憑依者
「ロイド! ……まったく、貴様はクソの役にも立たない! レイベル様がつまらなそうにしていただろう!」
「す、すみません。すみません……っ!」
公爵家の俺は、人間なら誰もが持っているはずの異能を、一切もっていなかった。
まったく転生して色々と物をしっていても、才能の前にはどうにもならない。
だからこそ、家からは常に冷たい目を向けられていた。それでも……一応整った容姿を持っていたから、結婚の道具としてまだ残っていたが……。
俺は顔を守るように腕をあげる。
父の拳は強く固められ、そして振り抜かれる。
「と、当主様!」
そういって、俺と父の間にメイドのレディが入る。
「レディ!」
強い拳に吹っ飛ばされたレディに、慌てて俺は駆け寄る。
……酷い怪我だ。美しい顔には、赤い跡が残ってしまっている。
情けない。俺がもっとしっかりしていれば……レディがこんな風に傷つけられることもなかっただろう。
「……」
父親は苛立ちが治まらないようで、そのまま部屋を去っていた。
俺はへなへなとその場に座り込んでしまう。
……失敗だったな。
耳をすませば、舞踏会の演奏が届いてくる。今頃、みんな楽しんでいるだろう。
今日は、貴族たちが集まった舞踏会だ。父のいうレイベル様とは、王女様だ。
なぜか知らないけど、レイベル様は俺に対して一定の興味を持っているようで、今日も一緒の席で話をする機会があったのだ。
父は王族とのより深い関係が作れると思い、うきうきとしていたが結果はこれだ。
俺はもともと話し上手じゃないし、それに……俺には好きな人がいた。
ていうか、うちだって国内じゃあ王族の次か、その次を争うくらいの貴族だ。そんなに権力に貪欲にならなくても良いじゃないか。
レディの怪我の治療をしようとしたが、レディは案外元気に体を起こしてみせた。
「大丈夫か?」
「はい。私の本業はメイドじゃありませんからね」
……そうだったな。
もともとはスラム暮らしをしていた彼女を俺が勝手にメイドとして雇ったのだ。
戦闘能力の高さは熟知している。
レディが倒してしまった机を直しおえたところで、俺の対面に立った。
……スラムでみた時はやせ細っていたが、あのときも美貌だけはずば抜けていた。
今では、しっかりとした食事をしているせいか、体は立派に女性らしく成長していた。
レディというメイドがいるだけで、他の貴族から羨望の目を向けられることもしばしばあったほどだ。
うちが公爵家でなければ、他の貴族たちにちょっかいをかけられていたかもしれない。
俺は少し照れくさかったが、口を開く。
「……レディ、やっぱり俺は無理だ。あんたのことが好きすぎる」
……俺が彼女をメイドとして雇ったのも、俺が一目惚れしたからだ。
そんな俺の言葉に、レディは複雑そうに顔を背けた。
「ですが、私は生まれも性格も、口も汚いですよ。あの時、殴ってもらっていなければ私は恐らくアナタの父親を半殺しにしていました」
「……相変わらずだな」
「ええ。この衝動ばかりはどうしても抑えられませんので。……ここからは独り言になりますが、私もアナタのことは好きですよ。……あのとき、助けてくれた日から」
はっきりと伝えてくれないのは、彼女がメイドとして俺の将来を思ってくれているからだ。
……助けた、というのだろうか。
一度俺はスラム街付近で、彼女に助けられた。
その後、彼女に惚れてしまった俺は護衛数名をつれてスラムに行き、レディを探した。
そして、偶然レディが男十名程度を相手取って、戦っている現場を目撃し護衛たちに頼んでレディを助けさせた。
……実際やったのは俺じゃないという情けなさだ。
俺なんて、異能さえも持っていない雑魚なのだ。そのことでも、父は凄い怒っている。
部屋の鍵が閉まっていることを確認したあと、俺はレディに顔を近づける。彼女は微笑んで、俺を受け入れてくれた。
「……そろそろ、良いですか?」
レディの目が不敵に歪み、口角がつりあがっていく。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「待ちません。……ああ、ここ最近ロイド様の苦しんでいる情けない顔を全然見れていなく……凄いたまっていたんですよ。ふふ、今日もたっぷり見せてくださいね」
「い、いやだから!」
まずいってレディ。
