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追放された勇者は音楽家だったので、音楽で世界を変えることにします。  作者: 三門
第2章

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第30話 条件

通されたのは、広間ではなかった。


天井は高いが、玉座はない。

壁際に長い机があり、向かい合う椅子が二つ置かれている。


値踏みする場ではない。


話す場所だ。


奏は椅子に座らず、立ったまま室内を見渡した。


窓は閉じられている。

厚い布が外の音を遮っていた。


やはりこの城は音を外へ逃がさない造りだ。


扉が静かに開いた。


ローブを纏っていない王女は、まっすぐな姿勢で室内に入ってきた。


陽の光を受けた金の髪が柔らかく揺れる。

透き通るような白い肌。

整った顔立ちは、派手さではなく均整で目を引く。


美しい、というより完成されている。


「お待たせしました」


声はよく通る。

高すぎず、低すぎず、澄んでいる。


奏は軽く頭を下げた。


「呼ばれたから来ただけだ」


王女は向かいの椅子に腰を下ろす。


「市場の件について、お話ししたいのです」


予想通りだった。


奏は椅子に座る。


「何を聞きたい?」


王女は間を置いた。


急がない。


「なぜ、音を出さなかったのですか?」


責める口調ではない。

ただ事実を確かめる問い。


「音を出す必要がなかった」


短く答える。


王女は小さく頷く。


「子どもの旋律を奪わなかった」


そこまで見ていたのか、と奏は思う。


「奪うほどの場でもなかった」


「ですが、変わりました」


王女は言う。


「空気が」


奏は何も返さない。


王女は視線を少しだけ落とし、続けた。


「私は、あの変化を偶然で終わらせたくありません」


ここからが本題だ。


「王都では、音楽は禁じられていません」


王女の言葉は静かだ。


「ですが、音の扱い方が分からない」


奏は眉をわずかに動かす。


「だから呼んだのか」


「はい」


はっきりしている。


王女は続ける。


「王都で音楽をどう扱うべきか。仕組みを整えたいのです」


「宮廷楽士にするつもりか」


奏は先に線を引く。


王女は首を横に振った。


「いいえ」


即答だった。


「あなたを王宮に縛るつもりはありません」


奏は黙る。


それでも疑いは消えない。


「俺は条件を出した」


「王都に来る。だが何をするかは自分で決める」


「利用されると感じたら帰る」


王女は視線を逸らさない。


「もちろんです」


迷いはない。


「称号や、役職も与えません」


「客人として扱います」


奏は少しだけ驚いた。


立場を与えないのは、守るためか。


それとも距離を保つためか。


「今日も音は求めません」


王女は続ける。


「あなたが決める日まで待ちます」


奏は椅子の背に寄りかかる。


急がれない。


それが逆に重い。


「なぜそこまでする?」


問いは素直だった。


王女は一度だけ息を吸う。


「必要だからです」


王女としての答え。


だがその奥に、別の色がある。


「恐れているだけでは、国は進みません」


静かな覚悟。


奏は目を細める。


帝国とは違う。


命じられない。


押し付けられない。


だが期待はある。


それは確かだ。


「もう少し時間をくれ」


奏は言う。


王女は頷いた。


「いくらでも」


その声に焦りはない。


会話はそこで終わった。


立ち上がる。


扉の前で奏は一度だけ振り返る。


王女は座ったまま、まっすぐこちらを見ていた。


試しているのではない。


待っている。


奏は何も言わずに部屋を出た。


音は、まだ出していない。


それでも何かが動き始めている。


その感覚だけが、胸に残った。


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