エピローグ
エピローグ
大海のような青空の下、北校舎の屋上で、平孫とやよいはむかいあっていた。
ただし互いに目はあわせずに、足元を見ている。
「準備はいい?」
「よ、よろしくおねがいします」
平孫の問いかけに、やよいはうなずいた。
「せーの!」
二人は言って、顔をあげ、目をあわせた。
一秒
二秒
三秒
四秒
五秒――
「むはっ!」
まるで水中から水面にあがったように、やよいは大げさなうごきで平孫から目をそらした。彼女は胸のあたりを手でおさえて、呼吸をととのえる。
「む、むずかしいですね、やっぱり」
「大丈夫だって。最初はそんなもんだから、つづけていけばいいって」
平孫は言って、サムズアップした。以前、やよいが自分の人見知りを直したいと言っていたので、いまそのための特訓をしているところだった。
「だってこの俺がここまで変われたんだから、羊坂さんも絶対に変われるよ」
「はい」
やよいがうなずいた、そのときだった。
「みてみ、ジュンジュン。あそこにバカップルがおるで」
「そうだね」
そんな声が聞こえて、平孫がそちらを見ると、ペントハウスに背をあずけ、日陰の中からこちらをながめている文香と純がいた。
平孫はやよいといっしょにペントハウスのほうにいき、日陰の中に入った。
「ああ。平孫ちゃんにやよいっちダメだよ。ここはウチらみたいな日陰ものだけが入ることを許されるヒトリミーズ空間なんだよ」
「いっしょにしないでくれるかな、中村」
「事実じゃん」
「僕は好きで一人でいるんだ。キミとはちがって」
やれやれと純が肩をすくめる。
「しかし早いものだね。二人がつきあって、もう一週間か」
「まさかほんとうにつきあうとは……やよいっち、ほんとにそれでいいの??」
文香が指さしてくる。
「それってなんだよ、それって」
平孫はもんくをいってから、やよいのほうを見る。
するとやよいはいちど平孫の顔を見て、それから文香にむかって言った。
「はい」
「ぐはっ、ラブラブエリアを形成しおる。つらぽよ」
文香が胸をおさえて苦しみはじめた。
すると純が、平孫にむかって聞いた。
「なあ、不動。つきあうのって、楽しい?」
「ん? まあな。というか、おまえがそんなこと聞くなんて意外だな」
「…………別に」
言って純はあくびをする。
そんな彼を見て、文香が言った。
「あらあらジュンジュンったら、うらやましいのね? ウチと付き合う?」
「……っち」
「なんで舌打ち! ひどっ!」
文香はやよいに泣きつく。
「ふえーん。やよいっち、ジュンジュンがいじめるよー」
「だ、ダメですよ、大栗さん」
「……羊坂をつかうのは、ずるいと思う」
純はため息をつく。
平孫はそんな三人のやりとりを見ながら、胸の中に熱いものを感じていた。
不良をやってたころは考えられなかった。自分の周りに、こんなに人がいるなんて。
もし文香がいなければ、きっとあきらめていただろう。
もし純がいなければ、きっとまちがっていただろう。
もしやよいがいなければ、きっとはじまりすらしなかっただろう。
一人でも欠けていたら、いまはなかった。みんながいるから、いまの自分がいる。なんどもくじけそうになったし、なんどもあきらめようとした。痛い思いもした。だけどみんなが力を貸してくれたおかげで、それらを乗りこえることができ、変わることができた。
そう思った瞬間、平孫の胸に愛しさがこみあげてきて、思わず三人をだきしめた。
「うわ! 平孫ちゃんなに!」
「な、なにをするんだ」
「ひゃ! ふ、不動さん?」
腕の中で、三人がさわぐ。
「まあまあ、いいじゃねえか」
平孫は笑う。
自分の腕のなかにある、ぬくもりを感じながら。