言いかけた俺だが、無理やりにキスをされて押し倒されてしまう。
……ああ、ここからまた俺は彼女の下僕のようになってしまうのか。
○
あの日から数日が経った。
俺は父に呼びだしをうけ、そしてばんと紙を叩きつけられた。
……他の貴族のサインなどもあり、俺という人間が貴族の権力を持たなくなったことが書かれていた。
「貴様はもううちの家の人間ではない。家は次男に継いでもらう。どこかの誰かと違い、異能もすでに持っているからな」
……異能。
この世界では良し悪しはあれど、全員が持っているものだ。
遅くても十歳までに覚醒するのだが、十七になった今でも俺は異能を持っていなかった。
家を追い出される最大の理由は、これだろう。
「……今日で、俺は家を出て行くんですか?」
僅かに声が震えてしまった。
いつかは来ると思い、普段からこっそりと金も別の場所に確保してあった。
今すぐに金に困って生活ができなくなるほどではないが、こんなに早いとは思っていない。
「見送りくらいは用意してある。感謝するんだな」
「……わかり、ました」
「聞き分けが良いことだけが、貴様の才能だな」
父だった人は、すぐにそっぽを向き口に葉をくわえる。この世界のたばこのようなものだ。
「……あの。今朝から、レディの姿がないのですが……何か知りませんか?」
他のメイドたちに聞いたが、誰も教えてはくれなかった。
俺の世話役である彼女が、朝起こしにこなかったのは、雇ってすぐ以来だ。
父は淡々と、そして馬鹿にするように笑った。
「ああ、あのメイドか。貴様が雇ったメイドならば、今頃この家の地下にいるだろうさ」
「どういうですか!?」
「あんな穢れた血の人間、誰にも知られずに殺すに限るだろう。放っておけば、あとは勝手に死ぬだろうさ。貴様も、あんな馬鹿に毒されおって」
父の軽蔑しきった目をもう見たくはない。俺はすぐに地下へ向かうために扉をあけると、その瞬間剣が視界に飛び込んできた。
腹へと深く突き刺さり、鈍い痛みが全身へと広がっていく。
「あぁ!?」
痛みに耐え切れず、その場で転がると俺の体にさらに剣が振り下ろされた。
「ああ、すまなかったな。貴様はもう用済みだ。貴様のような人間がこの世に残っていると思ったら、気持ちが悪い。さっさと死ぬが良い」
「……れ、ディ――」
「貴様のために、私の部隊でもっとも強い男を用意した。彼の剣を見れて、良い最後だっただろう?」
最後に見るなら、レディの元気な姿だっ。
体が痛むがどうにか起こす。
……目の前には騎士がいた。確かにその立ち姿にまったくの隙がない。
全身を鎧で守っているため、その顔は見えない。
振り上げられた剣には優しさの欠片もなかった。
「……そいつは森の魔物に食わせてこい。最後まで、自分が生まれてきたことを悔いるように、殺すなよ」
「わかりました」
父と騎士の声が聞こえた。
……レ、ディ――。
○
意識はなぜかあった。
傷は酷いままであったが、俺は騎士によってどこかへと運ばれているようだった。
うっすらと目が開く。
体はもう動いてはくれない。生きているのが不思議なくらいの状況なのだろう。
そして、俺は投げ捨てられる。冷たい大地に落ちた際に、鋭い痛みがあった。
悲鳴ももれていたかもしれない。
騎士の足は段々と離れていく。
ここは、どこだろうか。結構な距離を移動したようだった。
早く、レディを助けないといけない。
俺は好きな女の一人も……助けられないのかよ。
体を起こそうとしたが、結局動いてはくれなかった。
と、俺のほうに何かが近づいてくる。顔を覗きこんできたそいつは、ゴブリンだ。
にたぁと笑ったそいつは俺の体に拳を振りぬいてくる。
げっげっげっ、と笑ったそいつは、俺の首をひねりあげた。
○
あれからどうなったのだろうか。
突然に意識が戻ってきた俺は目をぱちっとあけた。
……おかしいだろ。
体は動くし、首もしっかり繋がっている。
ゴブリンに完全にやられたと思ったのだが、それは勘違いだったようだ。
だからといって、ここまで完璧に体が再生しているのはおかしい。
立ち上がった俺は……やけに視線が低いことに気づいた。
これではまるで子ども――。その後俺は視線をさげて驚いた。
暗闇でよくわからなかったのだが、隣には死体が転がっていた。
……あまり筋肉はないし、顔も完全に潰れていたが……たぶん、これは俺、じゃないのか?
