行間 報告その2
「――やはり、こうなってしまったか」
夜の帳が下りつつある外を見ながら、マリスは物悲しげに呟いた。
それを聞き、リビングがシンと静まり返った。
「……マリス様、それはつまり――」
「ああ。つい先ほど気配が消滅したからな」
ディスカイの質問を全て聞かずに答える。聞かれるべき事は分かっていたから。
「――強いね、今度のセイバーは」
言うや、ルナは立ち上がり、リビングを出て行こうとする。
その道をディシーが塞いだ。
「ディシー、どいて。セイバーを倒しにいけない」
「駄目よ、ルナ。貴女、自分の最優先事項を忘れたの?」
「忘れてないよ。でも、仲間がやられたのに黙っていられない」
「落ち着け、ルナ」
制止にディスカイも加わった。
しかし、ルナは止まらず、肩に置かれたディスカイの手を振り払い、叫ぶ。
「落ち着けないよ! 何で二人はそんなに落ち着いていられるのさ!? ディスガイアがやられたんだよ!? 悔しくないの!? 悲しくないの!?」
「ルナ、近所迷惑だ。静かにしろ」
ぴしゃりとマリスは言った。
だが、ルナは黙らない。
「でも、マリス様――」
「静かにしろ、と言ったのが聞こえなかったのか?」
そう言ったマリスの声は身の毛もよだつ冷たい声だった。
あまりの迫力にルナは絶句する。
そんなルナを余所に、マリスは諭す様に続ける。
「――あいつの事だ。正々堂々と勝負し、敗北したのだろう。でなければ、あいつが約束を反故するなど考えられないからな。そして次代のセイバーはあいつを満足させられるだけの者だったという事だろう。だから、怒る暇があるならあいつの健闘を讃えてやれ。その方があいつもきっと喜ぶだろうからな」
「そうよ、ルナ。それに貴女は守護の要なのよ。軽率な行動は控えないと」
ディシーはそう言って、踵を返し、リビングの出入り口に向かいながら言う。
「マリス様、次は私が行って参ります」
「構わんが、分かっているな?」
「約束は出来かねます。何せ、ディスガイアを打倒した相手ですから」
ですが、とディシーは一度区切り、マリスの方を向いて続ける。
「戻りたいとは思っているので、可能な限り戻ります」
そうして、ディシーは身を翻し、リビングを後にしようとした。
「……ディシー、ちゃんと帰ってきてね?」
ルナの問いかけに、ディシーは足を止め、
「……言ったでしょ? 約束は出来ないって」
振り返らないまま言い、
「ディスカイ、ルナのお守り、頼んだわよ?」
そう言って、歩き出した。
「任された。だが、一人では少々荷が重い」
「アンタまでそういう事言う。私をあまり困らせないでよ」
内容に反して嬉しそうに言い、ディシーはリビングを後にする。
パタン、とリビングの扉が不気味なほど大きく音を立てながら閉まった。