終章 ハッピーエンドの後も物語は続く
その後の事を少しだけ語ろうと思います。
マリスを倒し――いえ、倒したというのはいささか語弊が生まれますね。ですが、他に上手い言い回しが……。何か良い物はないでしょうか……。
――ふむ。天寿を全うした、という事にしましょうか。あの方から様々な事を聞かせて頂きましたが、それはあくまでも簡略化した事でしょうし、あの日を迎えるまでのあの方の苦労は、私のような未熟者には想像にも及びませんから。
さて、マリスが天寿を全うした後、私達は事後処理をする事にしました。これは私が独自に行うつもりでしたが、ヨウコに「一緒に遊びに行けるように説得しないとだし」と言って聞かず、また「ルナも謝らせなきゃだし」と言ってやっぱり聞いてくれず、結局三人で守護者の砦に向かう事になりました。
そうしたら驚きの連続でした。デムの封印が解除されているばかりか、私達から説明するまでもなく、マリスから事情を聞いた上で口裏を合わせたというのです。守護者としてはどうなのかと思いましたが、こちらにも非はあるので、と結論付けました。でも、何だかなー、という気持ちは拭えませんでしたが。
そうそう。驚く事と言えば、私がヨウコの側にいる事が許された事です。曰く、万一の時に行動を共にした方がいいだろう、という事らしいですが、私がヨウコの側でより自分を高めたい、という気持ちを汲んでくれた事が丸分かりでした。
というわけで、私はデムに事後処理を任せ、三人で白浜家に戻ったのですが、そこでヨウコの母君がまたしてもとんでもなさの一旦を見せてくれました。こちらが事情を話さずとも「やっぱりこうなったわね」と言って納得し、マリスの事を黙っていたヨウコに対しても「貴女が自分で思い出した方がマリスも嬉しいだろうから」と言い、ルナに対しても「娘が増えて嬉しいわー」とのん気な反応。私を含め、ルナはもちろんのこと、実の娘であるヨウコまでも呆れて何も言えませんでした。この人の底が知れません。本当に一体全体何者なのでしょうか。
日常的な事でもう一つ。ヨウコが私の手伝いをしている事を知った明美と理香ですが、伊達にヨウコの友達をやっていないというか、ヨウコを慮ってか、改めて事情を話すと各々の言葉で労ってくださいました。ヨウコの母君もそうですが、ヨウコの周りには精神面が鋼のような人ばかりだな、とつくづく思います。
で――そんな私達はというと、
「うーん! やっぱりこの場所は何度来ても神秘的でいいねー!」
夏季の長期休暇を利用し、それぞれの家の親が同伴の下、近場の海辺にやってきています。そういう約束をしていましたからね。
「あー、日光きつい……」
そうぼやいたのはルナ――いえ、今は月子というべきでしょうか。白浜月子。それが今の彼女の名前です。まあ、思いっきり偽名なんですが、その辺は「白浜家が関わっているから」という事でツッコミは特にありませんでした。明美や理香曰く、ツッコミを入れたら負けだそうです。私もそう思えるようになりました。
「日光がきついって、吸血鬼じゃあるまいし……」
「もしくは引き篭もり?」
「いやいや。属性的な意味だよ。前に話したじゃん」
「あー、そういやそうだったわね」
「すっかり馴染んでいたから忘れちゃってたよー」
明美が言った事は、紛れも無い事実です。私の時も好意的でしたが、月子の時はヨウコに顔がそっくりな事も相成り、一層好意的でした。月子も嫌々ながらもヨウコに「頑張って」と言われるとちゃんとコミュニケーションを取り、ものの数分もするとクラスに馴染んでいました。驚異的で羨ましい限りです。私は何分初めての経験なのでまだ少し慣れないので。
「ルナ、平気ですか? 休んで」
「平気だよ、アサ! 休むなんて勿体無いからね!」
「――それだけ騒げれば大丈夫ですね」
心配して損をした気分になりましたが、思っていたよりも元気そうだったので良しとしましょう。むしろ、日中でこれだけ動けるのが凄い事ですから。
ルナはそういう体質なようです。詳しいところは分からないのですが、日が出ている内は大人しいのですが、夜になるにつれて活動的になってくるのです。今は夜行性なんだろう、って事で納得しています。私も結構染まってきたという事でしょうか。郷に入れば郷に従えと言いますが、慣れって怖いです。
ですが、私は疲れました。朝から遊び通しですので。
「皆さん。すみませんが、私は少し休みます。はしゃぎ過ぎたみたいなので」
「あはは。相変わらず体力無いねー。だから、あたしに負け」
「一々そういう事言わないの」
ポカン、と私を罵倒したルナをヨウコが殴ってくれました。ルナは今でも私が不甲斐無かった頃の事で一々弄って来て、ヨウコに殴られます。最初の頃は手が出なかったヨウコも今ではすぐに手が出ます。何でも、言っても聞かないから、だそうです。分かります。私としてもいい加減やめてもらいたいものです。
「痛いよ、ヨウコ!」
「ルナが事ある事に食いつくからよ。それ、いい加減直そうよ」
「それは無理だよ。あたしって基本的にはヨウコと逆だからね」
「せめて直す努力はしようね」
と言いつつ、ヨウコも海から上がりました。明美や理香も一緒でした。
「三人も上がるのですか?」
「うん。喉渇いてね」
「私も」
「私はお腹減ったからー」
口々に言いながら私達は上がりました。上がっていないのはルナだけです。
「うう……。じゃあ、あたしも上がる!」
一人は寂しいのか、ルナも勢いよく上がってきました。
その時です。ヨウコが唐突に足を止めました。
それにより、後方から駆け寄ったルナがヨウコにぶつかってしまいます。
「いてて……。ヨウコ! 急に止まらないでよ!」
しかし、ヨウコは返事をせず、ずっと空を見上げたままでした。
そして、ポツリと一言。
「――何か来るね」
突如放たれた不穏な言葉。
直後、私は邪悪な気配を感じ取り、それに応えるように上空から何かが落ちてきて、海に着水――すると思われましたが、寸でのところで止まりました。
現れたのは、銀色の球体。
目的は分かりませんが、漂ってくる敵意から敵だという事は分かりました。
「明美、理香、皆を遠くに誘導してくれる?」
「任されてあげるわ。行くわよ、明美」
「合点承知! というわけで、そっちは任せたー!」
言うが早く、二人はヨウコの指示を実行するべく、阿鼻叫喚の嵐となっている海辺に書け、遠くに離れるように大声で叫び始めました。阿吽の呼吸というべきですか。三人の団結力と行動力には何度も驚かされます。
「ちゃんと休みたかったのになー」
「速攻で片せばいいだけの話です」
「だね。というわけで――行くよ、二人とも!」
ヨウコの指示に従い、私達は戦闘準備をし始めます。
「「サンパワー、インストレーション!」」
「ルナパワー、インストレーション!」
白き光に包まれる私とヨウコ、黒き闇に抱かれるルナ。
一瞬で変身を完了させ、ヨウコとルナは名乗りを上げます。
「白き勇気、セイバーアルブス! この勇気でどんな悪も挫いてみせる!」
「暗き絶望、ブレイカーアートルム」
何処の誰かは存じませんが、あの敵さんに私は敵ながら同情します。
だって――。
「昼間だからって手を抜かないでよ、アートルム」
「アルブスもいつもみたく甘やかしちゃ駄目だからね」
この表裏一体となった守護者二人を相手に悪事を働かねばならないのですから。