途端に気分が悪くなってきて、自分の死体にはいてしまった。
……これはもう、誰にも見せられないな。
ひとまず、俺はこの身体がしっかりと動くことを確認する。
適当に動いてみたが、俺の体よりもしっかり動く。
……マジか。こんなゴブリンが町の外に闊歩しているのだから、異世界とはなんとも恐ろしい場所だ。
貴族として生活していた俺は、ほとんど戦闘訓練はしていなかったしな。
どちらかというと知識を叩き込まれていた。とはいえ、異能がまるで使えない人間は無能だ、と何度もいわれていたが。
「……異能、か」
夜の森に一人という状況は、かなり心に不安がある。
ここは町近くの森なのだが、それでも結構な距離がある。人なんてほとんどいないだろう。
思わず独り言をした俺はそこで気づいた。
「……これが、俺の異能、なのか?」
だとしたら、今までまるで使えなかった理由もはっきりする。
死んだときに近くにいる誰かに憑依する、とか。最後にみた相手に憑依するとか。俺を殺した相手に憑依する、とか。
まだ発動条件がわからなかったが、死んだときに発動する、のだろう。
……ひとまず、試してみるとしかないだろう。
俺は森の中を移動して、人型の魔物を探す。
……どうせ乗り移るなら、やはり人型のほうが良い。
俺は近くに見つけたゴブリンへと近づいていく。
……この姿だからか、近づいても襲われることはない。
言語はまるでないようだが、仲間と認識出来る程度の知能はあるのか。
俺はゴブリンをジッと観察する。
そして俺はゴブリンへと掴みかかった。
ゴブリンも驚いていたようだが、それからすぐに戦闘が始まる。
ゴブリンの体を手に入れたとしても、俺自身が弱すぎるためゴブリンに簡単に倒される。
いつの間にか立場が逆転して、押し倒されて殴られまくる。
やがて、俺の意識がなくなり、次に目を開けると、ゴブリンになっていた。
俺の下には、さっきまで俺が憑依していたゴブリンがいた。
……完全に死んでいるようだ。
……とりあえず、死んで憑依するってことはわかったな。後は……どうやって憑依するのかだな。
俺が最後にみたもの、俺を殺した相手なら例え死んだとしても問題はないが、他の条件だった場合だと嫌だな。
予期せぬものに憑依してしまったら、大変だ。
……できれば、魔物複数と戦ってみたいが。
俺が森から町へと向かっていると、人間と魔物が戦っているところを目撃する。
人間三人は、全員騎士のようで全身を鎧に身を包んでいる。
そして、こちらはゴブリンが五体だ。俺もゴブリンとしてゴブリン側に参加する。
「ちっ、新手じゃねぇか!」
「……俺が魔法を用意する! しばらく時間を稼いでくれ!」
「えー!? そういうのは男の役目でしょ!?」
一人だけいた女が声を荒げる。
どうせならば、女に憑依したいものだ。
俺はゴブリンとして加勢しながらも、しきりに女を見続ける。
……まあ、鎧の上からなので女がどういう相手かはわからない。
「くらえ!」
と、俺は横から大男に剣を振りぬかれる。
……近づいただけで鎧から臭ってくる体臭。鼻が曲がりそうだった。
俺はあっさりと真っ二つにされる。そして首が傾いて最後にみたのは、男だった。
ゴブリンたちとの戦いは続くが、俺は一人の男になって剣を握っていた。
「ハッハッハッ! 俺の剣をくらえ!」
……いや、違う。
俺は男に密着しながらも、体を動かせずにいた。
