Dragon Dawdle(ドラゴンドゥードル) ~ 竜の棲む森 【シナリオ形式】
■主要人物>
もとはシリアスで救いのないホラーものだったのに(http://ncode.syosetu.com/n9415x/)、作画さんの修正要求に従って書き換えてたうちにこんな話が出来上がってしまいました。(笑)
結果的にはボツでしたが、これはこれで面白くはあったと思うし、発注をくださった漫画家さんからも自分の作品として公開していい旨の許可をもらったので、ここにも載せてみます。漫画になった状態を空想しながら読み物として楽しんでいただけましたら嬉しっス。
m(_ _;m
フレデリー:西方人の少年。
ギュイク:マド族の少女。
アーカイド:西方人、中年の騎士。
物持ち:マド族の物持ち。壮年~初老の男。
農夫:マド族の村人たち
ドラゴン:グリーンドラゴンでしょうか? ま、モノクロだろうから適当に……(笑)
老翁:なぞの老人。(実はドラゴンの化身)
<設定>
物語中では、「西方人」は普通の人間、「マド族」はエキゾチックな異種族という
イメージでお願します。服装や髪形、顔つき、道具類など外見上の違いで異文化と
いう印象を出していただきたいのですが、創作ファンタジーですからどういうデザイン
にするかはとくに指定しません。ご随意なイメージでお願いいたします。
よそ者は「マド族」と呼びますが、地元では「マド人」と称しています(雰囲気上の
問題を解決するための設定なので、物語中で説明する必要はありません)。
シナリオ中では「マド語」は「◆◆◆◆」などと表現してますが、これも特に指定は
しないので、適当なわかりにくい文字(象形文字など)で表現してくださるようお願い
します。
(注:マド族は亜人ではなく、異文化の人間としてキャラデザをお願いします。)
○険しい山道
崖っぷちの桟道のような山道を、馬を引いて歩いて行く騎士と従者の姿が。
騎士はアーカイド。従者はフレデリー。フレデリーの片足には、呪文の刻まれた環が着いている。(さりげなく描写) 荷物は馬とフレデリーのみが持つ。
フレデリー「しかしアーカイド様、まさか本当に行くとは…」
アーカイド「しかたあるまい、わしにも意地がある。」
アーカイド、遠くをにらんで片手を掲げたポーズを取り、
アーカイド「みていろよ! わしは栄えある竜退治の騎士となって都に帰り、陛下からあらたなる領地をたまわるのだ!」
フレデリー、ヤケクソ気味に拍手、拍手。
アーカイド「それにしても疲れたな。フレデリー、もっとましな道はないのか?」
フレデリー「ドラゴンドゥードルへ行く道なんか、僕は知りませんよ。」「かろうじてわかったこの道しか。」
アーカイド、心配そうな表情になり、
アーカイド「ドラゴンドゥードル…か。」
キャプション「ヴェラフスト王国の領域内に在るのに、王権が行き届かない辺境の村…それがドラゴンドゥードルだ。そこは異種族・マド族が住み、ドラゴンが住む聖域を守っていると言われている。」
アーカイド「ええい、疲れたっ! わしは馬に乗るぞ!」
勢いよく馬に飛び乗る。
フレデリー「あっ、アーカイド様、ここで乗ったら…」
ガラガラガラガラ……
アーカイド、真っ青。
道が、馬の足元で崩れている。馬は足を上げ、辛うじて助かった。
フレデリー「ドラゴンと遭うまえに死んじゃいますよ?」
アーカイド「う、うむ…」
そろりそろりと馬を下りる。
フレデリー「さ、自分の足で歩いた歩いた。」
アーカイド「うむ…」
アーカイドの心の声「しかし、どっちが主人だかわからんな。」
○ 森の中の道。
異装の少女(ギュイク)が膝まづき、石を組みあわせたような塚に祈っている。
遠くから2人がやってくる。アーカイド、こんどは馬に乗っている。
フレデリー「アーカイド様、人がいます。」
