第四章-2
これは大変なことになった、とやよいは水族館前の列にならびながら思った。
四人で遊ぶはずだったのに、まさか二人っきりで遊ぶことになるとは。しかも相手は不動平孫。ついこの間までなら、絶対に考えられないことだった。
なんだか不思議な気分である。
と同時に、ものすごく気まずかった。
ちらりと四十五センチ差もある彼の横顔を見あげると、険しい顔をしていた。
――もしかして、休んだ二人に対して怒っているのだろうか。それとも、やよいと二人っきりでいるのがいやなのだろうか。それは十分にありえることだった。やよいは自分がしゃべり下手で、からみにくいということを自覚している。
平孫もそう考えている可能性は充分にある。
「……」
「……」
現に彼は一言もしゃべらない。
――純と文香がこないとわかったときに帰るべきだった。どうしようなんて言うべきではなかった。平孫の言葉にうなずくべきではなかった。きっと彼もほんとうは帰りたいと思っていたのだ。けれど自分から帰るなんて言ってしまったら、やよいにわるいと思ったから、社交辞令としてさそってくれたのだろう。それなのに自分は気がつかず――
想像はネガティブな方向に走り、ついには早く帰りたい、とやよいは思った。
――でもいまから帰りたいと言ったら、きっと怒らせてしまう。だったら最初からことわるべきだろうと。どうしよう。なんていいわけをしよう。なんて――
そんなことを考えているうちに、受付についてしまった。
もうひき返すことはできなかった。
早めに切りあげるしかない。そう思ってやよいは入場料を払って、入り口のガラス戸を開け、短い廊下の先にある両開きのとびらを開いた。
瞬間、頭の中にある考えが吹っ飛んだ。
薄暗いエントランスホールの奥に、映画館のシアターのようなガラス張りの巨大水槽があった。ライトアップされたコバルトブルーの世界を、色とりどりな魚たちが悠然と泳いでいる。見るものの心にしみこんでくるような、幻想的な光景だった。
圧倒的な青の世界に、やよいはふらふらと吸いよせられる。近づくと、ガラスごしに水のうねりを目視することができ、よりいっそう命の息吹が感じられた。
口を半開きにして、ぼーっとみていると、平孫がとなりにやってきたのがガラスに反射して見えた。彼は目をきらきらとかがやかせて、口を半開きにして水槽をながめていた。
あんなに険しそうにしていたのに、いまはやよいとおなじような顔をしていた。まるで無垢なる子どものようだ。いや、そうなんだ。彼は背丈が高く、顔も大人びているが、同い年の男の子で、その心はきっと――やよいと、そう変わらない。
すっと、なにか心にあったかいものが生まれた。するとどうだろう。彼の顔を見ているだけで、いや、彼のとなりにいることで、なにかが満たされていくような感覚があった。
やよいの口から、するっと言葉がでてきた。
「すごいですね」
「うん。でけえ。魚がいっぱいいる」
「ほんと、たくさんいますよね。ジンベイザメもいますよ?」
「ジンベイザメって、あのちくわみたいな口したやつ?」
「わたしは、クロワッサンみたいだなって思います」
「チョコつまってんのかな」
「か、海水じゃないですかね」
「水か。じゃあふにゃってしてそう」
「そうですね――」
あれほど帰りたいと思っていた気持ちは、もうなくなっていた。いまはただ、魚をながめながら、平孫とたわいない話に興じたいと思った。
二人の間にあった気まずさは、いつの間にか水にとけて消えていた。
※
夕暮れの中を走るバスの車内は、窓から差しこむ光によって、茜色にそまっていた。車内には人がすくなく、車の排気音が静かにひびいていた。
平孫はバスのうしろから二番目の席の窓際にすわっていた。そしてそのとなりの廊下側には、麦わら帽子をひざにおき、背筋をのばして腰かけるやよいがいた。
「かわいかったですね、ラッコ」
