~第九章~
~第九章~
「豊世神様…もう……」
絶えられなかった。私は、私のはずなのに…。
私は今まで、引かれたレールの上を歩いていたんだ。
「水幸神…貴方の願いを、お教え願えますか?」
丁寧な口調。暖かい言葉。その全てが、私を受け入れてくれている。
「翡翠さん!! 貴方は人間だ!!!」
「うるさい!!」
今まで、こんな言葉を使ったことがあろうか。
学校でも家でも、私はそれなりに大人しく、興奮しないように過ごしてきた。未だ戻り続けている記憶の中でも、私がそんなに興奮しているのは、見受けられない。それでも、我慢することができなかった。
私を玩具として扱い、それに飽きたら我が子のように接し、それでも飽き足らず私を縛ろうとする、この人達への、感情が。
「貴方方は、私を弄んでいただけではないですか!! そんなに面白かったですか?私で遊ぶことは!?」
「違うんだ、翡翠さん!!」
「呼ばないで!!!」
叫んだ私に、先生は驚きを隠せないでいた。当たり前だ。叫んだことなど、なかったのだから。
私は涙を流しながら訴えた。
心の底から、懇願した。
「私を封じたその色の名で、私を呼ばないで下さい」
もう、私に、関わらないで下さい。
泣き崩れる私を豊世神様は支えてくれる。抱き寄せてくれる。
体温のないその人を、私は何故か暖かく感じた。温もりを感じた。
「豊世神様…、私を、貴方のお傍に――――」
その言葉が終わるや否や、豊世神様は私をよりいっそう強く抱きしめ、言った。
「水幸神、もう、泣くのはおよしなさい」
笑いなさい。私は貴方の笑顔が見たい、と。
その言葉に安心できた。病室の端の方では先生が何かを叫んでいるが、もう私の耳には届かない。
「愛していますよ、水幸神」
「はい…私も、貴方様を愛しております」
その言葉と共に、私達は燐光に包まれた。
あぁ、これで帰れる。何もかも、終わるのだ。