アーカイド「ちょうどよい、この道で正しいか尋ねてこい。」
フレデリー、ギュイクに近づき
フレデリー「あの…ちょっとお尋ねします。」
ギュイク、祈りを中断し、顔を上げる。
フレデリー「ドラゴンドゥードルへの道は、これで正しいのでしょうか?」
ギュイク「◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆。◆◆◆◆◆?」(象形文字)
フレデリー「あっちゃあ…マド族か。」
アーカイド「マド語はわからんのか?」
フレデリー「わかりません。アーカイド様は…」
アーカイド「わかるわけないだろう。」
ギュイク「…それでよく、マド人の土地へ行こうなんて考えたわねえ。」
フレデリー&アーカイド「え!」
フレデリー「なんだ、言葉がわかるんじゃないか。」
ギュイク「森の精霊にお祈りしていたの。邪魔しないでくれる?」
アーカイド「なに森の精霊? それは邪教だ、正しい神に祈りなさい。」
フレデリー「アーカイド様、ちょっと黙っててください。」
フレデリー、ふと気がつく。
ギュイクの足にも環。
フレデリー、同情するような目をしてから、
フレデリー「アーカイド様、ここにマド族がいるということは、道は正しいと思います。このまま行きましょう。」
アーカイド「う、うむ。」
○ドラゴンドゥードル
高い崖と森に囲まれた辺境の村。見慣れない形の建物が点々と。
キャプション「ドラゴンドゥードル」
フレデリー&アーカイド「着いたぁ!!」
アーカイド「さっそくだが、領主の館はどこだ?」
フレデリー「アーカイド様、こんな辺境に領主の館などありません。」
アーカイド「では宿屋は?」
フレデリー「街道沿いじゃないんですから、宿屋なんかありません。」
アーカイド「じゃあ、どこへ泊まるのだ! なんとかせい!」
フレデリー(泣きそう)「…なんとかしますよう~(涙)」
○物持ちの家
食卓を囲んでる、マド族の家族とアーカイド。
物持ち「西方人がこの村を訪ねてくるとは珍しいことじゃ。ゆっくりしていきなさるがよい。」
アーカイド「感謝いたす」
物持ち「ところで、おつれさんは…」
アーカイド「ああ、あいつは奴隷ゆえ…」
○村中
フレデリー「いくら奴隷でもメシくらい食いたいよぅ。」
泣きそうになりながら歩いている。
フレデリー「だいたい、村の様子を探ってこいったって…」
書き文字:こんばんは~!
フレデリー、仕事帰りの農夫に声をかけるが
農夫「◆◆◆◆◆~(ぐどいーぶにんぐ)。」(マド語)
フレデリー、溜息。
フレデリー「言葉がぜんぜん通じないんだ。」(溜息)
と、正面からギュイクが来る。お互いに気がついて
フレデリー(思いっきり喜)「さっきの…!」
ギュイク(思いっきり嫌)「さっきの…。」
ふたり、並んで歩くように。
フレデリー「俺はフレデリー。アーカイド様の従者なんだ。」
ギュイク(あまり興味なさそうに)「ふーん。…何しにドラゴンドゥードルへ?」
○物持ちの家
物持ち(驚)「ドラゴン退治!!?」
物持ち、アーカイドを押し出し
物持ち「出てってくれ!」
アーカイド「ど、どういうことだ!?」
物持ち「何年か前にもそういう奴が来た。西方人が死ぬのは勝手じゃが、怒ったドラゴンが暴れれば村は大損害なんじゃ!!」
アーカイド「あ、いや、わしはだな…」
物持ち、象形文字で捨てぜりふを言いながら扉を閉めてしまう。
○村中
尻餅を搗いてるフレデリー。(突き飛ばされた)
フレデリー「いきなり、何するんだよ!」
ギュイク(怒)「…出て行け!」
フレデリー「え…」
ギュイク、すたすたと去ってしまう。
そこへやって来た、アーカイド。
アーカイド「こら、こんな所で何を休んでおる。」
フレデリー「アーカイド様こそ…あの家に落ち着いたんではなかったんですか?」
