くないもんね。朝霧が来てくれたことのほうが不思議だが、クラス委員であったという責任感が彼女にそうさせたのかもしれない。
それはともかく、俺と朝霧はそんなこんなんで二人して勉強会を開くことになった。
不思議なことに、元の世界とは全く違う文字で書かれているにもかかわらず、俺たちにはその文字を読むことができたため、何冊か本を渡されそれを読んでいる。フェオーリアに見張られながら。
魔法。二つの種類の中に、4つの属性を宿す不可思議な力。なんでも魔法には闇魔法と光魔法の二種類があり、その中に風、水、火、土、の四つの属性がある。とかなんとか。
もともと勉強が得意でなかったため、文字が読めても俺にはちんぷんかんぷんだった。
そんな俺の様子を見かねたのか、フェオーリアが俺のそばへと移動してきた。
「難しい顔をしていらっしゃいますね」
「ま、まあ。ちょっと」
真剣な顔をして本と向き合っている朝霧の方を見て情けない気持ちになる。ダメな奴だな。俺ってやつは。
「大丈夫ですよ。魔法はそんなに難しいものではありません。魔力を消費し奇跡を体現させるちょっと不思議な力。その程度の認識でも大丈夫です。魔力の小さい大きい。操作能力。そういったものに左右されますが、基本的に引き出される奇跡に大きな差はありません」
にっこりとそう笑うフェオーリア。そう言われると少しだけ肩の力が抜けた。
それと同時に、『スキル』との違いについても考えさせられた。四人にあって分かったことだが、『スキル』はどうやら一人ひとり持っているものが違う。
スキルシートを見させてもらったけれど、書かれている『スキル』はそれぞれ違うものだった。
それに俺と違い、四人が持っていた『スキル』の数はそれぞれ一つずつ。『スキル』というのはもしかすると、神から与えられた才能のようなものなのかもしれない。それとは対照的に、平等に結果が出るのが魔法……ということだろうか。
「えっと、今の説明だと分かりにくかったでしょうか?」
俺の表情が曇ったのを見て、フェオーリアは困った顔をした。普段の大人びた様子から少し離れたその表情に親近感がわく。
「いや、ちょっとわかったかな?」
「そうですか? よかった」
安心したようにフェオーリアはそうつぶやくと、思いついたように両手を前に翳し、それぞれの手に二つの赤い炎をともした。
突如出現した炎に少し身をのけぞらしてしまったが、これが魔法なのだろう。フェオーリアは俺の反応に少し笑みをこぼすと、魔法の説明を続けた。
「つまり、術式が変わらない限り魔法の強さは変わらないんです。強い術式にしない限り」
右手の炎が消え、一回り大きな炎へと変わる。
「左の炎は火の魔法の一番簡単な魔法です。右がそれよりちょっとだけ強い魔法」
なるほど、そう思いながらも、強さによっていちいち術式?とやらが変わるのはめんどくさそうだと思った。
「術式というのは、その魔法を発動するための手段のことです。呪文であったり、魔方陣であったり、供物であったり。魔力の操作によっては省略もできますが、難易度はもちろん上がります。秤にかけないで材料を投入するようなものですから」
めんどくさってはダメということか。
「魔法には種類があります。先ほど読んでいらした項目ですね」
二つの種類に四つの属性。
フェオーリアの両手に灯っていた火が消え、新たに二つの小さな灯がともった。片方は先ほどと同じ赤い炎、もう片方は青い炎。
「赤い炎が光の火魔法。青い炎が闇の火魔法です。どちらも炎としての性質は変わりませんが、もたらすものは真逆です。赤の炎は『発展』を、青の炎は『破壊』をもたらします。こんな具合に、光の魔法は恵みを与えることを、闇の魔法は奪うことを目的とします。そして人が得意とするのは光魔法。魔族が得意とするのが闇魔法です」
ふと、炎を見つめるフェオーリアの顔に憂鬱な表情がよぎった。
これからの戦いは人と魔族が互いに自分たちで傷つけることを選択し、力をふるう。恵みを与えるはずの光の魔法を、魔族を倒すために使うのだ。仕方のない事とは言え、その矛盾がやりきれない。彼女はそう感じているのかもしれない。
けれども、俺はその考えは違うと感じた。この国のお偉いさんたちは魔族を倒し、魔族のものを奪おうと考えていたかもしれない。しかし今ここにいる俺たちは、そんな目的のために立ち上がるのではない。
この国を守るために、この力を使うのだ。
「……でも、僕らが使うのは光魔法だろ? 奪うんじゃない。守るために戦うんだ」
自然と、思いが言葉となって口からあふれていた。誰も、魔王軍との戦いについて何て話していないのにいきなりこんなことを言っても伝わったりしない。
見当違いなことを言ってしまったと、恥ずかしさに悶えそうになっていると、フェオーリアは俺の予想とは違い、驚いた顔をした。まるで、不安を言い当てられたかのように。どうやら、俺の思いは伝わったらしい。
フェオーリアはさきほどとは違い、爽やかな笑顔を俺に向けたのだった。
ちょっとこれから忙しくなるので、更新が遅くなるかもです。