12話
銃声が聞こえた。さっきと同じ様なことが、また起こっているのであろうか?
「くそっ……」
舌を打ち、階段を駆け下りる。
「とにかく、警察に行かないと……」
通話終了と表示されたBRAINアーツのARディスプレイを閉じ、残り数段を飛び下りる。靴に履き替え、校門を抜け、坂道を下る。そして、商店街に入った所で、街を巡回中の警官を見つけた。
「……お巡りさん!!」
息を切らしながら、特徴的な青い正装に身を包んだ男に話しかける。しかし、直ぐに異変に気付く。だって……。
「どうしたの……君?」
男の服には、べっとりと、返り血がこびり付いていたから……。
「いや……あの……」
滲み寄ってくる男に後退りながら、尚也は背後を確認する。しかし、既に退路は断たれていた。街を歩く人々が尚也を濁った目で見据え、尚也を取り囲んでいたのだ。
「……なんなんですか、あなた達」
生唾を飲み込み、言葉を投げかけるが、返答はない。
「君……死んでくれる?」
警察官の手に握られた拳銃。正也との出来事がフラッシュバックする。拳銃は、正也の物と同じだった……。
「……そう言えば、あいつの父さん警察官だっけ」
打つ手なし。諦め、目を閉じて、迫りくる死に怯える。
思い返せば、何もない人生だった。何を頑張った訳でも、やり遂げたことがある訳でもない。友人と馬鹿をして、何もない日常にただ流されていただけ……あぁ……死にたくないな。
「――伏せて」
聞き覚えのある声が、耳元で囁く。体を地面に押し倒され、訳が分からずに目を見開く。
――ババババババッン!!
銃声と共に、弾薬が燃え盛る。強烈な光が辺りを照らし、目を細め、耳を塞ぐ。音が止み、ゆっくりと顔を上げると、無表情の綾美と視線が交わる。右手に握られた大き目の小銃。ゲームなどではよく見るが、現物はその倍上の殺気を放っていた。辺りに、無数の死体。中には、老人や、年端もいかない子供の死体もある。これを、綾美がやったのか……?
「遅れてごめんなさい。立てる?」
差し出される手に掴み、立ち上がる。周囲に立ち込める異臭。二人を見る恐怖の眼差し。
「ここはダメ。場所を移しましょう」
手を引かれ、走り出す二人。彼女の手は人形の様に冷たく、それでいて、しなやかだった。