第二章 VSディスガイア
「ただいまー」
「お、お邪魔します……」
陽子は当然平然と、アサは緊張全開のギクシャクした動きで白浜家の敷居を跨いだ。すると、パタパタと奥の方から玄関の方に近づいてくる足音が一つ。
「アサさん、そうじゃないってば。ほら、教えた通りにやって」
「で、でも……そんな急に言われましても……」
「こういうのは最初が肝心。ほらほら、早く早く」
「状況がよく分からないけど急いては事を仕損じる、よ」
二人の耳に制止の言葉がつく。
声の主はエプロン姿でショートの黒髪を揺らしながら二人を出迎えた妙齢の女。白浜まもり。良妻賢母な陽子の母親である。
「あ、ママ、ただいまー」
「お帰りなさい。とりあえず、ちゃんと無事に帰ってきたわね」
陽子はVサインをまもりにする。
「当たり前じゃん! 私を誰と誰の娘だと思ってるの?」
「流石私達の愛の結晶。でも、私としては男の子に興味を持ってくれれば大満足ね。今回も今回とて女の子。まさかとは思うけど、陽子ちゃんってレズ?」
まもりは陽子の隣にいるアサを見ながら言った。
陽子は全力で否定する。
「私はノーマルだってば! 実の娘に向かってそういう事言う普通!?」
「言いたくもなるわ。今日だって女の子から告白されたのでしょう?」
「う、うぐ……。ど、どうしてそれを……」
「ところで、その借りて来た猫みたいに大人しいお嬢さんは何処のどなた?」
「切り替え唐突過ぎだからね!? ……あーっと、話せば結構長く――」
「短くまとめて頂戴」
「――王道バトル漫画の出会いをして、正義の味方になる事になったよ」
「そう。つくづく、パパの若い頃にそっくりね」
あっさりと応じるまもり。
「それで納得するのですか!?」
流石に突っ込むアサ。
そんなアサを見て、まもりはおかしそうに笑う。
「ふふ。中々イイ突っ込みをするヒロインさんね」
「あのさ、あのさ、私も女の子なんだけど?」
「陽子は中身男だから微妙なところよね」
「誰のおかげでこうなったと思ってるの!?」
「陽子が頑張ったからよ。私達は大した事をしていないわ」
「急に真面目にならないでよ!」
「ふふ。陽子もまだまだね」
そう言って踵を返しながらまもりは続ける。
「とりあえず、入りなさいな。立ち話もなんですからね」
そして、まもりはスタスタと奥へ消えていく。
そんなまもりの姿を陽子は呆れ、アサは呆然とした様子で見送りながら呟く。
「良い人ですが、物凄く変わったお母さんなのですね……」
「実際相当な変り種だからね。ま、上がって、上がって」
答えつつ、陽子は家に上がり、まもりが消えた奥へと歩いていく。
アサは「お邪魔します」と小声で言ってから、陽子の後を追った。
白浜家の家は一戸建ての住居である。
その家に陽子は母親のまもりと二人で暮らしている。父親の大護は健在だが、現在は仕事の都合で単身赴任中であり、母と娘の二人で留守を預かっている。
「二人ともそこに座ってくれるかしら?」
リビングに入ると、二人はまもりにそう言われ、向かい側の席を勧められた。
二人が座るとまもりは早速とばかりに口を開く。
「単刀直入に聞くわね。その子を家に連れて来たのはどうして?」
「行くところが無くて、一緒に行動しないと色々と不便だから」
「なら、ここで一緒に住まわせて欲しい……そういう事ね?」
「うん。ついでに言えば、三瀬高校に編入させて欲しいの。後、私と同じクラスになる様にも計らって欲しい。そうしないと学校で万一が起きた時に困るんだ」
「正義の味方になるには二人一緒じゃないと駄目、という事かしら?」
「そういう事。理解が早くて助かるよ」
「どういたしまして。それはそれとして、そうする事……アサさんの事情に首を突っ込むのは自分で決めた事なのかしら? それとも――」
「自分で決めた事だよ」
「後悔しない?」
「するつもりはないし、後ですればいいって考えてる」
陽子がそう言うとまもりは真面目な顔から一転、微笑を浮かべ、アサを見た。
そして、恭しく一礼する。
「陽子の事、どうかお願いします」
「え? ……あ、は、はい。この身に代えまして――」
「それは駄目よ。陽子、分かってるわね?」
陽子は胸をドンと強く叩いた。
「勿論! そんな後味悪い展開はノーサンキューだもん!」
「よろしい。じゃ、後は部屋でよろしくやりなさい。その間に私はアサさんの編入して陽子と同じクラスになる様に『お願い』してみるから」
「あ、はーい。行くよ、アサさん」
陽子はアサの手を引き、リビングを後にした。
アサはまもりの話し声を背に歩きながら前を歩く陽子に尋ねた。
「あ、あの、ヨウコさん……」
「ヨウコでいいよ。その代わり、私も呼び捨てしていい?」
「え? あ、はい。それで、あの……大丈夫なのですか?」
「手続きの事? それならきっと平気。だから安心して」
「……凄い親御さんですね。何かこの子にしてあの親有りという感じです」
「はは。それ正解。私がやれる事はパパとママならもっと上手くやれるからね」
そこで二人は陽子の自室の前に到着した。
陽子は襖を開けて入室し、アサもその後に続く。
陽子の自室は十二畳の畳張りの部屋だ。置かれている家具は少なくは無いが多くも無い。目立つのはテレビ、本棚、タンス、小さなテーブル、デスクトップ型のパソコンくらいだ。部屋全体も茶系の落ち着いた色であり、つまるところまるで女の子らしくない。熊やうさぎのぬいぐるみがあるのがせめてもの救いである。
「適当に座って。私、着替えちゃうからさ」
そう言いつつ、陽子はブレザーをハンガーにかけ、ワイシャツのボタンに手をかけていた。ワイシャツを脱ぐと下着を身につけた肌が露出する。
「えっ……?」
アサは陽子の下着姿を見て、思わず呟く。
そうしてしまったのは、袈裟から入り右腹部へと抜けた痛々しい傷跡があったからだ。完治はしている様だが、その痛々しさは今も尚残っている。
「ん? どう――ああ、これ?」
アサの視線に気付いた陽子は自分の傷を指差し、着替えに戻りながら説明する。
「変身前に昔友達との約束を守れなかった、って話したよね? これはその時に負った傷らしいの。らしい、っていうのは、気を失った私が次に目を覚ましたのは病室のベッドの上で、怪我した時の事を何も覚えていないから。両親は病院からの連絡を受けて駆けつけたから私の情報待ちだったけど、私が何も覚えていなかったからこの傷はどうやってついて、どうやって治っているのか結局分からないまま。ちなみにこの傷、私が発見された時には既に塞がっていたみたいなの」
説明の終わりと共に陽子はジャージへの着替えと制服の片付けを完了し、脱ぎ捨てたワイシャツを拾って部屋を出て行く。
「どちらへ?」
「これ、洗濯物として出してくる。ついでに何か飲み物持ってくるから適当にくつろいで待ってて。あ、何かリクエストある?」
「あ、い、いえ。お任せします」
「そ。じゃ、ちょっと待ってて」