アーカイド「追い出された。他の場所を見つけてこい。」
フレデリー「ええっ…言葉が通じるマド族を見つけるだけで2時間もかかったんですよ!? ほかにはいませんよ、きっと…!」
アーカイド「しかたがない。馬小屋でもなんでも我慢してやる。とにかく、雨風をしのげる場所をみつけてこい!」
○廃屋のようなところ、夜
アーカイド、不満気だがいちおう毛布に包まって寝ている。
○月夜。
フレデリー「なんとか休んでくれたようだけど…はぁっ。」
フレデリーは屋外の木陰で寝ている。
フレデリー「騎士にもいろいろあるんだな…前のご主人様は、『常在戦場!』とか言って、なんでも我慢してたもんだけど。」
フレデリー「…………」
フレデリー「寝よ」
寝返りを打つと、
声「ウゥウゥゥゥ…アゥァァァァッ!!」
フレデリー、飛び起き
フレデリー「な、なんだっ!? 悲鳴?」
○穴ぐらの近く
簾のカーテンのかかった穴ぐらがある。
フレデリー、短刀とカンテラを手に、
フレデリー「こっちの方から聞こえてきた…」
声「アァァァァッ! ◆◆◆、◆◆◆◆◆!!」(マド語)
フレデリー、カンテラの灯を穴ぐらの中に差し入れ、覗き込む。
フレデリー「えっ!」
○穴ぐらの中
真ん中に焚き火の跡。
隅で藁くずや枯葉のようなものの中で汗だくになってうなされてたのは、半裸のギュイクだった。
フレデリー「なんてとこに住んでるんだ…」
ギュィク(寝言)「あっ…ああっ! うぁぁぁぁっ!!」
フレデリー「おい、しっかりしろ!」
目が覚めるギュイク。息が荒い。
フレデリー「どうしたんだ、大丈夫か?」
ギュイク「ほっといてよ!」
フレデリー「ほっとけるか、あんな悲鳴を上げて。眠れないだろ!」
ギュイク「起こしちゃったの?」
ふたり、見つめ合う。
ギュイク、自分が半裸と気がついて前を隠しながら視線を逸らして
ギュイク「……ごめん」
フレデリー「体の具合でも悪いのかよ?」
ギュイク「…いつものことだから。」
フレデリー「いつも?」
ギュイク「私は…」
ギュイク、ヤケクソ気味に足の環を見せて
ギュイク「だから! 心配してもらう必要はないの!」
フレデリー「それなら僕だって…」
足の環を見せる。
ギュイク「え!」
フレデリー「奴隷は金で買われて、人の都合で働かされる。たとえ逃げたってこれがある限り必ず連れ戻される。…僕らは同じ境遇なんだよ。」
ギュイク、黙り込んでしまう。
フレデリー「だから…何か困ってるんなら話してくれ。力になれるかもしれない。」
ギュイク「……眠れば必ず悪夢を見るのよ。」
フレデリー「安眠できないってわけか…」
フレデリー、カンテラを手に。
フレデリー「待ってろ、いいものを持って来てやる。」
ギュイク「いいもの?」
フレデリー、出て行きながら
フレデリー「安眠のできる薬草を知ってるんだ。」
ギュイク「ちょっとフレデリー、まさか森に……!?」
フレデリー、すでに出て行ってしまった。
ギュイク「もうっ!! ◆◆◆◆◆(このくされ×××)!」(マド語)
ギュイク、あわてて着替えはじめる。
○森の中
捻じ曲がった木、不気味な雰囲気。
フレデリー、すごく不安そうな表情でうろついてる。
フレデリー「やばい、迷ったかも。」
きょろきょろ。
フレデリー「カンテラも消えちゃったし…村からもう3時間…休もうか」
フレデリー、座り込んで木に寄りかかる。
フレデリー「ま、アーカイド様が『奴隷もどしの呪文』を唱えてくれれば、戻れるけどね。」
フレデリー「恐いとすれば狼とか…」
メリメリメリ……
フレデリー「あっ…!?」
ドキッ!!
フレデリーの寄りかかった木が倒れる。そこは崖っぷちだった。
フレデリー「うわぁぁぁ!!」
崖を転がり落ちてしまう。
○崖下
ドンッ! …と落ちたのは、なにやら鱗に覆われた上?
