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追放された勇者は音楽家だったので、音楽で世界を変えることにします。  作者: 三門


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第5話 奪われた先に

 街道を歩き続けて、どれくらい経ったのか分からない。


 寒風は相変わらず止むことなく吹きつけ、身体の芯を冷やしていた。

 足取りは重く、呼吸も浅くなっている。


 それでも、奏は歩いていた。


 ――どこかに、街があるはずだ。


 それだけが、今の支えだった。


 しばらく進んだところで、違和感を覚える。


 風とは違う音。

 足音が、増えている。


 最初は気のせいだと思った。

 だが、歩く速度を落としても、その音は消えない。


 視線を感じる。


 背後だけではない。

 左右からも。


 奏が足を止めた瞬間、それは現実になった。


 「……そこで止まれ」


 低い声。


 気づいた時には、囲まれていた。

 三人。

 全員が、刃物を手にしている。


 逃げ道はない。


 奏は、ゆっくりと両手を上げた。


 「……金なら、少しだけあります」


 自分でも驚くほど、冷静な声だった。


 相手は、鼻で笑った。


 「少しで十分だ」


 一人が近づき、乱暴に袋を引き抜く。

 金貨の音が、軽く鳴った。


 「服もだ」


 衣服を掴まれ、引き剥がされる。

 冷たい空気が、一気に肌へ触れた。


 「……それだけでいい」


 奏がそう言うと、野盗たちは一瞬だけ彼を見た。


 そして、興味を失ったように視線を逸らす。


 「命まで取るほどの価値はねぇな」


 そう言い残し、彼らは去っていった。


 雪のない地面に、奏は膝をついた。


 身体が、震えている。


 寒さだけではない。

 力が、抜けていた。


 確認するまでもなく、何も残っていない。


 金貨も。

 衣服も。

 頼りにできるものは、すべて奪われた。


 「……はは」


 乾いた笑いが、喉から漏れた。


 ここまで来て、ようやくだ。


 本当に、何もなくなった。


 しばらく、その場に座り込んでいた。


 立ち上がらなければならないと、頭では分かっている。

 だが、身体が言うことをきかない。


 視界の端で、かすかな光が揺れた。


 目を凝らす。


 遠く。

 本当に遠くに、灯りが見える。


 街だ。


 幻かもしれない。

 それでも、今はそれに縋るしかなかった。


 奏は、歯を食いしばって立ち上がった。


 一歩。

 また一歩。


 足裏の感覚は、ほとんどない。

 それでも、進む。


 やがて、風の音に混じって、別の音が聞こえてきた。


 人の声。

 何かを叩く音。

 笑い声。


 帝国の外れ、国境に近い小さな街だった。

 関所はあるが、今はほとんど機能していないらしい。


 門はなく、誰に止められることもない。

 明かりに照らされた通りは、思ったよりも賑やかだった。


 暖かい。


 それだけで、胸の奥が少しだけ緩む。


 奏は、ふらつきながら歩いた。


 通りの一角で、足が止まる。


 音が、聞こえた。


 弦を擦る音。

 調子外れの旋律。


 だが、その音に、誰も耳を傾けていない。


 演劇の呼び込みの声にかき消され、

 ただの雑音として、流れていく。


 奏は、その場に立ち尽くした。


 胸の奥で、何かが、静かに動いた気がした。

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