言うや、陽子はアサの答えを待たずに部屋を出ていってしまった。
手持ち無沙汰だったので、アサは待つ間、話すべき事を頭の中で整理した。
自分の事、相手の事、やってもらう事――聞いてもらう事は多い。
「お待たせー」
陽子の声でアサは思考を中断した。
すると、目の前にオレンジジュースが注がれたコップが差し出された。
「はい。お任せって話だから私と同じやつね。冷たくて美味しいよ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
アサにジュースを手渡し、座ってから陽子は自分の分を半分ほど一気に煽った。それから満足そうに息を吐く。
「はー! やっぱり運動した後のオレンジジュースは格別に美味しいや!」
アサもその後に続いてオレンジジュースを一口飲む。
さわやかなオレンジ香りが喉を伝い、疲れた五臓六腑に染み渡っていく。
「ふぅ……」
満足した様に呟き、アサはコップをお盆の上に置き、陽子に向き合った。
「ヨウコ、色々聞いてもらえますか?」
「勿論。こっちはてんでさっぱりだからね」
陽子は肩を竦めて見せた。
アサはおかしそうに笑う。
「説明している暇なんてありませんでしたからね」
「ホントだよね。ま、向こうには向こうの都合があるから仕方ないけど」
「でも、向こうが……バッガーズがしている事は調和を乱す事なのです。それはどんな理由や大義があっても許される事ではありません」
「バッガーズ……それが向こうさんの名前?」
「正確には組織名です。メンバーは分かっているだけでも五人。リーダーである強大な闇の力を持つマリスを筆頭に『月光の力』を持つブレイカー・アートルム、『大空の力』を持つディスカイ、『大地の力』を持つディスガイア、『大海の力』を持つディシー。この五人により、世界の調和は乱されてしまいました」
「調和、か……。さっきも言ってたね、それ。そうなっちゃったのは、バッガーズが月光、大空、大地、大海の力を奪ったから?」
「理解が早くて助かります。それとただでさえ信じられない話ですが、ここから先に大きくなりますのであしからず」
「分かった。頑張ってついてく」
「ありがとうございます」
アサは一礼し、一つ咳払いしてから続ける。
「――この世にある全ての生き物は私が持つ『太陽の力』と先に挙げた『月光の力』、『大空の力』、『大地の力』、そして『大海の力』の計五つの力に見守られています。この力は互いに作用し合い、奇跡的なバランスを取り続ける事で私達が住む場所の調和を保ち、そうする事によって私達は暮らせるのです」
「へー、そうなんだ。全然知らなかった」
「それは仕方ありません。とても大きな力ですが、しかしこの五つの力は力でしかなく、善悪という属性が追加されるのは持たされて初めてつくものです。だから誰かに悪用されない様に限られた人しか知らない事ですから」
「ふんふん。それで?」
「ですが、ある時、奴らは襲来し、五つの力の内四つを手中に収めました。四つで済んだのはデム――五つの力の守護者が機転を利かせて私に託した事で向こうに全ての力が押さえられる事は回避出来ました。でも、力及ばず、敗北を喫した私は希望を繋ぐために人間界へと逃げ込んだのです」
「そっか。で、バッガーズはどうして力を欲しているの? 妥当なところだと世界を支配するためとかだろうけど、実際のところは?」
「恐らくそうだと思われます」
「シンプルで助かるね。ちなみにそういう事は可能なの?」
「可能だと思われます。世界を見守り、調和を保っている力ですから」
「ま、可能じゃなかったら取らないか。だとすると、私達の勝利条件は向こうから奪われた四つの力を取り返し、親玉を懲らしめる事。で、敗北条件は『太陽の力』が奪われる事。こんな感じ?」
「そうなります」
「OK。――じゃ、この話はこれで終わりにして、今やれる事をやろうか」
あっさりな反応にポカンとするアサ。
少しして我に返り、オドオドしながら尋ねる。
「あ、あの、何でそんなにあっさり?」
「前に進むしかないからだよ。終わった事を悔やんでも何にもならないからね」
答えつつ、陽子はタンスから下着を二組、ジャージの上下を一組出す。
それからアサにさも当然の様に言う。
「というわけで、お風呂に行くよ。で、その後はご飯。そして、寝る!」
言うや、陽子は戸惑うアサの手を掴み、強引に立ち上がらせて一緒に部屋を出る。突然の事にアサは足をもつれさせるが、どうにか立て直して陽子に手を引かれるまま、階段を降りる。
「あ、ちょっと寄り道するね」
そう言って、陽子はリビングの戸を引いた。
「ママー、どんな感じ?」
「――ええ。そういう事でお願いします。夜分遅くにありがとうございました」
まもりは相手にそう言ってから陽子の質問に答える。
「今終わったところよ。制服も超特急で――」
そう言った時、呼び鈴が鳴った。
「――届いたみたいね。陽子、お願い出来る?」
「OK。アサ、ちょっと待ってて。あ、これお願い」
頼まれた陽子はアサに着替えを渡し、外灯を点けてから玄関に急いだ。
玄関を開けると待っていたのは宅配員だった。その両手にはダンボール箱で埋まっている。何か色々凄いな、と思いつつも陽子は対応する。
「お荷物をお届けに参りました。ここに印鑑かサインをお願いします」
「じゃ、サインで。と、ペンが無いや。ちょっと待っててください」
「あ、大丈夫です。こちらを使ってください」
宅配員は器用にダンボールを持ち直し、空いた右手でボールペンを取り出した。陽子は会釈してそれを受け取り、受け取り証明のところに苗字をサインし、ボールペンを返す。宅配員は一礼してそれを受け取り、上の紙を千切る。
「では、こちらがお荷物になります。大きく、重いのでお気をつけください」
「あ、はーい。……うわ、ホントだ」
陽子が荷物を受け取ると、宅配員は一礼して去っていく。陽子はその背中に「お疲れ様でーす」と声をかけ、リビングにいるまもりに話しかける。
「ママー、これ上に持ってちゃっていいよね?」
「問題無いわ。それ終わったらお風呂入っちゃいなさい」
「りょーかーい。というわけで、またまたちょっと待っててね」
アサにそう言い、陽子はダンボールを二階に運び入れ、すぐさま戻ってくる。
「お待たせー。それじゃ、行こうか」
その後、二人はつつがなく入浴、夕食を済ませ、就寝した。
夜。アサは寝付けずに瞼を開いた。
別に陽子のいびきが五月蝿いからとか、寝相が悪いから、というわけではない。眠る陽子はとても静かで大人しい。親睦を深めるために一緒に眠ろう、という事になったが寝苦しいという事では断じて無い。
寝付けないのは、慣れないからだ。
アサはこれまでずっと緊張感を隣にした生活を送っていた。眠ろうと思えば眠れるのだが、それはあくまでも仮眠であり、熟睡目的ではない。また、眠ってしまうと襲撃された時の光景が、自分の不甲斐無さが脳裏に蘇ってしまう。それも相成ってどうにもこうにも寝付く事が出来なかった。