鎧に憑依した。ていうか、これどうすれば良いのだろうか? 死ねないではないか。
この能力ではっきりしたことは、俺を殺した相手ではなく、俺が最後にみたものだ。
……そして、それは生物だけではなくものにも憑依が可能ということだ。
それにしても、臭い! この男の体と密着状態にあるため、体臭が酷い。
死にそうであった俺は、そこで意識を失いそうになり、必死に体を動かそうとする。
「う!?」
と、突然俺の体が……大男の体から分離した。
……全身鎧をまとったまま、俺は両足で立っていた。
「な、なに!?」
突然の事態に騎士たちの動揺が大きい。
その隙にゴブリンが攻撃をしかけるが、騎士たちはしのいでいる。
「あの鎧が……呪われた!」
大男が言い放つ。
……自分の意志をもつ武器、防具は、呪われたといわれている。いわゆる魔器と呼ばれるものだ。
つまり俺はものに憑依した場合憑依したものを魔器へと変化させるようだ。
「……突然なんだっていうのよ! とにかくゴブリンを殺すわよ!」
「魔法の準備はできたぞ!」
「おっけー! さっさと焼いて!」
女が叫び、火魔法が放たれる。
俺も回避しようとしたが、それに焼かれてしまう。
鎧はそれほど強固なものではなく、かなり熱かった。
ゴブリンたちも一掃されてしまい、一対三となる。
大男が剣を構えてこちらを見据える。三人の目が向けられるなかで、俺は強気に前を見る。
次に、誰に憑依するか……それを考えていた。
……気乗りはしないが、人間となれるあの大男が一番良いだろう。
戦闘が始まり、俺は十秒耐えた。十秒で破壊され、大男への憑依に成功する。
「……これで、終わったんだな?」
俺が呟くと、二人がこくりと頷いた。
俺は自身の体臭に鼻を曲げながら、男と女に視線を向ける。
「これでとりあえず任務も終わりね。町に戻りましょうか」
「そうだな」
「あれ、どうしたんですか? ちょっと元気ありませんね」
後ろに控えていた男が、丁寧な口調で声をかけてくる。
この大男、やはりチームのリーダー的な人だったか。
「そうか? ……いやぁ、いきなりまさか鎧があんなことになるなんて思わなかったからな」
「……そうね。ちょっと不気味だし、早めに戻ったほうがいいかも」
「そうだ。それが良いな」
俺がこくこくと頷いてさっさと町へと歩き出す。
……多少いぶかしまれたかもしれないが、何とか町まで移動することができた。
戻ってこれた。まだ深夜であり、俺は今すぐに屋敷へと向かうつもりだ。
「悪い。少し用事があるから別の場所によってから行く。先に戻っていてくれ!」
「へー、どうせまたパブでしょ? はいはい。適当に伝えておきますよー」
女がいつも通りといった対応をしてくれた。
おかげでなんなくやり過ごすことに成功し、俺は自分の家だった屋敷へと向かう。
「あ、隊長! お疲れ様です!」
貴族街の入り口で、そんな挨拶をされて驚いてしまう。
「……あ、ああ二人も夜遅くまで大変だろう。大丈夫か?」
「ええまあ。それより隊長はどうしたんですか?」
「ちょっと貴族街に用事があってな」
そう伝えて中へと踏みこむが、特に怪しまれることはない。
……よし。体臭は酷いが、このおっさんに憑依してよかった。
剣を腰にさげたまままっすぐに自分の屋敷についた。
貴族のほとんどの家には、私兵がいる。
俺を殺したあの騎士も、父さんの私兵であるため屋敷のどこかにいる。できれば会いたくはないが、どうにかしないといけないよな。
