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追放された勇者は音楽家だったので、音楽で世界を変えることにします。  作者: 三門
第2章

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第31話 王宮の空気

扉が閉まると、廊下の静けさが戻った。


足音だけが、規則正しく石床を打つ。


王宮の中は外よりも静かだ。

人はいる。

兵もいる。

だが声は小さく抑えられている。


奏はガイウスの後ろを歩きながら、ゆっくり息を吐いた。


思っていたよりも圧はなかった。


命令や強制もなかった。


それが逆に怖い。


曲がり角を抜けた先で、数人の文官らしき男たちとすれ違う。


視線が集まる。


楽器に。


そして奏に。


小さな囁きが、通り過ぎたあとで止まる。


聞き取れたのは一言だけだった。


「前例がない」


それ以上は聞こえない。


ガイウスは歩調を変えない。


「歓迎はされていないな」


奏が言うと、ガイウスはわずかに肩をすくめた。


「歓迎と必要は違う」


短い答えだった。


必要。


その言葉に、奏はわずかに眉を動かす。


必要とされることは、悪くない。


だが必要とされる理由は、選べない。


廊下の奥で、一人の年配の男が立ち止まっていた。


整えられた衣装。

落ち着いた視線。


武人ではない。

言葉で動く側の人間だ。


男はガイウスに視線を向ける。


「殿下は、随分と寛大だな」


声は低くて、静かだ。


奏には向けられていない。


あくまで騎士団長への言葉だ。


「市場での件は把握している」


「だが王宮に招くほどの理由があるのか?」


ガイウスは足を止めない。


「判断は殿下がする」


男は小さく息を吐いた。


「責任もだな」


その一言だけが妙に重かった。


奏は振り返らない。


聞こえないふりをする。


自分が話題の中心にいるのは分かっている。


だが、まだ何もしていない。


音を出していない。


それでも波は立っている。


階段を下りる。


広い中庭が見える。


兵が訓練をしている。

剣が交わる音は鋭いが、すぐに吸い込まれる。


音が長く残らない場所だ。


「ここで音を鳴らせば、どうなる」


思考がよぎる。


すぐに消す。


まだその段階ではない。


門が見えてきた。


外の光が差し込む。


「殿下は本気だ」


不意にガイウスが言った。


奏は横目で見る。


「分かっている」


軽く返す。


分かっている。


あの目は思いつきのものではない。


王女は待つと言った。


急がないと言った。


だが王宮は待たない。


その温度差をさっきの一言で知った。


門を抜ける。


外の空気は少しだけ軽い。


奏は空を見上げた。


王都の空は広い。


だが音はまだない。


「音を出さなくても、波は立つ」


小さく呟く。


王女は賭けている。


王宮は警戒している。


自分はまだ何もしていない。


それでも立場はもう動き始めている。


奏は楽器を持ち直し、ゆっくり歩き出した。


次に音がどこで鳴るのか。


その音はまだ、自分の中にある。

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