フレデリーは気を失っているが、ゴゴゴゴゴ…という音とともに、ドラゴンの
シルエットが…
(時間経過)
むき出しの岩の側の暗がり。
フレデリー「い、痛い…」
声「こんな夜中に森をうろつくとは、あきれた人間じゃな。」
フレデリー「!?」
包帯のようなものを巻かれていたフレデリー、起き上がる。
暗がりにいたのは、汚れたフード付きローブを着込んで座り込んでいた老翁だった。
フレデリー、全身に激痛。
老翁「これこれ…折れた骨は呪文でくっつたが、まだ完治はしとらんぞ?」
フレデリー「…治癒魔法をかけてくれたのですか?」
老翁「ああ、死にかけとったでな。しかしこんな夜中に森に何しに来たのだ?」
フレデリー「呼吸と動悸を鎮める薬草を探してるんです。イ草の一種なんですが…」
老翁「このあたりにイ草は生えんよ。」
フレデリー「あ、そうなんですか。」(がっかり)
老翁「眠れないのかね?」
フレデリー「僕ではないんです。マド族の女の子で、ええと……」
老翁「……君はどうやら善人のようだな。ではよく眠れる呪文を教えてやろう。」
老翁(呪文)「夜の帳よ眠りの精よ その瞼に砂をかけ 樹液を出して閉じさせよ…TINO-KA。」
フレデリー「え…」
フレデリー、ふらふらしだす。
老翁のうしろにドラゴンのシルエットが?
朝。鳥の声が聞こえているが…
声「起きろ、ばか!!」
フレデリー「え…」
枯葉の上に寝ていたフレデリーが目を覚ますと、ギュイクが怒っている。
ギュイク「夜の森に入る人がいる!? 土地勘もないくせに!」
フレデリー「そ、そうだった…」
ギュイク「心配して、一晩中探しちゃったじゃない!」
フレデリー「え、し、心配、してくれたの?」
ギュイク、ひるむ。
が、誤魔化して
ギュイク「私のために薬草を探してくれたんでしょ? そのまま死体にでもなったら後味悪いもの。」
フレデリー「そりゃそうだな。(汗)」
ギュイク「あんたのご主人ももうすぐ起きるわ。早く戻ったら?」
ギュイク、背を向ける。
フレデリー「うん…。」
ギュイク(つぶやくように)「……ありがと。」
フレデリー驚く。
ギュイクはスタスタといってしまうが、フレデリーはあわてて追いかけ、
フレデリー「そういえば、君の名前をまだ聞いてなかった。」
ギュイク「マド人は友達にしか名前を教えない。」
フレデリー(独り言+溜息)「とりつくしまがないな。」
ギュイク「私にあんまり関わらないで。」
森の中に塚がある。ギュイク、膝まずいて祈り始める。
ギュイク「◆◆◆、◆◆◆◆◆……」(マド語)
フレデリー「……。」
○廃屋
アーカイド、煮豆をすすりながら
アーカイド「で、何かわかったか?」
フレデリー「いえ。どっちに聖域があるのか、ドラゴンはどこにいるのか、ぜんぜんわかりません。」
アーカイド「困ったのう。これでは、動きようがないではないか。しっかりせい。」
フレデリー「はぁ」
フレデリーの心の声「お前がしっかりしろよ(汗)」
アーカイド「そうだ、昨日会った奴隷女。あいつに案内させよう。」
フレデリー「無理です。友好的ではありません。」
アーカイド「やる前から無理と言うな! 命がけでやればなんでもできるんだ!」
フレデリー「では命がけで『武具馬具、武具馬具、三武具馬具、合わせて武具馬具、六武具馬具』と言ってみてください。」
アーカイド「…あわせてぶぎゅばぎゅ、みゅびゅぐばぎゅ!」
フレデリー「命がけで言えましたか?」
アーカイド「やかましいっ!! 主人の言うことにさからうんじゃないっ!!」
○村の中
フレデリーが独りで歩いている。
フレデリー「でも困ったな…昨日のとこにいないし、言葉も通じないから人に尋ねることもできないし…」
書き文字:おはよっす
農夫「◆◆◆◆。(ぐどもーにん)」(マド語)
○森の近く
ぱしゃっ…
フレデリー、音に気付いて
森の中を覗き込むように
フレデリー「こんなところに水場?」
○水場
ギュイクが水浴び中だった。
フレデリーは思わず見とれてしまう。