……だが、国内でもかなり強いことはわかっている。……あいつをどうにかしてレディを助け出さないと、結局平和なんてやってこない。
入り口を守っていた騎士の二人が俺に気づいて訝しむように眉根を寄せる。
「どうしたんですか?」
「ちょっと、用事があるんだ。通してくれないか?」
「例え、第六部隊隊長だとしても、こんな時間に通せるはずがありません。また後日、話を通してからお願いします」
「そこをなんとか……頼むよ!」
俺がいうと、彼らは顔を見合わせたが首を振る。
……ならば、やるしかないか。
「あんたら、ちょっと良いか?」
「へ?」
俺が剣を振りぬいて、男を倒す。
そして、男の兜をはぎとったあと、俺は自分の首へと剣を刺した。
すぐに、男に乗り移ることに成功した。
俺は大男の体を蹴り飛ばし、むせるように咳払いをする。
「お、おい……な、何だ!?」
もう一人の騎士は、何が起こったのかわからず剣を構えたまま叫んだ。
「わ、わけがわからねぇよ……まったく」
俺は演技でむせながら、体を起こして男へと近づく。
困惑している男の体へと持っていた剣を振りぬく。
……レディを助けるためなら何だってやる。
男の兜をはぎとった俺は、先ほど同様自害して体を奪い取った。
「これで……大丈夫か」
入り口では二つの死体ができあがった。案外、さっくりとできてしまったのは、一度死んで少し感覚がおかしくなっているせいかもしれない。
数時間ぶりの屋敷へと踏みこむ。深夜ということもあり、室内は真っ暗であった。
……地下に向かうには鍵が必要だ。その鍵は父の部屋にあるはずであり……多少危険を冒す必要がある。
この体ならば、たぶん父相手に肉弾戦でどうにかできるはずだ。あとは……俺を殺したあの騎士に出会わなければ……。
そう願い、階段を上って父の部屋を見つけたところで、向かいからあの騎士がやってきた。
相変わらずの完全武装だ。……やるなら、二回憑依をしなければならない。
「……入り口の見張りはどうした?」
「そ、その……それが突然変な連中に襲われて!」
「ああ、見ていたからな!」
迷いなく剣を振りぬいてきた男の一撃を、どうにかかわす。
俺が剣を振りぬこうとすると、騎士は風を放ってきた。
吹き飛ばされたが、立ち上がる。
「どうやら、貴様は何かしらの異能者のようだな。その体内にいるのは誰だ?」
「……さて、誰だろうな」
自分の名前を名乗ってやりたかったが、やるなら彼を完全に殺せるタイミングでだ。
騎士はそこで僅かに笑い声をあげたあと、俺に手を向けてくる。
「貴様の異能は自害……または死んだときに発動するようだな。ならば、殺さずに動きを止めればよいというだけだ」
「……」
まさか、さっき少し見ただけでそこまで見切るとは。
さすがに、父が信頼を置いているだけある。
騎士が振りぬいた剣をどうにかしてかわす。
……殺す気がないだけあり、俺の四肢だけを吹き飛ばそうとする動きだ。
自殺をするにしても、次に奪えるのは鎧だ。
屋敷内を逃げるように背中を向ける。
鎧を奪ったとして、その後どうするかだ。
魔法生物になったところで、肉弾戦は厳しい。
いや……待てよ。
周囲を見やり、俺は剣を自分の首へと振りぬいた。
今日だけで何度も痛みを味わっており、正直苦しい部分もあるが、やらないとレディが助けられない。
同時に、騎士の鎧に憑依する。鎧を体からはぐと、そこには若くいかつい容姿をした男がいた。
