5話
――ガラガラッ。
「おーいお前らぁ、席に着け~」
担任教師、筒野真奈美。適当で、ガサツ、おまけに座右の銘は、「面倒なことはしないだ」、と言い切る女子力0のダメ教師。現在独身真っ盛り中である。
「おーい、神童。心の声が丸聞こえだー……あとで職員室に来なさい」
――な!!
クスクスと笑い声がこだまする。
「それと、今日は転校生が来てるんだ。綾瀬、入ってきていいぞ~」
「――ここに居ます、先生」
クラス中の視線が筒野の左横に集まる。そこには確かにうちの制服を着た女子生徒がいて、無表情でこちらを眺めていた。
「綾瀬瑠依。よろしく」
その一言だけを言い終えると、綾瀬は一礼し、すたすたと空いている席に腰を沈めた。
「あー、ごっほん。じゃぁ皆、仲良くな。これでホームルームを終わりま~す」
筒野は、それだけ言い残すと、そそくさと教室をあとにする。静まり返った教室。完全に取り残された生徒達。気まずい雰囲気が口を重くする。しかし、そんな沈黙を破ったのは、意外な人物だった。
「あ、あの。わ、私、西野舞香っていいます!そ、その、よろしくね」
ビクビクと肩を震わせて、ぎこちない笑みを向ける西野を、綾美は無表情で見つめる。すると、いきなり両手で西野の顔をぺたぺたと触り出した。西野は「あわわっ」と可愛い奇声を上げながら、顔を赤く染め上げる。
「把握した。よろしく、舞香」
「え、あ、うん……よろしくね、えーと」
「ルイでいい、皆そう呼んでる」
「うん、了解。よろしくね、ルイ」
西野はニコリと笑うと、綾瀬の手を握った。そんな西野の勇士に感動していると、後ろに座る祥平が、ツンツンとシャープペンの後ろで俺の背中をつついた。
「なぁなぁ尚也、あの綾瀬っていう子、どう思う?」
「どうって、何が?」
「結構可愛くね?」
「あぁ、まぁ確かに……A+って所だな」
「おぉ、尚也にしては高い配点だ」
「俺にしてはって、何だよ」
「おやおや~、男子二人は、転校生ちゃんが気になって仕方ないって感じかにゃ~?」
左横に座る水瀬が、むふふっと口に手を当てて話に混ざってくる。
「なんだよ、瑞樹ぃ。今は尚也と二人で男子トーク中なんだ、じゃますんじゃねぇーよー」
しっしっと追いやるような動作をとる祥平。その手を水瀬は容赦なく掴み上げ、えいっ、と明後日の方向に捻じ曲げた。
「うぎゃぁぁぁぁ腕がぁぁぁぁ!!」
「うっさい、猿」
絶叫する祥平を冷めた目で見据え、水瀬はぐいっと尚也の方に近づく。そして、耳元でこう囁くのだ。
「よそ見してていいのかな~、尚也くぅん。そんなんじゃ、「THE鈍感」の舞香は、いつまで経っても君の気持ちに気付いてくれないよ~」
なっ!?
不意を突かれて仰け反りながらも、平然を装って一度咳払い。
「なんでそこで西野が出てくんだよ、関係ないだろ」
「ふ~ん、まぁいいけどね~」
にたりと意味深な笑みを浮かべると、水瀬は体を引き戻す。
「二人で、何話してんだよ~」
「ん~?あんたには永遠に縁のない話~。ね、尚也」
にやりと口の端を吊り上げ、水瀬は俺を見た。




