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~第五章~
~第五章~
「翡翠さん?」
やめて。
「どうかしましたか?」
来ないで。
私の傍に寄らないで。
「翡翠さん?」
「やめて!!」
お願い。
その名前を、私に向けないで。
「お願いです……。少し、一人にしておいてください」
お願い。
私の傍に寄らないで。
「…分かりました」
そう言って先生は看護師さんを私の病室の前にひとり置いてから病室から離れていった。
怖かった。あの声ではなくて、先生が。どうしようもなく恐かった。
「水幸神」
あぁ、また聞こえる。私の愛しい声が。
「豊世神様」
幻だと、本当ではないと、分かっているのに。それなのに止まらない。あの愛しい人を想う気持ちが止まらない。
お母さんは知らないと言った。私はずっとここですごしていると言った。それでもじゃあ、この気持ちは何?知らない人を、夢の中の人物をここまで想う私は何?
本当の事を教えて。
「水幸神、戻っておいでなさい」
「豊世神様、帰りとうございます」
声が、重なった気がした。
私の愛しい豊世神様と――――。