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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

多数派という名の暴力

作者: 宗 由布
掲載日:2026/07/31

 死体を隠す必要はないと思っていた。

 死んだやつが悪い。

 雑把な私に殺されたやつが悪い。

 そう考えて信じなかった。


 しかし実情はそうではなかった。

 私に殺された者はその死を嘆き悲しまれ、私は責任どころか死を求められた。

 その者が死ぬことも、私が死ぬことも等しく死であるというのに。

 ただ私が人を殺したというだけで、世は私に死ねと言ってきた。


「お前の正義はみんなの悪だ」


 第一の発見者は、親友だった。

 親友ならわかってくれると信じていた。

 それでも彼は、理解より先に自らの嫌悪感を優先した。

 実に暴力的なことだ。


「法律にも人を殺しちゃいかんと書いてある」


 法律なんて所詮ただの文章でしかないだろう。

 そう言ったら、彼は私の頬を殴った。

 法律には、人を殴ったらいけないと書いていないのか。


「ここに誰がいようとも、全員お前のことを殴りたいと思うだろうよ」


 彼はそう言ってもう一度私をぶった。

 私は固く握られた拳でぶたれた。

 誰も私に同情しなかった。


「お前は犯罪者だ」


 第二の暴力者は私の親だった。

 法律は、私を害する人間を正当化する。

 私が行なった行為が犯罪ならば、彼らも当然犯罪者だ。

 しかし世論は、彼らを犯罪者とは言わない。

 彼らは、犯罪者に制裁を加えた正義の名における英雄だと称された。


「人を殺すことはいけないことなのか」


 私はそのとき初めて声をあげた。

 すると私は、もう一度誰かにぶたれた。

 誰だったかなんて、もう覚える気もなかった。

 誰であろうと、私のそばに立つ者ではないのだから。


「多くの人は他人を害さない。当たり前のことだ」


 親友はそう言って私の足を強く蹴った。

 深く淀んだ曇天のようなあざが、今もなお残っている。

 多くの人は他人を害さない。

 私は少なからず、多くの人ではない。

 それならば私を傷つけていいのだろうか。


「多数派というのは正義なのか」


 私はもう一度声をあげた。

 私の肚の中に眠っていた疑問を吐き出した。


「当たり前だ」


 誰かが濁声で叫んだ。

 その声には、芯がなかった。


「多数が正義だ。少数は悪だ。お前は少数だ。だから死ね」


 民衆は、そうだそうだ、と口々に言って私を殴って蹴ってを繰り返した。

 私が少数として、私が悪として、それが私を傷つける理由になっていいのか。

 多数は、私を圧倒的に痛めつけた。


 そして私は遺書を書いた。

 檻の中で遺書を書いた。

 少数派で申し訳なかった、ただそれだけのことに原稿用紙を何枚も費やした。

 人を殺して申し訳なかった、ただそれだけのことに何度も筆を措いた。


『多数派によって私は殺される』


 監獄の壁に、それだけ記して檻をくぐった。

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なかなか難しいかな・・
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