はあ、とため息をつき、アサは横で寝る陽子を見た。
あれだけの事があり、これからも色々と確実に大変な事になるというのに、何事も無かったとでも言わんばかりの平然さ。熟睡する場合はどんな屈強な物でも無防備になるというのはどうやら本当だったらしい。
強いな、とアサは内心で思った。
あんな出鱈目な状況に対して動揺せず、そればかりか冷静に対処し、間違った事を間違っていると言え、あまつさえ他人を気遣える余裕、そしてあれだけの事があったのに、すぐさま日常に戻れる切り替えの早さ。
でも、そんな少女は自らの事を「強くない」と言い、そう見えるのは後悔したくないからだ、と続けた。
後悔――その経験はアサにもある。
自分は何も出来なかった。五つの力が奪われ、守護者が封印される時も何も出来ず、太陽の力を託されたからどうにか動けたが、やっぱり何かを勝ち取る事は出来なくて逃げ出し、その先では守るべき対象に誤解で乱暴を働き、挙句何の謂われも無い民間人を自分の都合に巻き込む事になってしまった。
だが、アサと陽子は前提が違う。少なくとも、アサが知る限りでは。
アサは生まれた時からその世界にいて、その世界で生き抜くための術を教わっている。対し、陽子は普通に生きられる事を約束されている。
それにも関わらず、陽子は純粋な善意だけで危険に首を突っ込んだ。
そして、その理由はもう二度と後悔したくないから。
普通の生活を約束されている少女の在り方を一変させただろう強い後悔。その強さはその時の記憶を思い出せなくさせるほどの代物。
だけど、それでも陽子は前に進んでいる。
終わった事を悔やんだところで何もならないから、と。
それをアサは強いと思い、そんな強さが自分にも欲しかった。
最低だ、とアサは自分を嗜める。
協力が欲しかったのは事実だ。自分では勝てないと悟ったからこそ、アサは守護者から教えられていた『困った時は人間界へ行け。そうすればきっと誰かがお前の力になってくれるから』という助言に従ったからだ。
しかし、理由はそれだけではない。
アサは陽子に驚かされっぱなしだった。
誤解で乱暴を働かれてもそれを許し、ディスガイアの振る舞いに素直に怒り、心が折れかけた自分を行動と態度で励まし、そんな凄い事をしたというのにそれを気取らず、誇らず、そればかりか自分の不甲斐無さを謝罪出来る殊勝さ。
誰でも出来る事ではない。
その強さにアサは憧れ、切実に欲しいと思った。
だから、陽子を巻き込んだ。
どんな大義名分があっても、その事実は覆らない。
ため息一つつき、アサはそっと布団から出て、静かに陽子の部屋を出る。喉に渇きを感じ、学ぶために側にいるのにこの様ではいけないと思い、陽子の前向きさを見習って寝る努力をしようと思ったからだ。
階段に差し掛かり、アサはおや、と思った。
一階から話し声が聞こえるのだ。
興味を惹かれ、アサは音を立てない様に階段を降りる。
一階が近づいてきて、話し声が聞き取れる様になった。
「――陽子がまた無茶したみたいよ。今度は正義の味方らしいわ。本当、若い頃のあなたにそっくりよね。自分の事度外視で首を突っ込むところとか特に。まあもっとも、あの子の場合は昔の後悔を引き摺っている節があるけど」
その内容を聞き、アサは足元への注意を怠った。
結果、階段を強く踏んでしまい音が上がる。
まずい、と思ったがその時には既に遅かった。
「――眠れないの、アサさん?」
名指しされて観念し、アサは階段を降りてリビングに入った。
暗がりの中、ざっと見渡して縁側に腰掛けているまもりの姿を認めて近づく。
「すみません。盗み聞きするつもりは無かったのですが……」
「分かっているわ。ちょっと待っててもらえるかしら」
まもりは受話口を押さえている携帯電話を見ながら言った。
アサはキッチンを指差しながら言う。
「では、その……水をもらってもよろしいですか?」
「どうぞ、どうぞ。じゃ、その間に終わらせちゃうわね」
言うや、まもりは電話に戻る。
アサは聞き耳を立てながらキッチンへ向かった。
「ごめんなさい、あなた。――さっき話した女の子よ。アサさんという名前らしいわ。とても可愛くて礼儀正しい子よ。その上外人さんみたいなのに日本語もお上手なの。おかげで会話に楽で助かるわ。――他の国の言葉を話せてもここは日本よ? なら、日本語で会話するのが当然でしょう?」
他の国の言葉も話せるのか、とアサは情報収集しつつ、コップに水を注いで一気に飲み干した。それから満足した様に息を吐き、まもりに改めて近づく。
「見たいのなら早く帰ってくる事ね。ええ、それじゃ健闘を祈るわ」
まもりは通話を終了し、アサに隣に来る様に示しながら言う。
「聞きたい事があるんでしょう? 教えてあげるからこっちに来て座って」
どうして、と思いつつ、知的好奇心に負けてアサはまもりの横に座る。
アサが座るや、まもりは早速と言わんばかりに言った。
「――気になっているのは、陽子が後悔している事ね?」
「……読心術でも使えるのですか?」
「唇の方なら使えるけど、生憎とそっちは使えないわ」
「そっちだけでも十分凄いと思いますけど……」
「そう? 旦那も使えるし、陽子も使えるわよ? だから我が家は呟きって意味が無いのよね。唇読めば言っている事分かっちゃうから」
「……まあ、そうなるでしょうね。家族全員そういう事が出来れば」
「そうね。ちなみにアサさんの考えている事が分かったのは、アサさんが足音を立ててしまったタイミングから推理したの。それにそういう風に自分の強さを否定するのは陽子の常套句だからね」
「……どうしてヨウコはあそこまで頑なに自分を否定するのでしょう?」
脳裏に蘇ったのは自嘲気味に言った陽子の顔だ。
あんな顔は本当に心の底から消極的に考えていない限り浮かべられない。
勇ましさの中に一瞬だけ垣間見えた弱さ。
だからこそ、余計に気になっているのかもしれない。
「……優し過ぎるから、かしらね」
「優し過ぎるから?」
まもりは頷き、星空を仰ぎ見てから続ける。
「陽子は本当に優しい子に育ってくれた。でも、それが仇となってしまったの。約束を守れなかった事、相手を悲しませてしまった事、そういう曖昧な部分だけはしっかりと覚えているのにちゃんと覚えていない事――そんな自分を陽子は幼心でも許せなかった。うちは旦那が仕事で滅多に帰って来なくて、いるべき人がいない、側にいて欲しい人がいない辛さや悲しさを知っていたから尚更忘れてしまっている事が悲しくて、悔しくて許せないのだと思うわ」
「……そんな事があったのですか……」
呟き、アサはふと違和感を覚えた。
それを突き止めるべく思考し、ハッとしてアサはまもりに尋ねる。
「あの……奥様はヨウコが誰と約束を交わしたのか知っているのですか?」
陽子から聞いた話とほぼ一緒だ。でも、ほぼ。陽子は相手を悲しませてしまった事を話してはいない。だから違和感を覚えたのだろう。
