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追放された勇者は音楽家だったので、音楽で世界を変えることにします。  作者: 三門
第2章

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第37話 写しの価値

工房の扉は半分まで閉められていて、細い隙間が残っていた。


年配職人の弟子は、扉の内側に立っている。

胸の前に手を置き、外の声を聞いていた。


外に男が二人いる。


一人は銀貨を指でつまみ、扉の隙間へ近づけた。

もう一人は通りの左右を見回し、足を止めたり動かしたりしている。


扉が三回叩かれた。

指先で叩いたような音だ。


「金を払う。写しがほしい」


声はあまり大きくない。

扉の近くにいる者だけが聞ける大きさだった。


弟子は扉から距離を取ったまま、小さな声で返事をした。

「写しは出せません」


「紙を見せてくれるだけでもいい」


弟子は首を振った。

相手には見えないが、体が先に動いた。

「だめです」


扉がもう一回叩かれた。

「誰が書いた」


弟子は返事をしない。


奥から年配職人が来た。

職人は弟子の耳元で言った。

「紙をしまえ」


弟子は頷き、机の下の箱を取り出した。


弟子が箱の蓋を開ける。

職人が両手で蓋を押さえる。


弟子は紙を箱へ入れ、蓋を閉めた。

紐を一周させてしっかりと結ぶ。


外の男が言った。

「銀貨をもう一枚出す。写しを寄こせ」


銀貨が床に落ちた音がした。


弟子の指が一瞬だけ止まる。

職人が弟子の手首を押さえ、首を横に振る。


弟子は箱から手を離した。


職人は扉を開けることなく、弟子に言った。

「短く返事をしろ」


弟子は扉の隙間から言った。

「写しは出せません」


外が静かになった。


男たちが扉の前から動いたのか、音が二つに分かれる。

片方は通りの奥へ。

片方は工房の横へ。


弟子は息を吐いた。

箱の上に手を置く。


職人が弟子を見る。

「紙のことを誰にも言うな」


弟子は頷いた。

「はい」



同時刻。王宮内アリアの私室。


机の上の灯りが小さく揺れていた。

アリアは椅子に座らず、机の前に立っている。


リディアが扉の近くに立つ。

廊下側へ目を動かし、窓へ目を動かす。

「殿下」


「聞くわ」


リディアが言う。

「工房の前で銀貨を見せて、写しを要求していました。二人組の男です」


アリアは眉を動かさない。

「結果は?」


「職人の弟子が断りました。職人も扉をそれ以上開けませんでした。」


「また来る可能性は?」


リディアは即答した。

「来ます。今度は時間をずらして来るかと」


アリアは机の端を指で揃えた。

「紙はここにある。もちろん写しも外部には出さないわ」


「はい」


「奏は今どこに?」


「小部屋の近くにいます。念の為に護衛を付けています」


アリアは頷いた。

「分かったわ。今日は奏を外へ出さないように。」


「承知しました」

リディアは一礼してアリアの私室を出て、奏の所へ向かった。



奏は小部屋の近くの通路で待っていた。

楽器は肩に掛けたままだ。


護衛の兵士が近くに立っている。


足音が近づいて止まった。廊下の角の手前だ。


アリアの護衛の女性が合流し、近くの護衛の兵士に短く合図した。


護衛の女性はガイウスの方へ向かい、指示を伝えた。


ガイウスが近くにやって来て、奏へ言う。

「今日は外に出るなとの、殿下の指示だ」


奏は頷いた。

「分かりました。ここで待ちます」


護衛の女性は廊下の角へ顔を向けた。

足音が角の手前で止まった。少しして、反対側へ消えた。


奏は楽器の紐を指で直し、手を止めた。



一方その頃。


工房の裏の路地で、写しを要求した男が別の男に小声で言った。

「紙も写しももらえなかった」


「なら、どうする?」


男は通りの先を見た。王宮の方向だ。

「何も工房だけじゃない。王宮側にも紙があるかもしれない」



工房の中では、弟子が箱の結び目を指で押していた。


弟子は箱の上に布を一枚かけた。

布の端を机の下へ押し込む。


扉の外では足音が一つ鳴り、止まらずに通り過ぎた。


弟子は箱から手を離した。


写しは出せない。


その一言だけを、胸の中で繰り返した。

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