多数派という名の暴力
死体を隠す必要はないと思っていた。
死んだやつが悪い。
雑把な私に殺されたやつが悪い。
そう考えて信じなかった。
しかし実情はそうではなかった。
私に殺された者はその死を嘆き悲しまれ、私は責任どころか死を求められた。
その者が死ぬことも、私が死ぬことも等しく死であるというのに。
ただ私が人を殺したというだけで、世は私に死ねと言ってきた。
「お前の正義はみんなの悪だ」
第一の発見者は、親友だった。
親友ならわかってくれると信じていた。
それでも彼は、理解より先に自らの嫌悪感を優先した。
実に暴力的なことだ。
「法律にも人を殺しちゃいかんと書いてある」
法律なんて所詮ただの文章でしかないだろう。
そう言ったら、彼は私の頬を殴った。
法律には、人を殴ったらいけないと書いていないのか。
「ここに誰がいようとも、全員お前のことを殴りたいと思うだろうよ」
彼はそう言ってもう一度私をぶった。
私は固く握られた拳でぶたれた。
誰も私に同情しなかった。
「お前は犯罪者だ」
第二の暴力者は私の親だった。
法律は、私を害する人間を正当化する。
私が行なった行為が犯罪ならば、彼らも当然犯罪者だ。
しかし世論は、彼らを犯罪者とは言わない。
彼らは、犯罪者に制裁を加えた正義の名における英雄だと称された。
「人を殺すことはいけないことなのか」
私はそのとき初めて声をあげた。
すると私は、もう一度誰かにぶたれた。
誰だったかなんて、もう覚える気もなかった。
誰であろうと、私のそばに立つ者ではないのだから。
「多くの人は他人を害さない。当たり前のことだ」
親友はそう言って私の足を強く蹴った。
深く淀んだ曇天のようなあざが、今もなお残っている。
多くの人は他人を害さない。
私は少なからず、多くの人ではない。
それならば私を傷つけていいのだろうか。
「多数派というのは正義なのか」
私はもう一度声をあげた。
私の肚の中に眠っていた疑問を吐き出した。
「当たり前だ」
誰かが濁声で叫んだ。
その声には、芯がなかった。
「多数が正義だ。少数は悪だ。お前は少数だ。だから死ね」
民衆は、そうだそうだ、と口々に言って私を殴って蹴ってを繰り返した。
私が少数として、私が悪として、それが私を傷つける理由になっていいのか。
多数は、私を圧倒的に痛めつけた。
そして私は遺書を書いた。
檻の中で遺書を書いた。
少数派で申し訳なかった、ただそれだけのことに原稿用紙を何枚も費やした。
人を殺して申し訳なかった、ただそれだけのことに何度も筆を措いた。
『多数派によって私は殺される』
監獄の壁に、それだけ記して檻をくぐった。




