救出作戦
「マイ、なんでここに…」
マイとは、おれの出来のいい妹の名前である。
実は俺たち兄弟はアメリカ人と日本人のハーフなのだが、顔立ちは完全に日本人だ。
ではアメリカ人の血はどこにいったのか、
それは髪色である。
おれが金髪、マイが銀髪なのだが、
俺は校則に引っかかるのと、ひどく不良扱いを受けたため、こうやって黒く染めている。
「あ、あれがおまえの妹なのか?髪色といい服装といい、かなり目立つな」
ツララと一緒にいる男が驚きの表情を露わにする。
「へー、あれがシンジ君の、にしても妹さんは君と違って美人さんだなー」
「美人ねぇ…」
ツララは何がおもしろいのかずっと笑いを堪えている。
それにしても、
銀髪にまさかの和服コーデという奇抜な格好をする妹を美人ね、
ツララの脳味噌はあちこち腐っているらしい。
「というかいいのか?シャッターが閉まっていくのだが」
「あーー!!!」
ブツブツと考えている間に、妹の姿は金属の壁に阻まれていた。
非常にまずい状況。
「なんとか、助けられないか…」
無謀すぎる一言を口に出すが、
「流石に無理があるだろ、どう見ても計画性のある犯罪だし、俺たち一般人には到底な」
とまぁ、当たり前のように反対された。
「そんなこと言っちゃだめでしょ、ヨモギ、大事な家族があんなところに閉じ込められてるんだから」
「ヨモギ?」
そう言えば名前を聞いてなかった。
どうやらもう一人の男の名はヨモギというらしい。
「シンジ君だったか、心配する気持ちは分かるが、ここは警察に任せよう、そのほうがいい」
「僕も残念だけど賛成だね、無理して死にたくないし」
俺も内心彼らに賛成していた。
だがそれでも体がそこから離れようとしない。
嫌な悪寒が背筋を走り、淀んだ空気が俺の周りを覆っていた。
おれのような身体能力に乏しい人間が、強盗グループの中に飛び込めば、確実に命を落とすだろう。
それでも、俺は。
「そんなことは…わかっている、でもあいつをほっとくと本当にやばいことになるんだ」
本心だった。
だが本心だったからこそ、他の人には中々伝わらない。
「やばいことって何さ?妹さんは人質として捕まってるんだから危害はないと思うけど」
ツララは腕を組みつつ、シャッターのほうに目配せした。
だが俺はツララと目を合わせることなく、反論をする。
「あいつは人質の枠になんか到底収まらない、絶対に何かしようとする、それがもしも失敗するようなことがあれば、あいつは死ぬ」
「流石にそれはないだろ、服装をみた感じ動けるような感じじゃないし」
野次馬が騒ぎ始め、パトカーのサイレンが辺りから響いてきた。
「とりあえずだ!!どうにかしてあの中へ入らないと」
「まってよ!!」
ツララが俺の右腕を掴み、動きを止める。
必死に振りほどこうとするが、まったくビクともしなかった。
「君じゃ絶対に無理、僕よりも筋力ないし、体力もない、ヨモギより冷静さは欠いてるし、技術もない、君にはなんの力もない」
ツララの言葉が槍の雨となって、俺の心に突き刺さる。
なんの力もない、そうだ…。
俺には何もない、
何も……。
「あらー?大人しくなったね、じゃあここで一つ提案だ」
「提案?」
指を鳴らす音と準備運動をするヨモギの姿を目の端で捉えて、彼らの方を振り返る。
「提案ってなんだよ?」
「そりゃー、もちろん妹さんに関することさ」
「おまえ、さっきまで俺たちじゃ無理だとか言ってなかったか?」
ツララはとぼけた顔でニヤッとした。
どうやら、こいつらは本気らしい。
「あのな、おふざけじゃないんだぞ、命をかけなきゃいけないんだ」
「同じ言葉をそっくりおまえに返してやりたいよ」
ヨモギはグローブをはめて、マスクをしていた。
見た感じだと戦闘を行う前の戦士のような…。
「僕たちだって死ぬのはいやさ、でも君に死なれても困る、ってことで一つ思いついたのさ」
「妹救出作戦」
「なんでこんなことに…」
だれにも聞こえないように小さくため息をついた。
私の名前はマイ、王明 マイ、
中学三年生、現役バリバリのバスケ部主将だ。
私は今なんと人生初の人質をしている。
生活費を下ろすために銀行に寄ったのが運の尽きだった。
いきなり銃声が聞こえたかと思うと、煙幕が視界を覆い、そしていきなり手首を縛られて、動きを止められてしまった。
私としたことが……不覚。
だがチャンスはある。
今、強盗三人組は何やら金の分配でもめているようだ。
それでも
まだ飛び込める状況ではない。
落ち着いて身図るんだ。
そう自分に言い聞かせながら、最大のチャンスを狙いつづける。
自慢ではないが、身体能力には自信がある。
一瞬のチャンスでも必ずものにしてやる。
だが一人で八人を相手にするのはきつい。
人質は私を含めて六人、
他に動けそうな人は、
私以外いないようにみえた。
「やみくもに動いても、銃で撃たれて死ぬだけ…、やっぱり銃が奴らの手から離れたときに殺るべきか……」
わかっている。
そんなチャンスは、必ず訪れるものではないと。
だからこそ、焦りが心の余裕を失くしていく。
「やっぱり、危険を犯しても突っ込むべきか、運が良ければやつらから銃を奪えるかも」
ダメだ、
考えが甘すぎる。
やつらがもし、銃と腕を固定するチェーンでもつけていたらどうする?
もう少し、慎重にいくんだ!!
時間が過ぎていくたび、極度の緊張がさらに増し、冷たい汗が背中を伝っていく。
もう……待てない。
「殺るしかない」
強い決意を胸に秘め、私が立ち上がろうとした、
そのとき、
私を含む銀行の中にいる人全員を.一瞬で暗闇が包み込んだ。