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「――行くの?」

 夜。明かりが落とされた玄関に通ずる廊下で女は出ていこうとする男に言った。

「止めはしないけど残念ね。あの子は貴方の事をもう一人の父か兄と思って懐いていたし、私としても男手が無かったから助かったのよ?」

「……どういう神経しているのだ?」

 信じられない、という調子で男は言った。

「あの子があんな目にあったのは俺のせいなのだぞ?」

「罰は済んでいるわ。貴方は苦しんでいるし、あの子も苦しんだ。なら、後はそれを背負って一緒に歩いていけばいい。私はそう考えているわ」

 女は厳格に言った。

 男は息を飲み、苦笑した。

「全く……。あの子といい、お前といい、物好きな家族だ」

「褒めてくれてありがとう。でも、はぐらかすのはいただけないわね」

 女は微笑で言い、先を促した。

「……無理な相談だ」

 返答には少しの間があった。

「こうなった以上、世界は俺を許してくれず、俺も世界を許せない。なら、ぶつかり合うしかないだろう? そのための準備も既にしてしまったからな」

 男は右手を持ち上げた。そこには三日月を象った銀色の装飾品があった。

 女はそれを一瞥し、ため息。それから呆れた口調で言う。

「――そういう事。なら、ますます止められないわね」

 男は一瞬声を詰まらせ、恐る恐る聞いた。

「……いいのか?」

「いいわよ。やれる物ならやってみなさい。強引なのは好きよ」

 でも、と女は一度区切り、不敵に微笑んで続ける。

「返り討ちに遭わない様に、ね。あの子の強引さは知っているでしょう?」

「望むところだ」

 男も不敵に返し、ドアノブに手をかけ、回し、開きながら続ける。

「じゃあな、マモリ。またいずれ」

「じゃあね、マリス。精々頑張りなさい」

 男とある少女の母のやり取りはそれで終わる――。

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