「なんか浮き輪みたいだったよね」
あのあと、二人で海の生物とふれあう場所でさわったり、イルカショーをみたり、ラッコがうかんでいるのをながめたりして、水族館を大いに楽しんだ。
そしていまは、その帰りだった。
やよいがひざにおいた麦わら帽子に視線をおとす。
「きょうは楽しかったですね。不動さん。ありがとうございました」
平孫はやわらかなまなざしで彼女の横顔を見おろす。
「こっちこそだよ。ありがとう、一緒に遊んでくれて」
「二人がこないときはどうなることかと思いましたけど」
「そうだね。正直さ、俺と二人じゃ不安だったでしょ?」
やよいはかかげた手の人さし指と親指の間にちょっとした空間をつくり、
「……ちょっと」
と、答えた。
それからあわてて、
「でもでも、それは最初の話で、いまはよかったって思います」
「俺も」
平孫はすぐに同意した。
二人の間に沈黙がおちる。だが、前のような気まずさはなく、むしろ心地よかった。排気音に耳をすまし、バスのゆれに身を任せていると、
「……ほんとう、ありがとうございます」
やよいが言った。
「ん? きょうのことだったら――」
「そうじゃなくてですね。あの、その」
彼女は麦わら帽子のつばをなぞりながら、ぽつぽつと言葉をもらしはじめる。
「わたし、不安だったんです。こんな性格ですから、転校した先でどうなるかわからなくて。どうしても嫌なことしか想像できなくて……そしたらやっぱり、うまくいかなくて」
余計な口をはさまずに、平孫はだまって聞くに徹する。
「でも、あの日、不動さんと文香さんと大栗さんが、わたしといっしょにご飯を食べてくれたおかげでその、学校が楽しくなって……きょうだって楽しくて……わたし」
うるんだ瞳から、涙がこぼれた。
平孫はポケットからハンカチをとりだし、やよいの目元をやんわりとぬぐった。
「す、すみません」
「いえいえ」
顔を赤らめる彼女に、平孫はほほえみをたたえて言った。
「わたし、すぐに泣いちゃうんです。うれしくても、かなしくても」
「あと、恐くても?」
平孫が冗談っぽく言うと、やよいはゆっくりとうなずいた。
「わたし、最初は不動さんのこと、とっても恐い人だって思ってたんです」
「知ってる」
「でも、こうして話してみて、不動さんはとてもいい人だったんだな、って」
「別に俺は自分がいい人とは思わないけど、でも羊坂さんにそう思わせられるようになったのは――きっと、キミが俺を変えてくれたからだよ」
「え?」
「……なんでもない」
平孫は顔を赤くして、顔を窓のほうにむける。いらんこと言ってしまった、とちょっと後悔する。
「……わたしも、変わりたいんです。人見知りを、直したくて」
やよいが言った。そちらを見ると、彼女はひざあたりをおおうワンピースの生地をつかんでいた。それから生地から手を離し、彼女はこちらを見あげてきた。
「変われますかね?」
うるんだ瞳をまっすぐ見返して、
「変われるよ。絶対に」
と、平孫はうなずいた。
「……ありがとうございます」
やよいがそうつぶやいたとき、車内放送が流れて、次に停車するバス亭の名を伝えてきた。やよいが立ちあがり、平孫の前を横切る形で手を伸ばし、降車ボタンを押した。
ふわっとした、いい匂いが鼻先をよぎった。
「わたし、ここで降りますね」
バスの速度がゆるまっていき、停車。やよいは料金を払って降りた。
そのあとにつづいて、平孫もバスを降りた。
平孫の背後でとびらがしまり、バスは発進して、走り去っていった。
やよいがおどろいた顔で、平孫のことを見あげてきた。
「ふ、不動さん? この近くなんですか?」
平孫は首を振った。
「いや、あと四つ先のバス亭」
「じゃ、じゃあどうして?」
「送るよ」
ほんとうはすこしでもいっしょにいる時間をのばしたくて、平孫はそう言った。
やよいはほうけたような顔をして、こちらを見ていた。
――さすがにガンガン行き過ぎたか?