ギュイク、しばらく気持ちよさそうにしていたが、
突如、前を隠して
ギュイク「◆◆◆、◆◆◆◆◆◆(誰かそこにいるの)!?」
フレデリー、慌てて飛び出し真っ赤な顔で
フレデリー「あっ、い、いやこれは、見るつもりじゃなくって、その、君に用が…」
手桶が飛んで来てフレデリーの顔面に命中。
ギュイクの声「いいからあっち向いてよ!」
ギュイク、急いで服を着る。フレデリーは目隠しされて座ってる。
ギュイク「で、何の用?」
フレデリー「アーカイド様が、君に案内を頼みたいって。」
ギュイク「どこへ?」
フレデリー「ドラゴンの洞窟へ」
手桶がフレデリーの頭に振り下ろされ、砕け散る。
○村中
歩いていくギュイクを、痛む頭を抑えながらフレデリーが追いかけてる。
フレデリー「タダでは言わないよ、ちゃんと代価は払う!」
ギュイク「あんたも奴隷ならわかるでしょ! 奴隷が勝手にどこかへ行くことはできないって!」
フレデリー「そうだ、君の持ち主って誰なの?」
ギュイク「特定の人はいないわ。」
ギュイク(寂しそうに)「この村そのものが私の持ち主…しいて言えばね。」
フレデリー「?」
立ち止まって困惑してるフレデリーをおいて、ギュイクはさっさと去る。
ギュイク「だからもう、かかわらないで。」
○廃屋
剣の手入れをしていたアーカイド。
アーカイド「遅いではないか!」
フレデリー「すみません…やっぱりダメでした。」
アーカイド「役に立たんやつめ。その間、わしも昨日の村人と交渉したぞ。」
フレデリー「え!? それでは引き受けてもらえたんですか!?」
アーカイド「……いや、やっぱりダメじゃった。」
ふたりとも、大汗。
アーカイド「しかしな、あの奴隷女について…」
フレデリー「なにかわかったんですか!?」
アーカイド「あれはな…人柱なんだそうだ。」
フレデリー「人柱!?」
アーカイド「村に大きな災害が起きたとき、森の精霊に捧げる生け贄にするために飼われた姉妹のかたわれなのだとよ。」
フレデリー、大ショック。
アーカイド、構わず続ける。
アーカイド「竜退治に来た騎士が失敗したとき、姉の方が人柱になってドラゴンの怒りを鎮めたんだとさ。」
フレデリー「…………」
アーカイド「ま、しかたない。ドラゴンは我々だけで探すか。」
○洞窟
アーカイド(焦)「い、いたぁっ!」
フレデリー(焦)「シィッ!!」
ドラゴン、金貨や宝石、美術品などの宝物の山の上で睡眠中。
アーカイド、泣き出す。
アーカイド「10日も探した甲斐があったわい! 村からこんな近くにいたとは」
フレデリー「ようございましたねぇ、元手もかかったんでしょう?」
アーカイド「元手? 旅費のことか?」
フレデリー「いえ、その剣ですよ。」「ドラゴンのウロコに普通の剣では刃が立ちません。それは特製の竜退治の剣なんでしょう?」
アーカイド「いや、普通の騎士の剣だが…」
フレデリー、思い切りずっこける。
フレデリー「それでどうやってドラゴンと戦うんですか!」
アーカイド、自分の剣を見ながら
アーカイド「だ、だめか、これじゃ?」
フレデリー(絶叫)「だめじゃないわけないでしょ!!」
その声に、ドラゴンが目を覚ます。
ドラゴン「(ドラゴンらしいフォントで)人間のニオイがする…。」
フレデリー「まずい! 逃げてください、アーカイド様!」
アーカイド「え!?」
ドラゴン、二人に気がつき、
ドラゴン「またお前か。何しにきた。何が目的だ?」
フレデリー「あ、いえ、ぼ、僕たちは……(書き文字) また?」
アーカイド「我々は貴様を退治にきたのだっ!」
フレデリー「ゲッ」
ドラゴン「身のほど知らずめ・・・」
ドラゴンの口に火が渦巻き始める。
フレデリー「あぶない!」
フレデリー、アーカイドを突き飛ばす。
ゴォォ! ドラゴンの口から炎が。
炎の中であっという間に炭になってしまうフレデリー。
モノローグ「竜の焔は熱いと感じる暇もないって聞いてたけど…」
フレデリーだった炭の塊がくずれてゆく。
