ハッピーリバース女神様
「ハッピーリバースデー、吾君よ…」
ーーーお前も言うのかよ…
凝った装飾の柱が連なるこの王の間のような部屋で、如何にもな玉座に脚を交差させ腰掛けているこの女神(?)こそ、間違いなく天王様なのだろう。
しかし、威厳に満ち満ちていたオーラが今の一言で台無しだ。
ーーーそれにしても綺麗な人だな…女神様かなにかか?
歳にして20代後半ほどであろう美しさ。仮にそうでないとしても、そう思わせるほどに若く見えた。
「は…はじめまして…天王様。」
ーーー挨拶をしておいて損は無いだろう。
「うむ、そう固くならんでも良い。それにしても吾君よ。随分とまだ若いようだが…チルリア、死因は何だ?」
チルリアはどこからかファイルのようなものを取り出し、天王の問いかけに応じた。
「はい!死因は転落死です!なんでも屋上にいた子猫を助けようとした拍子に誤って落下したと!!
悲しい事故死ですね!!」
ーーー人の死因を元気よく言うんじゃない、
ーーーそういえば子猫は無事に助かったのだろうか…
「ふむ…報われることのない実に哀れな死だな。」
哀れんだ言葉とは裏腹に彼女の表情は全く動かなかった。
「死因がそれならば天国転生も必然というわけか。歓迎しよう、ようこそ天国へ。
ここが吾君の第二世だ、そして此方がこの世の天王を担うガブリエラである。贔屓に頼もう。」
「ではチルリア、連れていってくれ」
「らじゃです!!」
続けてそう言ったかと思えば、チルリアはまたカルタの手を握り、部屋の入口へ引き返そうとした。
しかしカルタはそれを振りほどいた。
ーーーちょ、、
「ちょっとまて!まだその転生ってのについての説明がーーー」
振り返るとさっきまでの神々しい天王様はそこにはおらず、態度の悪いOLのような姿勢で玉座に腰掛ける気だるげな女性の姿があった。
「あーそのへんのめんどくせぇのはそこのちっさいのに聞いてくれ、あともうこうしてテメェと面と向かって喋ることも無いだろうからそこんとこ把握よろし、」
天王のあまりの変貌に動揺しないわけがない。
「え、覚えててくれないんですか…?」
と、ここで天王の何かがプツリと千切れたようで、、
「ハァァ!!?何でテメェみたいなモブの顔面記憶しなきゃなんねぇんだよ!
テメェはなんだ?アレか?一膳の白飯を食う時に米粒一つ一つの形を覚えながら食うのか!?
大体今日だけで何百人目の顔合わせだと思ってんだよ畜生!!肩こり過ぎて羽もげそうだわ!
てかなんだこの部屋は!クソ暑いんだよ!!
おいチルリア!!ボケっと突っ立ってないでさっさと空調下げてこい!!!」
そうキレながら天王は、自身の服の胸元部分を大胆に引っ張ってみせた。
無論それを見逃さないカルタではなかった。
「らじゃです!!このチルリアめにお任せ下さい天王様!!ほらほら吾君くん、さっさと歩くですよ!」
転生について得られた情報の少なさも気にせず、高二男児の威縫軽太は、チルリアに引きずられながら一心に天王…いや女神様(確信)の豊満な胸元を凝視し続けたのであった。