8話
――次の日。寝起きは最悪だった。顔を洗い、鏡を見ると、目の下に出来た大きな隈が目につく。結局、昨日は寝ることが出来なかった。あの出来事が頭から離れない。あれは一体なんだったんだろう?
……夢、幻?いや、そんな訳ない。あれは――《現実》だった。
――ピーンポーン……
家のインターホンが鳴り響く。ガチャリと玄関を開ける音。
「尚也~、祥平君と正也君、来てくれたわよ~!!」
母の声。それは正真正銘「神童雅子」の声だった。俺は学生鞄を持ち、親友二人の元へ向う。
「おっせーぞ、尚也」
「……ごめん」
俯き、小さく言葉を返す。
「ん~?どうしたんだよ、元気なくないか?」
「……ううん、大丈夫」
そう言って、俺は一人で歩き出す。祥平は俺の後を追い、正也は、ただ黙って俺の背中を見つめていた。
通学路を歩く。街中はどこか落ち着かない。街中の人々が自分を見ているような、そんな不気味な感覚。
「なぁなぁ正也、あそこのバス停の子、かわいくね?」
「お前、ホントそればっかだな」
いつもの二人。そんな二人を見て、少し安心する。でも、違和感が取り除かれた訳ではなくて、暗い気分のまま街路を歩いた。