(時間経過)
○穴ぐら
フレデリー「ハッ!」
そこは、ギュイクの穴ぐら。簾の隙間から昼間の陽光が差し込んでいる。
フレデリー「ここは…あの娘の寝床?」
フレデリー、きょろきょろ。
土壁に棚を作ってあり、女物のターバンのようなものが飾ってある。
フレデリー、それに手を伸ばそうとすると、簾を開ける音。
ギュイク「勝手に触らないで!」
ギュイク、水桶を運んできた。
フレデリー「あの、僕はいったい…?」
ギャイク「懲りない人ね、また森で倒れるなんて。」
フレデリー「倒れてた? ドラゴンに炎をあびせられたんじゃ……」
ギュイク「夢でも見たの? 竜の焔なんか、かすっただけでも一生寝たきりの大やけどでしょうに。」
フレデリー「そうだ、アーカイド様は!?」
ギュイク「なんだか泣きながらあわてて出て行ったわ。帰ったんじゃないの?」
フレデリー「そ、そうなのか…」(溜息)
ギュイク「でも、よくあの西方人があなたを解放する気になったわね。」
フレデリー「解放?」
ギュイク「奴隷の環。なくなってるじゃない。」
フレデリー、自分の足に環がないことに気がつく。
ギュイク「専門の施術師もいないのに、どうやって外したのかしら?」
ギュイク、水差しに水を移す。
フレデリー「……君が、助けてくれたの?」
ギュイク「しかたないでしょう、関わり合いだもの。」
ギュイク、鍋をかき回しながらごまかす。
物持ち「どぉれ…」
いきなり物持ち氏がやって来た。
ギュイク「あ、西のお屋敷の旦那様。」
物持ち「おお、少年よ、気がついたのか。よかったな。」
ギュイク「ええ、おかげ様で。」
物持ち「大変だったんじゃぞ、少年。君を見つけた時のこいつときたら『死んじゃう、このひと死んじゃう! 助けてください!』って取り乱して…」(くすくす)
ギュイク「旦那さまっ!!」
ガシャン! と皿を台に叩き付ける。
フレデリーも呆然と赤くなる。
物持ち、立ち上りながら
物持ち「よいよい。よそ者に親切なのはマド人の習慣じゃ。要るものがあったら届けるから、しばらくここで養生していくがいい。」
物持ち、出て行ってしまう。
後に、真っ赤になった二人が残される。
ギュイク「・・・・・。」
フレデリー「・・・・・。」
ギュイク「冷めちゃうわ。スープ。」
フレデリー「あ、いただきます。」
フレデリー、皿のスープをすすると、
フレデリー「へぇ…野菜の味しかしないのに、美味い。」
ギュイク「海草の干物で味付けして、塩味をつけたスープよ。簡単だけど栄養はあるの。」
フレデリーのスプーンの先に、にんじんがまるごと。
フレデリー(汗)「…美味いけど不格好。」
ギュイク(赤面)「食べられれば文句は言わないのッ!」
フレデリー、食べ終わって
フレデリー「聞いたんだけど。君、人柱なんだって?」
ギュイク、視線を逸らす。
フレデリー「マド族は聖域を守ってるって聞いたけれど、聖域に何があるんだ? ドラゴンなら、自分で自分を守れるじゃないか…」
ギュイク「逆よ!」
ギュイク、悲しそうな目になり
ギュイク「ドラゴンや精霊は、何千年も昔からこの森にいた。後から来た侵入者は人間の方!」「彼らの邪魔をしたら怒るのはありたまえでしょう?」
フレデリー「それで人柱が要ると?」
ギュイク「犠牲を捧げることで、彼らにも同情心が起こって怒りが和らぐのよ。」
フレデリー「でも、そのための奴隷なんてひどすぎるよ!」
ギュイク「知った風な口を利かないで! 何も知らないくせに!」
ギュイク、皿を片づけながら
ギュイク「とにかく……体が治ったら出ていって。」
○村外れ
フレデリー「いろいろ、お世話になりました。山越えの食料までいただいて、なんとお礼を言えばいいか…」
物持ち「よそ者に親切なのはマド人の習慣じゃよ。」「それより、これからどこへ行くんだね?」
フレデリー「…さあ、これといって当ては。」
物持ち「少し落ち着いて、あの娘に子種でもつけて貰えたら助かるんじゃがなあ。」