平孫が自分の行為に後悔を覚えはじめたとき、
「……おねがいします」
と、彼女は平孫の横にならんだ。
そして平孫は道路側に立って、やよいといっしょに歩きだした。おちかけている夕日の光が降り注ぎ、二人の影が地面でもよりそっていた。なにかをしゃべるわけでもなく、心地よい無言を共有しながら住宅街を歩いていると、やよいが言った。
「あ、ちょっとよっていいですか? のどがかわいちゃって」
進行方向の先に、一軒のコンビニがあった。
「そうだね」
そして二人でコンビニに行くと、店の前の駐車場のほうから声がした。
そちらを見ると、派手な髪色をして、やけにダボダボとした服を着た三人組の若者が駐車場にすわりこんでたむろしていた。その中の一人に、鼻にガーゼを貼った奴がいた。
平孫はそいつの顔を、どこかで見たような気がした。が、思い出せない。
するとガーゼの男が、こっちを見た。
目があった。
平孫はすぐにそらす。恐いわけではなく、ああいう手合いと関わることをさけるためだった。そしてやよいといっしょに、コンビニに入店した。
やよいがジュースを購入し、二人でいっしょにコンビニを出た。
駐車場のほうから視線を感じたが、そちらを見ないようにして、その場をはなれる。
背後のほうで「タケちゃんやめなって!」と声がした。
なにやらもめているようだが、そちらを見て因縁をつけられてもこまる。
と――次の瞬間。
背中に衝撃が走った。
平孫は前のめりになり、コンクリートの地面を転がった。民家の壁に肩をぶつけて、痛みに顔をしかめながら見あげると、先ほどのガーゼが鬼の形相で立っていた。
「見つけたぞコラァ、漫画やろう」
平孫の脳裏にひらめくものがあった。
どこかで見たことがあると思ったら、前に河川敷でカツアゲしてたところを成敗した三人組のうちの一人だ。ということは、駐車場のほうで心配そうな顔をしてこちらを見ている二人は、あのときにげた二人か。まさかこんなところで会うとは。たしかにこのあたりは河川敷から一〇分の圏内にあるが。それから平孫は、男の背後にいるやよいを見た。
彼女はいきなりのことに、すっかり硬直していた。
彼女を巻きこむわけにはいかない。
「死ねやオラァ!」
ガーゼがなぐりかかってきた。先ほどは不意打ちだったから食らったが、こんどはそうはいかない。平孫はガーゼの拳をやすやすとかわし、しかし反撃することなくその背後をとり、やよいのそばまで後退した。そしてかたまっている彼女にむかって、
「にげて」
と、短く言った。
やよいの硬直がとかれ、彼女は不安げな顔でこちらを見あげてきた。
「で、でも」
「早く」
平孫はもういちど言って、やよいの背中を押した。
彼女は思わず前進して、それからこちらをふりむいた。
平孫はうなずく。
やよいはくちびるをかんで、住宅街の奥のほうへと走りだした。そして彼女が角をまがって姿がみえなくなったところで、平孫はガーゼのほうをふりむいた。
「鼻がよぉ、うずくんだよ。てめえに折られた鼻がよぉ」
ガーゼはやよいには興味がないようで、ぶつぶつ言いながらこちらを見すえていた。駐車場のほうにもちらりと視線をやったが、仲間二人はそこからこちらをうかがっていた。
ひとまず彼女の安全は確保できたようだ。
「わるかったな。あやまるよ」
平孫はガーゼに頭をさげた。
「ああ? ふざけてんじゃねーぞコラァ!」
「じゃあどうすればおまえは気が済むんだよ」
平孫は頭をあげ、声を荒げるガーゼに問いかけた。
「てめえをボコボコにしたらにきまってんだろ!」
「じゃあしろ」
「あ?」
ガーゼがけげんそうな顔をする。
