毒を食らわば皿まで
人間たちの不注意が生んだ千載一遇の好機と、高級マグロの誘惑に理性を狂わされた一匹の猫による、壮絶な(?)大暴走の記録です。
食い意地とペナルティの狭間で繰り広げられる、愛らしくも図々しい日常の一幕をお楽しみください。
我が家の人間たちが高級マグロの刺身を食卓に残したまま、うっかり買い物へ出かけてしまった。
千載一遇のチャンスに目の色を変えた僕は、一気に一切れを平らげたものの、その途端に胸を刺す罪悪感と「どうせバレて怒られるなら」という開き直りが交錯する。
「毒を食らわば皿まで——よし、皿まで舐め尽くしてやる!」と覚悟を決めた僕は、残りの刺身どころか醤油のついた小皿まで綺麗に舐めまわし始め、あげくの果てにはキャットフードの袋やゴミ箱にまで手を伸ばす大暴走モードへと突入していった。
ペロリと最後の一粒までキャットフードをあさっていたその時、ガチャリと玄関の鍵が回る音が響いた。
「ただいまー!……あッ、マグロ出しっぱなしだった!」
青ざめた飼い主の悲鳴が聞こえた瞬間、僕の体はピクッと跳ね上がり、全神経が研ぎ澄まされた。
足早にリビングへ駆け込んでくる足音。逃げ場を探す暇すらない。
「えっ……刺身がない……? っていうか、皿までピカピカなんだけど!?」
空っぽの小皿と、ゴミ箱の横で口のまわりに醤油の匂いを漂わせた僕。
両者の視線がバチッと交差し、部屋の中に静寂が訪れる。
「……あなた、やったわね?」
怒りと困惑の混ざった飼い主の顔を見上げながら、僕は「ニャー」と最高にシラバッくれて鳴いてみせた。
動物病院からの帰り道、飼い主のバッグの中で揺られながら、僕はこれからの「処世術」について真剣に考えを巡らせていた。
帰宅するやいなや、僕を待っていたのは「大説教」と「晩ごはん抜き(※カリカリ半減)」という過酷なペナルティだった。怒りのおさまらない飼い主は、僕の目の前でマグロが載っていた小皿を洗い流し、ゴミ箱には厳重なロックをかけ、キャットフードの袋を一番高い棚の奥へとしまい込んでしまった。完全なるセキュリティ強化である。
「まったく……あんなに美味しそうに舐めまわしちゃってさ。お腹壊さなかったのだけは良かったけど」
ため息をつきながらも、僕の頭を撫でてくれる飼い主の手は優しかった。その温もりに免じて、僕は小さく「フニャン」と甘えた声を出し、すり寄ってみせる。
怒られても、病院に連れて行かれても、あのトロけるような高級マグロの味は忘れられない。今回の反省を生かし、次回チャンスが訪れた際には、足跡を残さず、匂いも消し、スマートに完食してみせると心に誓う僕だった。
【了】
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
「毒を食らわば皿まで」という物騒な(?)ことわざを地でいく、食い意地全開な猫ちゃんの日常をお届けしました。どれだけ怒られても、反省するどころか「次はもっと上手くやろう」と企む図々しさと愛らしさを感じていただけたら嬉しいです。
マグロの誘惑には勝てなかった猫ちゃんの今後の健闘(?)を温かく見守ってください