「知っているわ。でも、それは教えてあげられないわ」
きっぱりとした否定だった。
不謹慎だとは思ったが、情報が引き出せなかった事にアサは落胆した。
そんなアサの心中を見透かした様にまもりは言う。
「誤解しないで。貴女に意地悪しているわけではないの。教えないのは、思い出せなければそれはそれでもいいと思うからなの。だから教えないの。貴女の口から陽子にも伝わり、それが記憶を呼び起こす事になるかもしれないから」
「……それほどの事、というわけですか」
「ええ。それほどの事だったわ。有り触れている悲劇の一つでもね……」
遠い目をしてまもりは呟く様に言った。
そして、それを言い終えると欠伸を一つしてから続ける。
「――宴も酣。話と言えるほどの話ではないけれど話はこれで終わり。明日は学校なのだから頑張って寝なさい。少しでも眠らないと明日が辛いから」
そう言って、まもりは立ち上がった。アサも習って立ち上がり、陽子の部屋に戻るべくリビングを後にする。
「アサさん、お休みなさい」
後ろからまもりの声が聞こえた。
「お、お休みなさい……」
アサはぎこちなく返す。言う習慣など無かったからそうなってしまった。
そんなアサを見て、まもりは優しげに微笑みながら寝室へと消えた。
笑みの真意を掴めず、アサは陽子の部屋に戻り、そっと布団に入る。
疑問がある程度解消されたからか、今度はちゃんと寝付く事が出来た。
翌日早朝。
起床した陽子はむくりと上体を起こし、うんと背伸びした。
「……うん……」
と、布団ごと起き上がったためか、アサが身じろぎ、目を擦りながら起きた。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「あ、いえ。平気です。おはようございます」
「おはよ。よく眠れた?」
「あ、はい。おかげ様で。それにしても早起きなのですね?」
アサは窓に視線をやりながら言った。
カーテン越しの窓はまだ薄暗い。時計の針は五時半を示している。
「うん。ちょっとやる事があるからね」
「やる事?」
「朝の鍛錬」
「え? 私の?」
きょとんとして尋ねるアサ。
陽子も首を傾げ、少し考えて合点する。
「ん? あ、違うよ。ややこしく言ってごめん。早朝訓練だよ」
「あ、なるほど。それでこんな早起きを?」
「そ。子供の頃からやってたからこれやらないと調子出なくて。というわけで、私はちょっと運動してくるけどアサはどうする?」
「そうですね……」
アサは少し考えてから答える。
「お邪魔でなければ見学したいのですが、よろしいでしょうか?」
「OKだよ。それじゃ、行こうか」
方針を決めて二人は部屋を後にして一階へ向かう。一階に下りると陽子は玄関ではなくキッチンに向かった。キッチンに近づくにつれて包丁がまな板に触れる音が大きくなってくる。入り口に到着して陽子はキッチンに向かって言った。
「おはよ、ママ。そして、いってきます」
「おはよ、陽子、アサさんは?」
「一緒に行くよ。じゃ、そういうわけで」
陽子は言うべき事を言うや、スタスタと玄関へ向かった。
アサは追うべきか一瞬悩み、まもりに朝の挨拶をする事にした。
「奥様、おはようございます」
「おはよう、アサさん。陽子に起こされちゃったかしら?」
「あ、いえ。平気です。私も朝は早い方なので」
「そう。それじゃ、いってらっしゃい」
「はい。行って参ります」
会釈してアサも玄関に向かい、二人は外に出た。
「向かうのはあそこだよ」
陽子が指差しで示したのは道路を挟み、正面から見て右斜め上にある小さな空き地だった。正確には閉店した店の駐車場である。
目的地を教えるや、陽子はジョギングでそこを向かって走り始めた。
アサは後ろからついていき、ふと思った事を口にする。
「ヨウコ、道路を横切った方が早いのでは?」
「まあね。でも、準備運動のつもりだからグルッと回り道するの」
「あ、なるほど」
近場とは言え、確かに横断歩道を通るルートをジョギングで行けば適度な準備運動になる。それにそのルートならば危険性もグッと減り一石二鳥だ。
準備運動もそこそこに二人は目的地に到着した。
到着するや、陽子は準備体操を早速とばかりに始める。
「ヨウコ、鍛錬と言っていましたがどんな事をするので?」
「基礎の反復練習だよ」
答えつつ、陽子は端まで移動し、瞼を閉じ、呼吸を整えた。
瞼をカッと見開くや、陽子は動き始める。二歩ほど駆け込んで地を蹴り、虚空に向かって二度蹴りを放って着地、着地した左足と勢いに乗ったまま、まずは右、そして左足を回してまた着地、今度はクルリと身を翻して側転の始動を行いながら後方に向かって両足を順々に大きく蹴り上げ、元いた場所に着地する。
それが終えるや、陽子は拳を振るいながら動き始める。まずはしっかりと握り締め、動きながら虚空に向かって振り、三度ほど違う攻撃を行ってから今度は掌――掌底に手の形を変えてまた動きながら三度、それを終えると今度は肘打ちへと移行する。最初は小振りに、その後は大振りかつ大仰に動きつつ計二度。
それらを終えると陽子は動きを止め、大きく息を吐いた。
そしてアサを見る。
「とまあ、こんな感じかな。後四回繰り返すけどね」
「……ヨウコのご両親は武道家か何かなのですか?」
「ううん。二人とも考古学者だよ。副業で色々な事してるみたいだけどね」
二回目に入りつつ、陽子は答えた。
「色々と言うと?」
「色々は色々。私がアサにしたみたいな事、って言えば分かる?」
「……そちらがメインではなく? というか、お二人とも?」
「うん。あくまでもメインは考古学者なんだって。その道じゃ知らない人はいなくて色んなところで演説したり、遺跡や洞窟や密林と聞けば東奔西走したりとかなり忙しくて滅多に家に帰ってこないんだ。ま、個人的には冒険家、って言った方がしっくりというか、ピッタリな気がするけどね」
「冒険家、ですか……」
「そ」
三回目に突入しながら陽子は続ける。
「何か、メインは研究だったり、調査だったりするんだけど、パパもママは私以上に巻き込まれ体質でお節介だから行く先々で遭遇した面倒事に片っ端から介入して解決してるみたいなの。ま、そのおかげで色んな国のお偉いさんに顔が利くから、アサの編入みたいな無茶もまかり通るんだけどね」
「蛙の子は蛙、というわけですね」
「あ、それ、百万回くらい言われた事あるよ」
苦笑交じりに言い、四回目に入る陽子。
その後、五回目をサッと終わらせ、二人は帰路についた。
「と、そうだ。陽子、アサさんはパパの友人の子という事になっていて、しばらく家で預かる事になったという事になっているから話合わせてね」
登校するために家を出ようとして、陽子はそんな事をまもりから言われた。
現時刻は六時半。陽子が通い、アサが通う事になる私立光瀬高校の登校完了時間には一時間半の余裕があるのだが、編入学の手続きと学校を案内するために早くに行く事にしたのである。
陽子は苦笑交じりに反応した。