「俺はもう喧嘩をしないってきめたんだ。それでもおまえがやるっていうなら、好きなだけなぐればいい。ただ約束しろ。二度と俺にはかかわらないと」
そうつげると、
「てめっ、この――だったらこいやぁ!」
と、ガーゼに胸倉をつかまれて、コンビニの裏までひっぱられた。
コンビニの裏には五階建てのマンションが建っていて、平孫がつれこまれたのは、そのマンションとコンビニの間にある袋小路だった。人気がなく、猫ぐらいしか通りそうにない場所だった。平孫は突き当りの民家の壁を背にし、ガーゼは表通りのほうを背にする。左手はコンビニの壁で、右手にはマンションを囲む高いフェンスがあった。もうすぐ夕方ということもあり、そこはうす暗く、暗躍するにはもってこいの場所だった。
駐車場にいた二人がやってきて、ガーゼの背中にむかって言った。
「タケちゃん、やめとけって、マジで」
「そうだよ。もういいじゃねえかよ。こいつとかかわっちゃダメだって」
ガーゼがふりむき、
「うるせえ! やられっぱなしでおわれるかよ。てめえらもビビってんじゃねえよ!」
と、仲間二人を突き飛ばした。二人はしりもちをついた。
「グダグダうるせんだよ、ぶっ殺すぞ!」
ガーゼに恫喝された二人は立ちあがり、
「ついてけねえよ……」
「アホくせ……」
と、ガーゼに背をむけて、袋小路から去っていった。
やけにさびしく見えたガーゼの背中にむかって、平孫は言った。
「早くしろよ」
「うるせえんだよてめえ!」
くるりとこちらをふりかえり、ガーゼがなぐりかかってきた。こんどはよけずに、それを腹で受けた。みぞおちに一撃が加わり、痛みを感じて、平孫は身体をくの字に折る。さがった頭をガーゼにつかまれ、顔面にひざ蹴りがたたきこまれた。
平孫は地面にひっくりかえった。鼻が熱く、ぬるりとしたものが穴からたれてきた。
「どうだオラァ!」
ガーゼが叫び、平孫の顔を踏みつけた。顔面と後頭部の両方から衝撃が加わり、燃えるような痛みが走った。ガーゼはなんども踏みつけてきた。そのたびに意識が削られる。
しかし平孫は、一切の抵抗をしなかった。
ケンカはしないと決めたのだ。
だからといってやられっぱなしである必要はないが、そこには平孫なりの考えがあった。おそらくガーゼの戦意を喪失させるためには、徹底的に痛めつけなければいけない。中途半端に痛めつけては、今回のように報復される。だがケンカはもうやめた。そしてたまたま今回は助かったが、次はやよいが巻きこまれないとも限らない。だからこうしてガーゼの好きにさせることで、彼を満足させて、平孫から興味を失わせようという魂胆だった。
せっかく変わったのだ。
不良としての自分は、ここらでおわらせておきたかった。
そうしないと――目の前の男みたいに、うしなってしまう気がするから。
そうして、どれほどの時間が経ったのか。おそらくはまだ一〇分と経ってはいないだろうが、すでに平孫の顔は血だらけで、目が腫れたせいで、視界の幅がせまくなっていた。
うすぼんやりとした視界のなかで、蹴りすぎてつかれたのか、ガーゼが息を切らせている姿がみえた。ようやるなと思いながら、平孫は寝転がったままそれを見つめた。
ガーゼは息をととのえてから、
「死にやがれこのやろう!」
と、また平孫の顔面を踏みつけようとした。
そして足の裏で視界が埋めつくされたとき――聞こえてはならない声が聞こえた。
「ああ、あの!」
最初は幻聴かと思った。だがガーゼの足の裏が遠のき、せばまった視界の中にやよいの姿を見つけたとき、それは現実なのだと知らされた。
やよいは袋小路の入り口に立っていた。そのままにげてくれて、と平孫は声をだそうとしたが、口の中に血がたまっているせいで、うまく発音することができなかった。