鎧のまま拳を固める。……この敵の防具をはげるというのは、それだけでもかなり強いだろう。
「なかなかに、厄介な能力だ。まさか、無機物にまで憑依し、魔器として俺から奪うとはな」
「……余裕たっぷりだな」
鎧のままでも声がでるのは少し不気味だった。
騎士も多少驚いたようであったが、すぐに剣を持ち直した。
「こんな相手と戦える機会は少ない。精々、もってくれよ!」
騎士が口角をつりあげ、迫ってくる。
俺は即座に窓へと駆け出し割りながら、飛び降りる。その窓をしっかりと睨みつけながら、壊れる鎧を意識する。
次にうつったのはガラスだ。
その体を操り、地面を覗き込んでいる騎士の体へと突き刺さる。
「ぐっ!?」
そして、ガラスが砕け散り、俺は騎士の体を奪い取る。
痛みがあったが、騎士の体は今まで一番のものだった。使いこなせるとも思えないが。
体を引きずるようにして、もう一度父親の部屋へと入る。
……殺さなければ、恐らく追手がやってくるだろう。
……もう、レディさえ助けだせるのならば、俺は何を失っても構わないとも思っている。
眠っている父親へと、俺は剣を突きたてた。
「……ぐぅ!?」
短い悲鳴があがり、その目が見開かれる。
「……な、なぜだ」
「……先に捨てたのはそっちだ」
そういいきって、俺は父だった男の首を切り裂いた。
ぐっと剣を抜き、すぐに鍵を探し出す。
地下へと降りると、牢屋の中で鎖をつけられていたレディがいた。
だいぶ衰弱しているようだが、こちらを見る目は鋭かった。
「……また、ですか。あなたではなくロイド様をつれてきて欲しいのですが」
「レディ、遅くなった」
「……へ? 何を言っているんですか? ……とち狂いましたか」
不気味がるようにレディが視線を外に向ける。
俺は牢屋の鍵をあけ、鎖を外す。
「……どういうことですか?」
「こういうことだ」
俺は周囲に鎧が転がっているのを見て、一度自害する。
突然の自殺に目を見開いたレディだが、俺よりも死には慣れているようで、案外すぐに冷静になる。
俺はボロボロの鎧の体を動かし、それから口を開いた。
「……つまり、こういうこと。ロイドの異能は、死んだときにだけ発動するもの。最後にみたものの体を乗っ取るってことなんだ」
「……本当似、ロイドですか? ていうか、どうしてそんなことがわかったんですか?」
「父さんに、殺されたんだ」
口を開いた途端、レディの目が見開かれ、苛立ったようにつりあがる。
「……どうしてですか? 私があなたから離れれば、あなたのことは殺さないと言っていましたよ」
「……本当に?」
「ええ。……その、だから私はあなたの前から去ろうと思いました。私は……ロイドと一緒にいたいですが、それ以上に生きていてほしかった」
「……レディ。まあ、結局死んじゃったんだけどね」
「……ですが、また助けてくれました」
「レディ。俺はもうこんな風にしか生きられないけど……それでも一緒に来てくれるか?」
「何を言っているのですか。確かにここにいるじゃないですか。冷たいですけど、しっかりあなたを感じられます」
「さっき気づかなかったじゃないか」
「それ以上にあの騎士への憎しみが」
ぺろっと舌をだした彼女の頭を軽く撫でる。
「それじゃあ、旅に行くか」
「ええ、あなたの最強の体を探しに!」
「え、それを目標にするのかよ」
苦笑しながら、俺は屋敷に火をつけてそのまま町を飛び出した。




