やんちゃボーイ・びっちガール
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どうせならただの猿にはなりたくない
みんなと同じ空気を吸って
同じ輪の中に入って息苦しくなるなら
俺は一人でいい
来る者拒まず去る者追わずな俺が
誰かに好かれることはなく
上辺だけの愛をただ握りつぶす毎日
いつから、こんな風になったのかな
ああ、忘れてなんかない
あの日から、俺の時間はずっと
止まったままなんだ。
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「皐月くん‥好きだよ」
「じゃあ、おいで」
「皐月くんは私のこと、好き?」
「ああ、うん」
そういって俺は身に纏ったもの全てを剥いで
無気力にただ、それを繰り返していた
「皐月くん、大好き」
「なんのこと?」
「え?冗談だy‥「そっちが冗談」
「え?」
「俺が本気で好きになるとか、
ないから。気持ちよかったよ(笑)
タマってんならまたどーぞ。」
「最低…っ」
「褒め言葉さんきゅ、じゃあな」
俺だって、
何も思わないわけじゃない
毎日こんな自分を殺したくなる
それでも忘れられない体温があって
それが俺の肌にこびりついて
離れないから
掻きむしって掻きむしって
また望みもしない誰かを求めて。
もう、殺してくれよ
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「ひなた、クラブいこうよ」
「いくいくー…!
よし、今日で50人目、いくなこれ」
「まだヤった数かぞえてんの?なんの目標それ(笑)」
「いいの、私これしか生きがいがな‥」
「ほんとビッチだよねー!きゃはは」
「…うん(笑)」
苦笑い、愛想笑い、
どこに行けばこんな顔せずに
いられるの?
私に居場所なんて、どこにもない
だからせめて、抱かれている間だけは
愛を感じたい。
ずっとなんてなくていいから
せめて、少しの間だけでも
誰かに私だけを見て欲しい。
そんな私は、最低な人間だ。
「ひなた、あの人すごいかっこよくない?」
「まあまあかな。」
「えー‥!声かけてみようよ!ほらいこ!」
「え、ちょっとまってよ!」
ドンッ
誰かにぶつかった。
「おいこら、ぶつかってんじゃねえぞ」
「あ、ごめんなさい」
「お前、もしかしてひなたじゃね?」
「は?なんで知って‥」
「あのクソビッチの!ははは!」
「な、なにそれ」
「なあ俺にもヤらせてよ」
「興味ないから無理」
「ふざけんなよ、ちょっとこっちこい」
「ちょやだ、離して」
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俺はクラブに来ていた
誰かヤれそうな奴‥
あー今日はあんまいねえな
帰るか…
───ちょやだ、離して
ん?
なんだ揉めてんのか?
クラブではありがちありがち‥
どうせブスな女の‥って
美由…?
う、うそだろ
だってそんな
ありえない
そう思ってうろたえた俺の足は動いていた
「お兄さん、その子離してあげてくんない?」
「はあ?なんだお前」
「なんならお兄さんと俺、ヤってもいいなあなんて」
そういって男の股間に手を伸ばした
「なんだお前‥き、きもいんだよ‥ッチ」
そういって男はどこかに消えた
「あの‥ありがとうございます」
「え?あ、ああ‥別にいいんだけど、あのさ」
「はい?」
「君、なんて名前?」
俺は焦っていた
その二文字の名前がもしこの子のくちから
でてきたら俺は…
「ひなたです。佐々木ひなた」
ああ、やっぱり違うよな
あいつが俺を見て何も思わないわけ、
ないもんな。
「そっかそっか‥はは‥じゃ俺はこれで」
「あの!!」
「あ、はい?」
「よかったら抜けませんか?ここ」
「え、っと。うん。いいよ。」
俺は完全に動揺していた
この子は美由とは違う
でも、すごく似ている
雰囲気も顔立ちも
よく見たら少し違うけど、
やっぱり似ている
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俺たちは近くのカフェに入った
「あなたの名前は?」
「俺?皐月だよ」
「皐月くんは、よく行くの?クラブ」
「まあまあかな」
「彼女はいるの?」
「唐突だな(笑)
いたらクラブなんか行かねえよ」
「そんなもんなの?いても行く人は行くでしょ?
みかけによらず真面目なんですね」
「それ褒めてんのか貶してるのかわかんねえよ(笑)」
「一応褒めてるんだけどなー」
「ふっ(笑)」
「何?なんで笑った?」
「可愛いなって思って」
「口説いてるの?」
「さあ?」
「…今夜私を抱く気なんでしょ」
「自意識過剰な女は好きじゃない」
「嘘つきな男も好きじゃない」
「俺はまだ嘘ついてないけど?」
「う、うるさいな 」
「俺の勝ちね、じゃあ行こうか」
「どこに?」
「抱いてほしいんじゃねーのかよ、はやくこい」
「はあーーーーー?!」
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俺は久々に楽しいと思っていた
でも同時に寂しくなっていたのも
事実で──
ああ、美由
今でも好きだよ
でもその言葉をくちにすることすら
今の俺にはできなくて
臆病で、ごめんな
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ベッドでのひなたは予想以上に可愛くて
俺はまた久々に夢中になった
「可愛いよ」
そういって俺は意地悪く笑った
「皐月」
…っ!!
───皐月
美由…?