ガーゼがふりかえった。
「あ?」
鋭い視線に射抜かれて、やよいは身体をふるわせた。だが、彼女はあろうことかガーゼのほうにむかって一歩踏みだして、
「や、や、ややめ、てあげ、てくだ、さい、い!」
と、泣きそうな声を発して頭をさげた。
――にげてくれ。俺のことなんて放って、早く。
そう思う平孫の目の前で、ガーゼがやよいのほうにむかって歩きだした。
そして彼女と距離をちぢめたところで、腕を横なぎに振るった。裏拳がやよいのほほにめりこみ、その小さな身体がフェンスにたたきつけられた。
かぶっていたむぎわら帽子が、ふわりと舞って、地面におちた。
平孫の腫れた目が、大きく見開かれた。
「うぜえんだよ、てめえ。なんだよ、こら。女」
「ご、ごめ、ごめんん、なさ、い」
地面にしりもちをつくやよいは、なぐられたほほを手で押さえながら声をふるわせた。
「ああ? きこえねえよコラ! てめえあれか、こいつの彼女か、ああ?」
ガーゼはやよいのつややかな髪を乱暴につかんだ。
「よく見とけや。てめえの彼氏を、殺して――」
瞬間、ガーゼは襟首をつかまれて、地面にひきたおされた。
「がはっ!」
背中を殴打した彼は、苦しげに息を吐いた。そんな彼の上に、平孫は馬乗りになる。ガーゼを見おろすその血だらけの顔には、なんの感情も宿っていなかった。
「て、てめ! 約束がちが――」
平孫はガーゼの顔面めがけて拳を振りおろした。鈍い音がした。拳をひきもどすと、ガーゼの鼻からたれた血がひっついていて、真っ赤な糸をひいた。
「やめ――」
ガーゼがなにか言おうとしたが、その前にまた拳を振りおろした。
なんどもなんども振りおろして、そのたびに鈍い感触が伝わってきて、しかしなんの感情もわかず、平孫はただただ拳を振りおろす機械と化していた。
「や、やめ」
ガーゼの腫れあがった目じりから涙がこぼれた。
平孫の拳がとまった。
「わ、わるかった。おれが、わ、わるかった、から」
ガーゼがあやまった。
平孫はまた拳を振りおろした。
振りおろした。
なぐった。
なぐった。
なぐった。
なぐ――
だれかのしゃくりあげる声が、うしろから聞こえてきた。
平孫は拳をとめて、ふりむいた。
地面にへたりこんで、ふるえる身体を両手でだきしめる、やよいがいた。こちらを見つめる彼女のうるんだ瞳から、大粒の涙がこぼれおちていた。
平孫の瞳に意思の光がもどった。それから自分の拳を見おろす。皮が裂けた拳は、ガーゼの鼻血でぬれていた。まるで殺人を犯したあとのように、真っ赤だった。
一転して顔を青ざめさせた平孫は、ガーゼの上からどき、
「こ、これはちが、ちがうんだ。ひつ――」
と、やよいのほうに近づこうとした。
だが一歩踏みだしたところで、やよいが短い悲鳴をあげて、地面に手をついて後ずさった。平孫は二歩目を踏みだすことができずにその場で立ちどまり、うしろをふりむいた。
彼女の泣き顔を、それ以上見ることができなかった。
そして背後のほうで聞こえた足音が、遠のいていった。
平孫はガーゼの胸倉をつかんで立ちあがらせる。
ガーゼは血まみれの顔に、おびえの表情をうかばせていた。
「た、助け――」
「二度と、俺にかかわるな」
言って平孫は、ガーゼから手を離す。
ガーゼは足をもつれさせながら、袋小路から去っていった。一人その場に残された平孫は、コンビニの壁に背をあずけ、ずるずると地面にくずれおちた。
空から雨が降ってきた。
そういえば夜になったら降るといっていたことを思いだした。
大量の雨粒が顔に当たり、平孫のほほをつぅっと伝った。