「また取ってつけた様な理由だね」
「個人的にはそれでまかり通るのか不安です」
「その辺は平気よ。あの人は生物皆友人と本気で思っている人だから」
「生物? 人類ではなく?」
「そういう人なのよ。ね、陽子?」
「だねー。とまあ、そういう事だから、アサさんも上手く話合わせてね?」
「が、頑張ります」
グッと意気込むアサ。
陽子は楽天的に応じる。
「そんなに意気込まなくて平気だよ。皆慣れた物で白浜家がやる事は突っ込んだら負けって考えている節があるからね」
「……僭越ながら言わせてもらいますが、そういう認識になっている事に危機感を持った方がいいと思うのですが如何でしょう?」
「確かに。でも、面倒が省けていいから別にいいかなって。それに我が家の場合完璧に自業自得だからそういう風に認識されるのも止む無しだし」
「そういう事だから気楽にね、アサさん」
「は、はい。分かりました」
「よろしい。それじゃ、陽子。アサさんをちゃんとエスコートするのよ?」
「合点承知! それじゃ、いってきまーす!」
「奥様、行って参ります」
「はいはい。今日も頑張っていってらっしゃい」
やり取りを済ませ、二人は白浜家を後にする。
家を出てすぐ、アサは陽子に尋ねた。
「ヨウコの学校はここから近いのですか?」
「徒歩二十分ってところだね。学校っぽくない校舎が特徴かな」
「学校っぽくない?」
「うん。パッと見、学校って分からないと思う」
「へー。どんな学校なのですか?」
「うーん、そうだね……」
陽子はあれこれ考え、結局最初に思いついた事を答える。
「自由奔放かな。それ以外は割と何処にでもありそうな学校だよ」
「……自由奔放という時点で教育施設として如何な物かと思いますが?」
「それ同感。でも、生徒の自主性を尊重する校風だから仕方ないかも。何せ、先生達が表立って行動するのは授業くらいで後は全部生徒任せだからね。どのくらいかと言うと生徒会で悪い事した生徒を処理出来るくらいに」
「それで上手く機能するのですか?」
「今のところはしてるよ。全部こっち任せだから自分達でやらないと灰色の青春になっちゃうし、制限されてないから張り合いなくて自制するみたい」
「なるほど。心理の逆をついているのが功を奏しているわけですか」
「そうなるね。そんな感じだから部活動も割と盛んで、お洒落な空間を目指したからか学食も結構充実してて、設備も割と充実してるよ」
「外見と同じく中身も学校らしくないみたいですね」
「だね。ちなみに中身までそうなってるのは、有名な建築家に頼んだ人が結構前の卒業生の一人で、あの手この手で散々設けたんだけど死ぬ間際に自分の人生を省みて、これはまずいと思い立って子供達の未来のために、とか何とか言って改修させたみたいだから。何を今更って意見もあったみたいだけど、やっぱ世の中金だから何だかんだで好意的に受け入れられたみたい」
「その辺はシビアなのですね」
「ま、気持ちは分かるけどね。あ、見えてきたよ」
陽子は進行方向のずっと先を指差した。
その先には確かに一見では学校の校舎らしくない建造物が立っていた。どちらかと言えば学校というよりは美術館の方が適切かもしれない。しかし校庭がある事やプールがある事、体育館を思しき建物がある事によりよくよく見ればその敷地内が学校である、という事は聞かずとも見て取れる。
陽子はふとある事を思い出した。
「あ、そういや、苗字どうしよ? 無しってわけにはいかないし……」
「あ、そうですね。でも、その辺は私に考えがあるので安心してください」
「へー。どんなの?」
「私の名前の由来となっている単語から拝借しようと思っています」
「なるほど。それってどんな単語?」
「アイン・ソフ・オウルです」
「アイン・ソフ・オウル? 何でそれで『アサ』になるの?」
「アイン・ソフ・オウルのそれぞれの頭文字は『A』『S』『A』だからです」
「あ、それで『ASA』ね。なるほど納得」
「ご理解頂きありがとうございます」
話し合いを済ませた二人は他愛無い話をしながら学校に向かった。
その後の編入学の手続きや学校案内はつつがなく終わった。
「で、あの子と陽子って実際どういう関係なの?」
転入生アイン=S=オウルの登場により、一時間目は担任の計らいで急遽ホームルームとなり、教壇横では恒例だろう質問タイムが繰り広げられている。
それを余所に陽子の前に座る小日向理香がそんな事を聞いてきた。
「とりあえずー、被害者なのは間違いないよねー」
ゲームをやりながら答えたのは、陽子の右隣に座る朝日奈明実だ。思いっきり授業中だが陽子達の担任である中村慶一はかなり融通が利く教師であり、実質的に休み時間にした今は注意をしたりしないのである。
二人と陽子は小学校入学からの付き合いであり、これまで一度もクラスが離れた事は無い腐れ縁。その縁の強さの証明か、三人とも仲が良くあまりにもそうみえる事と三人とも基本的に明るい事や苗字ないし名前に『日』に関連する文字が入っている事からまとめて呼ぶ時は『燦々娘』と呼ばれるくらいだ。
「被害者って……、あっちん、それじゃ私が悪者みたいじゃん……」
「いやー、あながち間違って無いじゃない。しかもまた女の子。陽子、やっぱりアンタはやっぱり生まれてくる性別を間違えたって。後何人同性を間違った方向に走らせれば気が済むのよ。そんな事だからバレンタインに貰う側なのよ」
「もー、理香ちゃんまで……。大体、何でそう決め付けてるの? 二人に黙ってたのはサプライズのためかもしれないじゃん」
「だったら言うタイミングを逃したわね。大体、いきなり大護おじさん経由で急に友達の子を預かる事になった、なんて突拍子も無い事鵜呑みにしてる人なんて少なくとも校内じゃ一人もいないわよ?」
「それでー? 実際のところはどうなのー?」
明実はやんわりと言ったが、言外に「早く話せ」という意思が含まれている。
陽子はボリボリと頭を掻きながら答える。
「まあ、いつもの事だよ。首突っ込んで色々あったの」
理香が呆れた様にため息をつく。
「陽子はホントお人好しだね。ま、そこが陽子の長所だけど」
「それよりー、あっちんはよっちんが心配なんだよー」
気遣わしげに明実が言った。
理香が首肯で賛同を示す。
「それ同感。この展開ってベタな漫画か何かでありそうなシチュエーションだもんね。ま、陽子の事だから心配無いと思うけど無茶しちゃ駄目だからね」
二人の心配はありがたかった。
だから、陽子は面と向かって真面目に答える。
「分かってる。大丈夫だよ、理香ちゃん、あっちん。私はもう後悔しない様にするって決めてるし、どんな事があっても前に進む事だけは止めないからさ」
明実と理香は困った様な、呆れた様な微苦笑を浮かべ、小指を陽子に出した。
「じゃ、約束よ、陽子」
「んー、約束―、約束―」
「ああ、いつものやつね」
こういう事がある度に陽子は二人に約束を迫られる。
