~第七章~
~第七章~
化け物……?
何のこと?
そう問いたかった。
でも出来なかった。
「これは……」
言葉が出てこない。看護師さんは相変わらず私をいやな目で見てくる。
「何…?」
視界が暗い。
腰のあたりに何かがある。
それは分かった。
「あの、これは………」
「来ないで、化け物!!」
そう叫んで看護師さんは私のいる病室から出て行った。それも走って。
私はまだ状況が理解できていなかった。
ベッドを降り、何故かふらつく足を叱咤しながら鏡の前まで歩いた。
そこで私は息を飲んだ。
「ばけ…も…の……」
その響きが、一番ぴったりだった。
鏡の中に映る私。でも、今までとは違う。
漆黒の髪。それはいつもと変わらない。なのに、長さが違う。肩甲骨を過ぎたあたりだった髪は腰を少し過ぎた辺りにまで伸びていた。翡翠色だった、私の名前の由来にもなった瞳の色は黄金に輝いていた。
「何…これ……?」
ふと視線を落とした。すると自分の手が見えた。でもそれはいつもの手ではなかった。
「刺青……??」
両の手の甲に藍色の変な模様が浮かび上がっていた。刺青かとも思ったが、そうではなかった。何故分かったかって? だって、右の手の甲の模様の中心に、瞳の色と同じ、黄金の玉が埋まっていたから。左にはない。
泣きたいような気もした。
叫びたいよう泣きもした。
でも、出来ない。
そんな気力、そんな余力、残っているはずもなかった。
「翡翠さん!!」
先生と、さっきの看護師さんが走って私のところに来た。
私はゆっくりと二人の方を振り返る。
看護師さんは私から目を背け、先生は数珠と、御札? 見たいな物を胸ポケットから取り出して、私に向けた。
その瞬間、頭のどこかで理解した。
「私を封じたのは、先生だったのですね」
母と父のために。
「帰って来なさい、翡翠さん」
私はゆっくりと首を横に振った。微かに微笑んで。
「いいえ。違います。私が帰るべき場所は、あの御方の元です」
だんだん鮮明になってくる、私の記憶。
先生は小さく舌打ちをし、何かを唱えて私に何かを放った。
ほとんど反射だった。
私は右手を開いて先生が放ったものの方へと向けた。
先生の放ったそれが消える。
「先生、私、もう、ここにいたくありません」
貴方の元へと、帰還することを、私は望みます。
豊世神様。
私がそれを心の中で叫んだ瞬間、私の後ろに誰かが立った。