勇者編第一話『異世界が分からない』
プロローグで視点だった「俺」くんが主人公です。ノーマルタイプのイメージ。
日比野司
ヒビノ ツカサ
年齢:18
性別:男
魔力:すごくいっぱい
身体能力:いままでどおり
知力:いままでどおり
魔力放出量:かなりすごい
魔力操作力:めっちゃすごい
スキル:「神の入れ知恵」
「魔法の申し子」
「光の加護」
「な、なんだこれ」
女神から贈られた例の紙を開き、俺は絶句した。なんだこれは。ふざけているのだろうか。腹が立ち紙を破り捨てようとしたが、どんなに力を込めても場所を変えても破ることはできなかった。
女神が立ち去ったあと、しばらくの間俺たちは身動きさえ取れず呆然としていた。
そしてやっと我に返った俺たちが真田を介抱しようと、真田が倒れた場所に駆け寄るとはどういうことか真田は忽然と姿を消していた。血を吐いて倒れたクラスメイトを思い出し、俺は少し心が痛んだ。
いくら苦手だったからと言って、俺は別に真田が嫌いだったわけじゃない。真田は進んでクラス委員長になってくれるようないい奴だった。
……確かに、勉強ができて運動もできて顔もよくて、死ねばいいのに腹立たしいと思ったことも何度もあった。体育祭で黄色い声援を受けているときなんか、ついムカついてあいつの持ち物にわざとスポーツドリンクをこぼしたこともあった。けれどあいつはスクールカースト底辺の俺に対しても平等に接してくれて、こいつ性格もいいのかよ死ねって思う程度にはあいつのことを信頼していた。
しかし真田は消えてしまった。ただ草の上に落ちた赤い液体だけが、真田がここにいた証だった。
いなくなった真田に、俺たちができることは何一つない。ただ消えたというのは希望があった。死んでいたのなら、俺たちはこの何一つ分からない異世界で絶望していただろうけれど、真田はまだ生きているかもしれないと考えることができた。俺たちは、真田の無事を祈りながら前へ歩き出すことができた。
まず俺たちがしたことは、異世界についてせめてもの手がかりとして女神が渡してきた不思議な紙を確認することだった。
その結果がアレだ。落胆するのも仕方がないだろう。
ため息をついて、僕は傍にあった石の柱にもたれかかった。
最初にリーダー格であった真田がいなくなったことで、クラスはもうバラバラだった。クラスの中心人物たちが呼びかけてなんとかまとめようとしているけれどそれもうまくいっていない。仲のいい人物同士が集まり、それぞれが五、六人のグループを形成していた。もうこうなったらクラスで行動、というわけにはいかないのだろうなと俺は思った。
単独行動はあまり好ましくないだろうと考えた俺は、どこかのグループに入ろうとあたりを見回したが、クラスにそんなに仲のいい友人がいない俺は自分から進んでどこかのグループに入ろうと思えなかった。
もういいや。適当に誘ってくれたお人よしのグループに入ろうそう決心すると、なぜかクラスメイト達が驚いた顔をして俺を見ていた。一人でいるのがそんなにおかしいのかよ。
そう思い、むっとした俺だったが、すぐにその考えを改めた。しかし気付いた時にはもう遅かった。俺の体は、透けていた。
「はぁ!?なんで!」
そう叫んでも、答えが返ってくるわけもない。ふいに、天地がひっくり返ったかのようなめまいに襲われたかと思うと、そこは先ほどまでたっていた草原の上ではなかった。
整備された古風な街内が一望できる建物の前。俺を取り囲む、元いた世界ではありえない頭髪や瞳の色を持った人々。そして足元にある怪しげな魔方陣。
「ゆ、勇者様だ」
取り囲んでいたうちの一人が、俺を指さしそう言った。俺がその言葉に何か言い返す前に、他の人々が同じように騒ぎ始めた。
「勇者様だ!勇者様が!」
「ああっ!神よ!感謝します」
「救世主!我らが救世主よ!」
そう騒ぎ立てられる中、僕は呆然と立ち尽くすしかなかった。
ああ、本当に、この世界は意味が分からない。