守れなかった事があり、守れないと困り、あんな思いは二度とごめんでこりごりなので本当はしたくないのだが、すればそれだけで『守らなければいけない』という義務感が生じ、それは戒め。必ずここへ、二人が待つ日常に戻ってくるために、自分の時間をまた始めるための約束事。
「陽子、ハッピーエンド以外は認めないからね?」
「よっちん、ハッピーエンド以外はノーサンキューだよー」
「了解。不肖、白浜陽子。全力全開でハッピーエンドを狙いに行きます!」
やり取りを済ませ、三人はゆびきりを行い、同時に絡めた小指を離した。
その時、二年一組の前の扉が荒々しく開かれた。
「中村先生! 他のクラスは授業中なのですから少し静かにしてください! というか、話し声が五月蝿くて転校生に興味津々な生徒達が真面目に授業受けてくれないので、お願いですからもう少し静かにしてください!」
そう叫んだのは二年二組担任の小林市子だ。
シンと静まり返る中、名指しされた中村教師が面倒臭そうに答える。
「あー、やっぱり聞こえてました? いやー、五月蝿くしてすみません」
「や、やっぱり!? 分かっているなら注意してくださいよ!」
「――だそうだ。お前ら、もう少し静かにするように」
中村教師が生徒達に向かって言うと、生徒達は各々了解の返事をする。そして声量を小さくして尚も雑談を始めた。
「そうそう。それで――って、中村先生! 質問タイムならいざ知らず、雑談になっちゃってるじゃないですか! 授業しましょうよ、授業!」
「ちっち、分かってないな、小林先生は。転校生ですよ、転校生。しかも美人の帰国子女。これでテンション上がるな、という方が無理な話。それに他の授業中に騒がれたら堪らんでしょ? だから俺の授業で発散させてるんですよ」
「そ、それは……そうかもしれませんけど……。で、でもでも、青春を謳歌するのも大切ですけど、学生の本分は勉強なんですよ!」
ため息をつき、中村教師は髪をボリボリと掻きながらシッシッと手を振る。
「あー、はいはい。分かりました。ま、勉強も大切ですね。それにまあ、小林先生のためにもそうしないといけなそうですからね」
言いつつ、中村教師は小林教師の後ろに視線をやった。
首を傾げつつ、小林教師は後ろを見てぎょっとする。
二年一組の隣の廊下には二年二組の生徒がごった返していた。全員が全員息を潜め、窓に耳を添えて中の声を盗み聞きし、窓から覗き見している。
小林教師はすぐさま我に返り、二年二組の生徒達に指示を飛ばした。
「み、皆! 今は授業中なんですから教室から出ちゃ駄目ですってばー!」
それを見て、二年二組の生徒達は一斉に駆け出し、自分の教室に戻った。律儀に会釈し、小林教師もその後を追い、二年一組はシンと静まり返る。
やれやれといった感じでため息をつき、中村教師は皆に言った。
「というわけで、授業をやるぞ。皆、席に戻って準備してくれ」
そんなこんなで当初の予定通り、国語の授業が始まった。
滞り無く六時間目まで終了し、放課後へ。
それは二年一組も同じであり、陽子は帰り支度をしていた。
そんな時、二年一組の教室が開け放たれ、
「白浜さんってまだいる?」
女子生徒がそんな事を唐突に言った。
全員の視線が陽子に集まり、陽子は明実、理香、アサの三人一言断りを入れてその女子生徒の下へ向かった。
陽子が近づいてくるのに気付き、女子生徒は陽子を見る。
「あ、いたいた。ちょっといい?」
「いいよ。何か用?」
陽子が聞くと、女子生徒は周囲をキョロキョロ見渡し、囁く。
「あのさ、校門にいるイケメン、紹介してくれない?」
「イケメン?」
「そ。凄いイケメン。私、ああいうのがタイプなんだよねー」
「イケメン、イケメンねー。でも、どうして私を?」
それを聞くと、女子生徒はハッとして一度咳払いしてから答えた。
「と、そうだった。そのイケメンが白浜さんの事探してたの。で、呼びに来たってわけ。あ、後、アサさんの事も探してたっけ」
「アサも?」
それを聞いた瞬間、陽子の脳裏に嫌な予感が過ぎった。
それを裏付けるべく、陽子は女子生徒に質問する。
「あのさ、そのイケメンってどんな人?」
「え? 知らないの? 向こうは知ってる風だったのに?」
「そうなの? なら、パパ経由かな?」
同学年で陽子の家庭環境を知らない者はいない。この女子生徒もその一人であり、それだけで理解が広がる。
「あ、なるほど。とにかくイケメンよ。背が二メートルくらいあって、いかついの。でも、そのいかつい中にも知的な感じがあって、もうドストライクなの。というわけで、よければ紹介してもらえない?」
ディスガイアだ、と陽子は内心で悟った。
「アサ、ちょっと来て」
陽子は努めて平然とアサの事を呼んだ。
アサは首を傾げるも小走りで陽子に近づく。
「ヨウコ、どうかしたのですか?」
「ん。まあ、ちょっとね」
尚も平然と言った後、陽子は明実と理香に向かって言った。
「あっちん、理香ちゃん、私急用を思い出したから先に帰るね」
突然の事に二人はきょとんとしたが、すぐさま理解に至り、頷く。
それを確認してから陽子は知らせてくれた女子生徒に言った。
「ごめん。その人パパの知り合いだけど、私よく知らないから紹介出来ないの」
「そっかー。ま、そういう事なら仕方ないか。じゃ、伝えたからね」
女子生徒は落胆するもすぐさま晴れやかに言って走り去っていく。
それを見送りつつ、陽子はアサの手を引いて教室を出ようとした。
「よっちん!」
「忘れ物よ!」
背中にそんな声を聞き、陽子は振り返った。そこへピッタリなタイミングで陽子の鞄が飛んできて、吸い込まれる様に陽子の腕の中に納まった。
「二人とも、ありがと!」
礼を言い、陽子は改めてアサと共に教室を後にする。
最初は徒歩だったが、それは段々と速度を増し、最終的には駆け足になる。
「よ、ヨウコ? 一体どうしたのですか?」
「行けば分かるから黙ってついてきて」
静かに諭し、陽子は生徒達を縫う様にして下駄箱に向かう。
下駄箱に到着し、靴を履き替えて外へ。
その時、アサが「あっ」と声を漏らした。
後四メートル、というところで向こうも陽子とアサに気がつき、手を挙げた。
それを見つつ、陽子はアサに囁く。
「人気の無いところに行くから適当に話を合わせて」
「わ、分かりました」
アサが応じたところで二人は待ち人――ディスガイアの前に到着した。
到着するや、陽子は作り笑いを浮かべて言う。
「――おじさん、急におしかけないでよ。びっくりしちゃったじゃん」
ディスガイアは一瞬きょとんとしたが、陽子が周囲を気にしている事をあいコンタクトで伝えると、その顔には理解が広がり、屈託無く笑った。
「いやー、悪いな。急に顔が見たくなってよ」
「だからって、学校に直接乗り込んでくるってどうなの? まあでも、放課後までちゃんと待っててくれたのは正直嬉しいけどさ」
「こう見えて、俺は結構紳士だからな。ところで、これから暇か?」