初めて美由を抱いたあの時と同じだ
───皐月の笑った顔が好き
「皐月の笑った顔、好き」
ぽた…ぽたっ
俺の瞳から涙がこぼれていた
「え?皐月くん?どしたの?」
「いや、ははっちょっと目にゴミが」
「このタイミングでそんなことあるわけないじゃん」
「なんでもねえって(笑)」
「話してよ。」
「何を話すんだよ」
「全部だよ、その何処向いてるかわからない瞳の中に何があるか教えて」
「……」
俺は話してしまった
2年前
最愛の彼女美由が自殺したこと
そして俺は抜け殻になってしまったこと
その頃から遊びまくっていること
そして、
ひなたが美由に似ていること。
「なるほどね」
ひなたはそれだけ言って俺と手を繋いだ
「何?」
「私は美由だよ
皐月、抱いて?」
「…好きだ」
俺は自分の胸の中がボロボロになることを
自覚していた
そして、ひなたの胸の中は
もっとボロボロなことを知らずに
俺は何度も何度も美由の名前を呼んだ
そして
何度も何度も好きだと
愛してると言った
忘れていた感情やずっと言えなかった気持ちの
塊が全部吐き出せたような気がした
いつしか俺の家には
ひなたが居候するようになった
「なんだそれ?」
「マグカップ、可愛いでしょ」
「何そのキャラクター…ぶっさいく‥(笑)」
「ぶっさいくとか言わないでよ」
「まあいいけど(笑)」
「皐月に笑ってほしくてさ」
「ふーん」
俺はそれでも肌を重ね続けた
そしてその度にあの名前を呼ぶ
ひなたは、ただ笑いかけてくれるだけだった
罪悪感は少しばかり持っていた
それでも自分の中にある愛しい気持ちを
相手がこの世にもういない場合の
処理の仕方がわからないまま
ひなたを抱くことだけが自分を満たした
そして数日たったある日
ひなたが居なくなった
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私は、最低だ
あの夜、初めて皐月が私を抱いてくれた夜
私に笑いかけてくれた優しい彼の瞳の中に
私はいなかった
今まで何人もの男と寝たんだ
セックス中に男が何を考えているかくらい分かる
それでも皐月のことは
わからなかった
私はその時からもう
皐月に恋をしてたのだ
単純かもしれないけど
それなのに。
皐月は私を何度も抱いた
それは私が自分を
美由だと言えば
この人は愛してくれると
わかっていたから。
私はただ笑った
私が得意とする
一番嫌いな私。
それでも皐月が喜んでくれるのなら
私はひなたという名前を捨てる
何にでもなってやると思った
それでいつか
私を見てくれるのでは?という
甘い考えを持っていたから。
自分で自分を傷つけた。
最初からわかっていたのに。
はじめから私を見ていたわけじゃない。
私は皐月のことが好き
だから皐月に一生
私を忘れられないように
もう一度味わって。
その悲しみを。
さようなら偽物の私
私は自分の家の屋上に登った
マンションから見るいつもの街は
私の知らない所のようだ
何でこんな恋をしてしまったんだろう
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俺は焦っていた
美由を失ったあの時、
一本の電話で伝えられた言葉で
俺の大切なものが壊れる音がした
───美由は死にました
──美由は貴方のせいで
─美由が何をしたっていうの
そんな言葉を浴びせられていたけど
─すいません、お電話、ありがとうございました
俺はそれだけを伝えたあと電話を切って
嘘だろって少し笑ったあと
泣き崩れた
俺はその時に決めた
次はないと。
もう次の恋はしない。
そう誓ったのだ
「何やってんだろ俺」
俺はひなたのことを考えていた
俺は恐くなった
ひなたが居なくなったら
どうしよう。
そう思った時、俺はあることに気づいた
俺が好きなのは
ひなたなんだ。
確かに出会いは美由のことがあって
美由のことを想って抱いていた
だけどそれは思い出に浸るただの俺の感傷で。
俺は走りだした
ひなたは自分の気持ちを殺して
俺に一度もひなたとして
好きだと言ってきたことはなかった
それは紛れもないひなたの優しさで
あいつの悲しそうな目を俺は
気づかないフリしていただけなんだ
それでも俺は
これからもずっと
ひなたと一緒にいたい
いつか俺に言ってくれたように
俺もひなたの笑った顔が見たい
──皐月に笑ってほしくてさ
バンッ
勢いよく扉を開けると
ビルの端っこにひなたは立っていた
「皐月?」
「ひなた‥お前に話がある」
「ごめんね、私、美由じゃないの」
「わかってるよ、それは。
でも俺は」
「もういいんだ。最後まで美由で居られなくてごめん
それでも私、やっぱ皐月には
私を見て欲しかったんだ」
「ひなた‥俺は」
「皐月、怖い?私が死のうとしてるから?」
「ああ、怖いよ。すっげえ怖い。」
俺は笑ってみせた
「怖すぎて笑ってるの?その笑顔卑怯だよ」
「ああ、俺はお前を失うのが怖いんだよ、ひなた」
「美由、でしょ。好きな女の面影がある女を失うのがそんなに怖い?」
「自意識過剰な女は好きじゃない」
「もう一度言って」
「好きだよ、ひなた。お前が好きだ」
「嘘つきな男は好きじゃな…」
そう言い返してくれるひなたが愛しくて
俺は抱き寄せキスをした
それから俺たちは
思う存分愛し合った
今度はちゃんと。
ちゃんとお前を愛してあげられる。
そうだな。
やんちゃボーイな俺とはバイバイだ。
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皐月は相変わらずで
それでも変わったことがある
マグカップを使ってくれている
こういうところが好きでたまらない
そして私の名前を呼んでくれる。
甘い声で何度も。
私はちゃんと愛されてるんだ
ビッチガールな私とはさよならだね
「なあ、ひなた」
「ん?」
「好きだよ」
「知ってる」
「自意識過剰な女は‥」
「わーかってる」
「(笑)」
ー終わりー