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支持率

作者: はまゆう
掲載日:2026/02/20

 その国の政府は、戦争が好きだった。正確に言えば、戦争そのものが好きなのではない。戦争をすると支持率が上がるのが好きなのだった。


 最初の戦争のとき、国民は驚いた。昨日まで平和だと言っていたのに、急に開戦したからだ。街では人々が顔を見合わせた。

「戦争らしいぞ」

「ほんとうか?」

「新聞に出ていた」

 新聞はたしかにそう書いていた。もっとも、その横にはこうも書いてあった。

《本戦争は国民の圧倒的支持のもとに開始されました》


 人々は首をかしげた。だれも支持した覚えがなかった。だが、支持した人がいるのだろうと思った。自分以外のだれかが支持したのなら、それはそれでいいことのような気がした。


 政府は声明を出した。

「支持してくださってありがとうございます」


 支持した覚えのない国民は、礼を言われて悪い気はしなかった。支持率は上がった。


 二度目の戦争では、政府はずいぶん手際がよくなっていた。開戦の前日にはすでに勝利宣言の原稿まで用意されていた。

「今回は迅速に進めます。みなさんの支持のおかげです」

 首相は満足げだった。


 ただ一つ問題があった。武器が足りないのだ。軍の倉庫はからっぽだった。

「困りましたな」

 大臣たちは言った。

 首相は少し考え、名案を思いついた。

「武器を輸出しましょう」


 大臣たちは目を丸くした。

「武器を売ったら、こちらの武器が減るのでは?」

「いいえ」首相は言った。「売るのは新しく作った武器です。売れば儲かる。儲かればまた作れる。つまり武器が増えるのです」

「なるほど」

 だれも完全には理解していなかったが、反対する理由も思いつかなかった。


 政府は発表した。

《平和維持のため武器輸出を開始。国民の強い支持》


 国民は感心した。

「平和のために武器とは、深い理屈だ」

「自分には思いつかない」

「やはり政府は頭がいい」


 支持率はさらに上がった。


 三度目の戦争の前、官邸で会議が開かれた。議題は「会議が多すぎる件」だった。

「戦争のたびに閣議決定をしていては遅れます」

 事務官が言った。

「たしかに」

「支持されているのだから、決定はすでに下りているのと同じでは?」

 首相はうなずいた。

「その通り。支持とは、未来の同意です」


 こうして決まった。今後、戦争開始に閣議決定は不要。国会への報告は事後でよい。


 翌朝の新聞は一面だった。

《手続き簡略化 国民の支持で迅速開戦》


 国民は朝食を食べながら読んだ。

「便利になったな」

「なにが?」

「戦争だよ」


 支持率はまた上がった。


 それからというもの、戦争はたいへん手軽になった。政府が「やります」と言えば始まり、「終わりました」と言えば終わる。天気予報より簡単だった。

 戦争速報は娯楽番組の合間に流れた。

《ただいま戦争が始まりました》

《ただいま戦争が終わりました》


 国民は拍手した。

「テンポがいい」

「無駄がない」


 支持率は過去最高を更新した。


 ある日、政府は新制度を発表した。

「国民の強い支持により、国民の意見を聞く手続きを省略します」


 記者が質問した。

「支持はどうやって確認するのですか?」

 首相は穏やかに答えた。

「確認が必要だと思われていないこと自体が、支持の証拠です」


 記者は感心してメモを取った。翌日の新聞はこう書いた。

《確認不要 支持確定》


 国民は感動した。

「なんて合理的なんだ」

「手間が省けて助かる」

「自分で考えなくていいのがいい」


 支持率は歴史上はじめて一〇〇%を突破した。


 政府は祝賀式典を開いた。首相は演説した。

「これほど支持されている政府は世界にありません。よって本日をもって、この国は完全な支持国家となります」


 国民は涙ぐんだ。

「すばらしい国に生まれてよかった」


 その夜、世論調査会社がひそかに調べた。

「あなたは政府を支持していますか?」

 すると大半の人が答えた。

「たぶん」

「そうらしいね」

「新聞に書いてあった」


 調査員はさらに聞いた。

「いつ支持しましたか?」


 だれ一人、答えられなかった。


 だが翌朝の新聞には、ちゃんと載っていた。


《国民全員、政府を支持》

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