「青春を謳歌するって予定があるけど、まあ平気。でも、パパはいないよ?」
「あー、いいんだ。俺はお前の顔を拝みに来ただけだからよ」
そう言って、歩み寄ったディスガイアは自然な動きで陽子の肩を組んだ。
「というわけで、お茶でもしようぜ」
「はいはい。じゃ、私の知ってるお店でいい?」
「もちろんだ」
ディスガイアは肯定するや、そそくさと歩き始めた。二人はその背中を追う。すると、校門のところには乗用車が路上駐車されていた。
「さ、乗ってくれ」
「はいはい。アサ、乗ろう」
「あ、はい」
平然と応じ、まずは陽子が、その後アサが乗り込む。二人が乗り込んだ事を確認し、ディスガイアも乗り込み、発車させた。
「嬢ちゃんはつくづくアドリブに強いな。あの時も思ったが、慣れてるのか?」
早速とばかりにディスガイアは言った。
陽子は相変わらず平然と応じる。
「まあ、慣れてるって言えるかな。お節介な性分だからね」
「物好きの間違いだろ? 普通はあんな事出来ないぜ?」
「そう? 困ってる人を助けるのは当然だと思うけど?」
「実践するとなると話は別だ。途端に難しくなる」
「まあね。でも、そっちだって強いじゃん。ありがと、合わせてくれて」
「礼には及ばねぇよ。俺は嬢ちゃんと元セイバーにしか用が無いからな」
「それでもありがと。皆を巻き込まないでくれて」
「……調子が狂う嬢ちゃんだぜ」
ため息交じりに言い、ディスガイアは停車させた。
「この辺でいいよな?」
到着したのは、人気の無い休憩所だった。周りには水が張られ、稲が植えられた田んぼがひたすら広がっている。傍目には長閑な場所である。
「いいけど、それとは別に聞かせてくれない?」
「聞く? 何を?」
「五つの力を手にして貴方達は何をするつもりなの?」
「そんなの聞くまでも無いだろ?」
「なら、何でそんな事をするの?」
「逆に聞くが、何でそんな事を聞くんだ?」
「言葉が通じて、話が出来て、穏便に済ませられるならそうしたいから」
「……正気か、嬢ちゃん?」
「本気で正気。穏便に済ませられるならそれに越した事は無いからね」
反応はすぐに返ってこなかった。
三拍ほど置いて、ディスガイアは可笑しそうに言う。
「……今度のセイバーはとんだ甘ちゃんだな」
「甘くても何でも穏便に済ませられるならその方がいいとは思わない?」
「まあな。だが、それは無理な相談だ」
「決め付けはよくないよ。言葉が通じて、話が出来るなら――」
「そういうわけじゃねぇんだよ」
有無を言わせぬ物言いでディスガイアは陽子の言葉を遮り、続ける。
「嬢ちゃんの考えは理解出来る。だが、それは無理だ。まず俺達はマリス様に作られた存在であり、その事に恩義を感じている。つまり、俺達は命令されているわけじゃなくてマリス様の期待に応えているだけなんだ。これが操作されている物だとしても、少なくとも俺はそう思っていて、操作されていたとしてもそれでいいと思っている。何故なら、色々な事を肌で感じる事が出来たからだ。糞みたいな事もあったが、それだけじゃなかったって事も分かった。で、それを知る事が出来たのはマリス様のおかげだ。そいでもってそのマリス様だが、あの人はあれでちゃんと良識を持っている。実際問題、派手にやっちまえば話は早いのに、あの人は被害を最小限に抑えるよう俺達に指示しているし、守護者に関しても封印した。バランスの管理が自分で行えるにも関わらずに、だ」
「……それが真実ならば、何故マリスは凶行に走ったのですか?」
動揺を隠し切れない、といった感じでアサは言った。
ディスガイアは肩を竦めて見せる。
「さあな。理性が吹っ飛んでそういう事をしちまう何かがあったのは間違い無いだろうが、それが何なのかは分からねぇし、聞くつもりもねぇ。誰にだって一つや二つ触れて欲しくない部分があるだろうからな」
そう言って、ディスガイアは鏡越しに陽子の事を見て、真面目な声で続ける。
「というわけだ、嬢ちゃん。穏便に済ませたい気持ちは分かるが、マリス様も俺達も戦いの道を選び、マリス様も俺達も止まる気は無い。だから、止めたいなら力ずくで止めな。歴史を紡ぐ権利は勝者にしか無いんだからな」
言い終えて、ディスガイアは車から降りた。
陽子とアサもその後に続いて車から降りる。
車を降りると、両者は距離を取り、向き合った。
ディスガイアが懐に手をやり、その手は何かを持って現れた。
握られていたのはオレンジ色に光り輝く宝石だった。
「『大地の力』……」
それを見て、アサが呟く。
ディスガイアは見せたそれを懐に仕舞いながら言う。
「一対一、時間無制限の一本勝負。勝敗はどちらかが動けなったら決まりだ。俺が負けた場合、『大地の力』は潔く渡してやる」
「私達が負ければ、『太陽の力』を渡せ、という事ですか」
「加えて、そこの嬢ちゃんだ」
「え? 私? どうして?」
「理由は分からんが、マリス様が興味を持っていたからだ。だから、嬢ちゃんには悪いが首を突っ込んだのが運の尽きってわけで、一緒に来てもらう」
「そ、そんな条件――」
「分かった。それでいいよ」
拒否しようとしたアサの言葉を陽子はあっさりと賛成した。
アサは怒りながら叫ぶ。
「いいよってそんな簡単に! あの約束はどうするのです!」
「平気だよ。私は負ける気無いからね。というか、聞いてたの?」
「き、聞いていたわけではありません。ただ、ヨウコはどうしているのかな、と思えば朝日奈さんや小日向さんとゆびきりしているのが見えたので、クラスの人に聞いてみたら、無事に帰ってくるおまじないをしているだけ、と聞いたので」
「なるほど。そ。だから、私は負けない。それに色々事情はあるみたいだけどマリスって人がやってる事は間違ってると思うから私達が止めてあげないと」
「と、止めるって……本気で言っているのですか?」
「本気で正気。あんな話聞いちゃったら止めてあげないといけないじゃん? で、それを出来るのは私達。なら、私達がやってあげないわけにはいかないよね?」
陽子は面と向かってアサに言った。
陽子は約束した。ハッピーエンド以外は目指さないと。元から悲しい物語が嫌いなので約束するまでも無くそう考えていたが、約束した事によって俄然その終着駅を目指すのにやる気が湧いた。そこを目指すための力もあり、その上そこを目指さなければならない事がディスガイアから得た情報から分かった。
ならば、後は突っ走るのみ。
呆然としていたアサは我に返るや、
「全く貴女と言う人は……」
ため息交じりに呟き、空を仰いで続ける。
「……ヨウコ、私は間違っていたかもしれません」
「ん? いきなりどうしたの?」
「……私は考えようともしませんでした。行動に目が行き、それを成している者にもそうするだけのちゃんとした理由があるのだ、という事を」
「それは仕方ないと思うな。いきなり乱暴されて冷静に対応出来る人なんて滅多にいないし、マリスって人がしている事はどんな理由があったとしても一方的で間違っていると思う。だからアサが考えられなかったのは仕方の無い事だよ」