フレデリー(驚愕して真っ赤)「な、な、な、何をっ!?」
物持ち(真面目に)「いや、人柱用の奴隷もタダではないからな。奴隷どうしで繁殖してもらえると。」
フレデリー(汗)「あ……」
物持ち「まあ、よいわ。元気でな。」
フレデリー「は、はい。」
○山道
フレデリー、考えごとしながらてくてくと歩いていたが、
ふと、なにか決めたように振り返って
○洞窟
ドラゴン「……で?」
フレデリー「お願いです。どこか遠くへ…人間のいないところへ、移ってくれませんでしょうか? あの少女が死ななくて済むように。」
ドラゴン「…人間よ。君の寿命は、まあ80年といったところだろう。だが竜族は1万年ほど生きる。」
ドラゴン「人間は、世代ごとに移動して、どんどんはびこってくる。どこへ移動しても、いずれそこには人間がやってくる。…なぜいちいち合わせてやらねばならん?」
フレデリー「ではあるでしょうけれど、なんとか…」
ドラゴン「君たちの家に、寿命1年の毒虫が住み着いたとしよう。君は毒虫たちにその家を譲って、わざわざ引っ越してやるか?」
フレデリー「毒虫と人間は……!」
ドラゴン「我々から見ればそれと同じことだ。」
ドラゴン「マド人はまだ、我々を尊重する心があるから許してやれる。しかしお前たち西方人は、実にうっとおしい。」
フレデリー「でも、僕を助けてくれたんですよね!?」
ドラゴン「お前は西方人でも、なかなか仲間思いだ。そこが気に入ったからだ。」
ドラゴン、もの憂げに
ドラゴン「さあ、もう帰れ。いつまでもしつこいと、そう何度もは助けないぞ。
(書文字)ドラゴンはホトケじゃない」
フレデリー「…………」
○穴ぐら、夜
眠いっていたギュイク、物音に気がついて起きる。
ギュイク「フレデ……!?」
フレデリー「シッ!」
フレデリーがギュイクに圧し掛かろうとしていた。
ギュイク「あなた、出ていったんじゃなかったの?」
フレデリー「考えたんだけど…ドラゴンがいるかぎり、君のような人柱は出続ける。どうすればいい? ドラゴンがいなくなればいいんだ。」
ギュイク「…………」
フレデリー「それにはどうするか? 人間が増えればいい。ドラゴンも手に負えないほどたくさんに。そのためには…」
フレデリー、ギュイクに顔を寄せ、
フレデリー「繁殖するんだ! 思いっきりたくさん子供作って…!」
ギュイク「!!」
フレデリー、ギュイクを押し倒し
ギュイク「ちょっ…やめっ…」
て首筋にに唇を這わせ始める。
ギュイク「ンぁっ…やっ…やめっ…!!」
ギュイク、鍋に手が伸び、
ギュイク「やめてぇっ!!」
鍋でフレデリーの脳天を思い切り一撃。
○洞窟
ドラゴン「……しつこいな、君は。」
フレデリー「でも、他に何もいい考えが。」
ドラゴン「というより、メスにそんなこと言えば怒るのが当然だ。」
ドラゴン、首をごろんと動かして、
ドラゴン「たとえ繁殖が目的でも、心を込めて歯の浮くような表現をするのだよ。
(書文字)『君は甘い禁断の果実、求めずにはいられない』とか
『産まれる前から二人は結ばれる運命だったんだ』とか」
「…それはともかくとして」
ドラゴン「君たちが毒虫に関わりたくないように、私も人間などに関わりたくない。」
「ただ気に入った宝床で、何百年か寝たいだけなのだ。もう邪魔をしないで
くれないか?」
フレデリー「いえ、お願いです、僕の命をとってもかまいませんから……」
その時突然、
声「おいっ、ドラゴン!」
フレデリーから離れたところで、完全武装のアーカイドが。
アーカイド「久しぶりだな! 従者・フレデリーの仇を討つため、誇りたかき騎士、アーカイド=オブ=デングリゴールが再見参だ、神も照覧あれ!」
フレデリー「ア、アーカイド様!?」
ドラゴン「またうるさい奴が来た…」(溜息)
アーカイド「居城を売り払って耐熱鎧と竜退治の剣を手に入れたのだ! 今度こそ刺し違えてでも貴様を…!」
ドラゴン「はいはい、ご苦労さん。(書文字)それニセモノだよ」(寝返り)
