表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BRAINコネクト 改正版  作者: 滝口 峻
第一章 「レベル1掃討作戦」
15/15

13話

 ――午後四時二十分。

 赤信号。沢山の人。俺は彼女と手を繋いだまま、信号を待つ。不思議なことに、彼女と手を繋いでいる間、他者からの異様の視線が無くなった。

信号が変わり、大衆が一斉に動き始める。今まで普通だった光景が、今では凄く異様で、不気味な物に見えた。だって――そこら中に死体が転がっているから……。


 大人の死体。子供の死体。老人の死体。若者の死体。学生の死体……。それらを踏みつけ、蹴りつけながら平然な顔をして歩く人々。まるで、彼らの目には何も映っていない様だ。そして、それらを忙しそうに処理していく清掃ロボット。その姿は、完全にそれらを、この世界から除外している様に見えた。元々そこには、何も無かったとでも言うかのように……。


「いや、俺もそのうちの一人だったんだ……」


 小さく呟き、それら「異常」に目を逸らした。

 ふと、ルイが足を止める。顔を上げると、そこは俺の家の前だった。


「あなたには見る権利がある」


 綾美は静かにそう言うと、俺の手を引いて、ずかずかと家の中に入っていく。


「お、おい!!何勝手に……」


 そこまで言って俺は言葉を詰まらせた。乾いた血がこびり付く廊下。異臭。奥歯を噛みしめ、リビングに入ると、冷蔵庫の傍に倒れている母の死体を見た。


「母……さん」


 胸に、深々と突き刺さったナイフ。血の気のない、真っ白な顔。口元を押さえ、その場に座り込む。やはりあれは――幻じゃなかった。


「……これが現実」


 綾美はボソリ呟き、左手を払う。空間にビチビチと電流が流れ、剥がれ落ちたARが補強されていく、こびり付いた血は白色に塗られ、夕焼けがリビングを綺麗に染める。そしてそこには、何も無くなった。


「ただいまー、あら?尚也、帰ってるの?」


 母の声が聞こえる。仮想の……偽物の……母の声。足音。ガチャリと開くリビング扉。


「もう、返事くらいしなさいよ、尚也」


 顔を覗かせる母の姿をしたARは、母そのものだった。

 ……でも。


「……この、偽物(ばけもの)が!!」


 震えた声を張り上げ、固く握った拳を(AR)に振りかざす。拳は(AR)の頬に食い込み、勢いで壁に激突する。生暖かく、柔らかい。本物の人間のようだった。もしかしたら、さっきのが幻で、今目の前にいるのが、本当の母なのでは?……そうであってくれ、と心の何所かで願っていた。でも、俺の希望は完全に消滅した。目の前の母を、いや……ARを見て……。


 ――ビチビチビチッ……。


 母の顔をした何かは、ぐねぐねと不気味に歪む。顔や体にノイズの様なものを走らせ、ガクガクと揺れる。そして、一度元の姿に戻ると、パリンと音を立てて砕けた。


「……これが、現実なのかよ……」

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