支持率
その国の政府は、戦争が好きだった。正確に言えば、戦争そのものが好きなのではない。戦争をすると支持率が上がるのが好きなのだった。
最初の戦争のとき、国民は驚いた。昨日まで平和だと言っていたのに、急に開戦したからだ。街では人々が顔を見合わせた。
「戦争らしいぞ」
「ほんとうか?」
「新聞に出ていた」
新聞はたしかにそう書いていた。もっとも、その横にはこうも書いてあった。
《本戦争は国民の圧倒的支持のもとに開始されました》
人々は首をかしげた。だれも支持した覚えがなかった。だが、支持した人がいるのだろうと思った。自分以外のだれかが支持したのなら、それはそれでいいことのような気がした。
政府は声明を出した。
「支持してくださってありがとうございます」
支持した覚えのない国民は、礼を言われて悪い気はしなかった。支持率は上がった。
二度目の戦争では、政府はずいぶん手際がよくなっていた。開戦の前日にはすでに勝利宣言の原稿まで用意されていた。
「今回は迅速に進めます。みなさんの支持のおかげです」
首相は満足げだった。
ただ一つ問題があった。武器が足りないのだ。軍の倉庫はからっぽだった。
「困りましたな」
大臣たちは言った。
首相は少し考え、名案を思いついた。
「武器を輸出しましょう」
大臣たちは目を丸くした。
「武器を売ったら、こちらの武器が減るのでは?」
「いいえ」首相は言った。「売るのは新しく作った武器です。売れば儲かる。儲かればまた作れる。つまり武器が増えるのです」
「なるほど」
だれも完全には理解していなかったが、反対する理由も思いつかなかった。
政府は発表した。
《平和維持のため武器輸出を開始。国民の強い支持》
国民は感心した。
「平和のために武器とは、深い理屈だ」
「自分には思いつかない」
「やはり政府は頭がいい」
支持率はさらに上がった。
三度目の戦争の前、官邸で会議が開かれた。議題は「会議が多すぎる件」だった。
「戦争のたびに閣議決定をしていては遅れます」
事務官が言った。
「たしかに」
「支持されているのだから、決定はすでに下りているのと同じでは?」
首相はうなずいた。
「その通り。支持とは、未来の同意です」
こうして決まった。今後、戦争開始に閣議決定は不要。国会への報告は事後でよい。
翌朝の新聞は一面だった。
《手続き簡略化 国民の支持で迅速開戦》
国民は朝食を食べながら読んだ。
「便利になったな」
「なにが?」
「戦争だよ」
支持率はまた上がった。
それからというもの、戦争はたいへん手軽になった。政府が「やります」と言えば始まり、「終わりました」と言えば終わる。天気予報より簡単だった。
戦争速報は娯楽番組の合間に流れた。
《ただいま戦争が始まりました》
《ただいま戦争が終わりました》
国民は拍手した。
「テンポがいい」
「無駄がない」
支持率は過去最高を更新した。
ある日、政府は新制度を発表した。
「国民の強い支持により、国民の意見を聞く手続きを省略します」
記者が質問した。
「支持はどうやって確認するのですか?」
首相は穏やかに答えた。
「確認が必要だと思われていないこと自体が、支持の証拠です」
記者は感心してメモを取った。翌日の新聞はこう書いた。
《確認不要 支持確定》
国民は感動した。
「なんて合理的なんだ」
「手間が省けて助かる」
「自分で考えなくていいのがいい」
支持率は歴史上はじめて一〇〇%を突破した。
政府は祝賀式典を開いた。首相は演説した。
「これほど支持されている政府は世界にありません。よって本日をもって、この国は完全な支持国家となります」
国民は涙ぐんだ。
「すばらしい国に生まれてよかった」
その夜、世論調査会社がひそかに調べた。
「あなたは政府を支持していますか?」
すると大半の人が答えた。
「たぶん」
「そうらしいね」
「新聞に書いてあった」
調査員はさらに聞いた。
「いつ支持しましたか?」
だれ一人、答えられなかった。
だが翌朝の新聞には、ちゃんと載っていた。
《国民全員、政府を支持》