「でも……ヨウコは対話を求めました。結果、ディスガイアからあの様な話を聞けました。それは私が考えなかった事で、もしも私がそうしていれば、ヨウコを巻き込む事は無かったですし、事を穏便に済ませられたかもしれません」
陽子は頭を左右に振って否定した。
「確かにその考えは「その時」の最善だったかもしれない。でも、「その時」は既に過去だし、もしもその時そうしていたとしても穏便に済ませられたかどうかは分からないし、ひょっとしたら最悪になっているかもしれない。それに力ずくの解決になっちゃったから、こうなる事は必然だったと思うし」
今度はアサが頭を左右に振った。
「しかし、中身がまるで違います。いがみ合うだけの戦いと対話を求めた結果力ずくの解決になるのはまるで意味が違います。そして私は後者の方に好感を持て、そういう事が出来ていたなら、と強く思います」
そう言って、アサは右手を差し出し、続ける。
「だから、ヨウコ。私にもその道を一緒に歩かせてください」
「断りはいらないよ。私はアサと歩く気満々だからね」
陽子はその手を握り返しながら言った。
アサは可笑しそうに笑う。
「ふふ。ヨウコは何時でも強引なのですね」
「勘弁ね。こういう性分だからさ」
陽子も笑みを返す。
一頻り笑った後、真面目な顔になってアサは言った。
「では、行きますよ?」
「OK。あ、私も一緒に言っていい?」
「もちろんです。というか、一緒に言ってくれないと変身出来ません」
「あ、そうなんだ。んじゃ、あんまり待たせても悪いから始めようか」
二人はディスガイアに向き合い、声高に叫んだ。
「「サンパワー、インストレーション!」」
途端、眩い光が二人に降り注ぎ、陽子の姿を変化させていく。
変化は一瞬。光が晴れ、セイバーとなった陽子が姿を現す。
ディスガイアを指差し、陽子は口上を宣言する。
「白き勇気、セイバー・アルブス! この勇気でどんな悪も挫いてみせる!」
「やっと変身したか。んじゃ、早速だが始めるぜ!」
言うや、ディスガイアは地を蹴った。巨体に似合わず、その動きは早く鋭い。一度の踏み込みで間合いを無に帰し、懐に入り込むや右ストレートを放った。
陽子はそれを一瞥し、両手で軌道を反らした後、右足を軸として左足で回し蹴りを放つ。が、それをディスガイアは左手で掴み取った。しかし陽子は慌てず、掴まれている左足を軸にし、右足を頭部目がけて蹴り抜いた。だがディスガイアも慌てずに処理する。陽子の右足が到達するより早く、腕の力だけで陽子の体を上空へと投げ飛ばしたのだ。それにより陽子の右足は空を切り、さらには回転しながら遥か上空へと吹き飛んでいく。
「はぁあああっ!」
そんな陽子の目に地上から追撃してくるディスガイアが映り、映ったかと思えば次の瞬間には右ストレートが迫っていた。
「たぁあああっ!」
負けまいと陽子も右ストレートを放ち、両者とも相手の威力に押されて身を反らした。が、すぐさま両者とも体勢を立て直し、再度攻勢に転じる。
それにより、乱打戦が始まった。
「だぁあああっ!」
「うぉおおおっ!」
両者とも打って、打って、打ちまくる。息をつくのも、瞬きも忘れて。
均衡を崩したのは陽子だった。
「せいっ!」
何度目かの打ち合いの後、より力を込めて拳を放った。ディスガイアの拳をぶつかるが、陽子の拳が打ち勝ち、ディスガイアに大きな隙が生まれる。
「落ちろっ!」
そこへ陽子は思いっきり拳を振り下ろした。ディスガイアは舌打ちし、防御を目論むも陽子の攻撃はそれよりも早く直撃し、宣言通りディスガイアは地上へと叩き落される。
「太陽の光よ、全てを照らし尽くせ! ブレイブ・バスター!」
陽子は休む事無く次の行動に移った。空と向き合い、右手を放ってブレイブ・バスターを放ち、すぐさま身を翻す。それにより、陽子の落下速度は増し、落ちながら陽子は右手を握り締め、ディスガイアに向けて思いっきり振り下ろす。その一撃はディスガイアの腹部に直撃し、さらには大地に亀裂を走らせ、陥没させるほどの威力だった。
拳を引き抜き、陽子は飛び退いてディスガイアの横に立った。
「……強いな、嬢ちゃん」
弱々しいが満足そうに言いつつ、ディスガイアは懐に手を入れた。再び現れた手にはオレンジ色の宝石が握られていた。
それを取り出した時、ディスガイアの体に異変が起こった。変化は足元。土に少しずつ、しかし確実に変質し、崩れ落ちていく。
「貴方、体が……」
「そんな事より受け取れ。そういう約束だっただろう?」
言うや、ディスガイアは宝石をひょいと陽子に放った。陽子は慌ててそれを掴んだ。二度三度掴み損ね、四度目で無事に掴み取る。
「ちょ、ちょっと! 大切に扱わなきゃ駄目じゃん!」
「その方が嬢ちゃんらしいぜ」
そう言われ、陽子は気丈に振る舞おうと努めた。
それが勝者としての勤めだと思ったから。
土に還っていくディスガイアを見ながら、陽子は言う。
「――ごめんね。貴方の事、守ってあげられなくて」
「いいさ。自業自得だからな。それに嬢ちゃんに負けたなら安心して眠れるぜ」
ディスガイアは親指を立て、屈託の無い笑みを浮かべて続ける。
「俺が言うのも何だが……、頑張れよ、嬢ちゃん」
「陽子だよ。白浜陽子」
「ヨウコ、か……。いい、名前――」
言い切る前にディスガイアは完全に土となった。
と同時に変身が解除され、陽子とアサは土となったディスガイアを見下ろす。
「……彼の事も守ってあげたかったな……」
ポツリと陽子は呟いた。その時、頬を伝って一筋の涙が地面を濡らす。
アサは無言で握る力を強めた。
握り合った手の中にある宝石の重みが増した気がした。
陽子は涙を左手の人差し指で拭い、かぶりを振って顔を上げ、アサを見た。
その顔はいつもの陽子の顔に戻っていた。
「――まずは一つ、だね」
握り締めたままの右手を目の高さまで挙げ、微笑みながら陽子は言った。
アサも微笑みを返して言う。
「ヨウコのおかげです。お疲れ様でした」
「私だけじゃないってば」
そう言って、陽子はアサの額にデコピンを見舞った。
「二人で頑張った成果だよ。だから、二人で喜ばないと駄目なの」
「ですが――」
「口答えはさせないよ」
陽子はまたデコピンを見舞った。しかし、今度は防御されてしまう。
「あ、ガードした」
「同じ手を何度も食らいません。先ほどのも痛かったのですよ?」
「アサが変な事言うからだよ?」
「私は事実を言っただけですよ?」
「それが変なの。私はアサがいないとセイバーになれないんだよ?」
「でも、私は基本的に見ているだけですし……」
「それが助かるの。見守ってくれる人がいるだけで精神的にかなり楽だからね」
「……ヨウコがそう言ってくれるなら、そう思う事にします」
「そういう事にしておいて」
言うや、陽子は手を握ったまま駆け出した。
「帰るよ、アサ! 私達の家に!」
「はい!」
そうして、二人は仲良く帰路についた。