フレデリー「アーカイド様! やめてください、このドラゴンは話の分からない相手ではありません!」
アーカイド「フレデリー!? 生きていたのか! 目の前で黒こげになったのに…」
フレデリー「ドラゴンが助けてくれたんです。」
ドラゴン、あくびしながら
ドラゴン「死にかけた人間を生き返らせるくらい、子竜の遊びみたいなもんだ。」
アーカイド「どういうことだ?」
フレデリー「ドラゴンは、ただここで寝ていたいだけなんだそうです。人間が手を出さなければ何もしない。だから、退治する必要なんかないんですよ!」
アーカイド「し、しかし…」
ドラゴン(嫌そうに)「もう一人、誰か来たみたいだ……」
やってきたのは、ギュイク。フレデリーたちには気付いてない。
フレデリー、驚く。
ギュイク「ドラゴン様、お願いがあってまいりました。」
ドラゴン(不機嫌)「何だ!」
ギュイク、ドラゴンの前に座り込んで
ギュイク「私の命を捧げます。だから……」
ギュイク、涙ぐみつつ、
ギュイク「フレデリーに、ウロコを一枚、あげてくれませんか?」
フレデリー「ウロコ?」
アーカイド「シッ!」
ドラゴン「何のために?」
ギュイク「あの人、竜退治の使命を負ってここへ来てしまったんです。せめて、戦った証拠だけでもあれば……だから。」
ドラゴン、聞いてないふりしてるが片目はギュイクに向いてる。
ギュイク「でないと、あのひと、ここから帰ることができません…お願いです。」
ドラゴン「その少年に……本当に帰ってほしいのかね?」
ギュイク「え!?」
ギュイク、拳を胸に当てて赤くなり、困ってしまう。
ドラゴン「まあ、死んでしまえばお前にとっては同じだな。」
ギュイク「そ、そうです。同じですから!」
ドラゴン「昨日な。」
ドラゴン、また寝返り。
ドラゴン「その少年が来て、人柱の少女を助けるために、わしによそへ移ってくれと頼みにきたよ。自分の命を代償にして、と。」
ギュイク「ええっ!?」
ドラゴン、大あくびをしつつ
ドラゴン「まったくもう。なんでこう、命を粗末にする奴ばかりなんだ、人間は。」
ドラゴン、起き上がり、犬のようにぶるぶるっと震える。ウロコが何枚か剥がれ落ちる。
ドラゴン「お気に入りの宝床だったが、ここまでかな。」
一同「え!?」
ドラゴン「どこかよそへ移る。ここはうるさくて、とても眠ってられん。」
○洞窟の外
日の光を浴びて、ドラゴンが翼を広げ始める。
ドラゴン「お前らはウロコでも宝石でも、好きなだけもっていけ。」
「そして結婚でも繁殖でも、好きなだけしてろ。」
ドラゴン、空へ飛翔。
ドラゴン「さらばだ!!」
飛び去ってゆくドラゴン。
一同、呆然とドラゴンを見送る。
アーカイドはドラゴンのウロコや宝箱を抱えている。
見送りながら、フレデリーとギュイクはいつのまにか手を握り締めあっていた。
それに気付く一同。
フレデリー(赤)「あっ、えっと、あの…」
ギュイク、何かを待ってる顔。
フレデリー(真っ赤)「二人は、その、結ばれる運命だった…んだと思う。」
ギュイク「…なによ、それ?」
ギュイク、手を振り解いて背を向け、
ギュイク「……ギュイク。ギュイク=フロム=ドラゴンドゥードル。」
フレデリー「え?」
ギュイク「私の名前!」
フレデリー、顔に笑みがさして来て
フレデリー「ギュイク…」
ギュイク(真っ赤)「…友達より大切になる人だもの、教えてもいいでしょ?」
フレデリー「いいのか、よそ者の俺で!?」
ギュイク「マド人は、よそ者を歓迎するのが習慣だから。」
フレデリー(大喜)「う…うん!! やっほぅ!!」
ギュイク「きゃっ!?」
フレデリー、ギュイクを横抱き(お姫様ダッコ)に抱え上げ、
走り出してしまう。
アーカイド「待て! 主人のわしがまだ結婚の許可をしてないぞ!」
アーカイド、ドラゴンのウロコを抱えてフレデリーの後を追い掛けながら
アーカイド「…ま、いいか。新しい城も建てるし、家臣が増えるのは有難いからのう。」
でも、なんだか楽しそう。
~~~ 終わり