~第三章~
~第三章~
目を開けるとそこには見慣れない天井があった。
「翡翠、目が覚めたの?」
お母さんの声がする。
「お母さん……?」
お母さんがほっとしたような顔で私を見下ろしている。
さっきまでのは、夢?
いまだ覚醒しきらない顔をしている私を心配してか、そうするように言われてなのか、お母さんはナースコールを押した。すぐに見知った顔の先生が来てくれる。
「翡翠さん、どこか痛むところはありませんか?」
「ありません」
「気持ちが悪かったりしますか?」
「いいえ」
先生が問いかけてくる質問に答えながら頭の中を整理していく。
『豊世神様』って誰だろう。あそこはどこなんだろう。私はあそこを知らない。あの人を知らない。なのに、何故か胸が締め付けられる。
考え込んでいると先生の診察が終わった。
「身体に以上はないようですが、検査のため、今晩はここにいたほうがいいでしょう」
「分かりました」
先生は私に安静にしておくように言いつけるとそのまま病室を出て行った。
検査入院、か。初めてかもしれない。
「ねぇお母さん」
「何?」
私はお母さんに夢のことを話した。『豊世神様』と呼ばれる真っ白な男の人のこと。その夢の中で自分が五歳か、それより低い年齢だったと言うこと。
その場所や、その青年がとても懐かしく感じられたこと。
お母さんは話していくうちに顔が青ざめていくようだったけど、話が全部終わったころにはいつもの顔に戻っていた。
「さぁ…お母さんは分からないわね。それより翡翠」
「何?」
「貴方、髪の毛はいつ切るの?」
「ううん…もう少し、伸ばしてみたいなぁ」
「そう…お母さんは短いほうが貴方に似合うと思ったけど」
無理矢理、話を変えられた気がした。でも、そんなことをお母さんがする理由がないと想ったから、それは考えないことにした。
私はずっと髪が短かった。お母さんやお父さんに短くしておいたほうがいいと言われていたから。それでも無性に短いのがいやで肩に当たるかあたらないかと言うところでずっと留まっていた。でも最近、その長さもいやになり、ずっと伸ばし続けている。ようやく肩甲骨を過ぎたあたりになってきた。
自分では髪が長いのも悪くないと思っているのだが…お父さんもお母さんもそうは思っていないようだ。
「そろそろ切るのも、考えておいたら?」
「…うん」
曖昧に返事をしておく。切りたくない。ずっと伸ばしていたい。夢の中の小さな私は今より少し長い程度だった。せめてそこまで伸ばしたい。
「じゃあお母さん、荷物を取りに行って来るから」
「うん」
お母さんが私のパジャマや色んなものを取りに家に帰る。
私も帰りたい。
……どこに?