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追放された勇者は音楽家だったので、音楽で世界を変えることにします。  作者: 三門
第2章

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第28話 呼び出し

翌朝、王都は昨日と同じ顔をしていた。


整えられた通り。

規則正しく動く人の流れ。

声はある。

だが旋律はない。


ガイウスの手配で、奏は市場から少し離れた宿に部屋を取っていた。

質素だが清潔で、窓からは明るい石造りの屋根が見える。


ここに居てもいいのか、とまだ実感はない。


椅子に腰を下ろし、楽器の取っ手に指を置く。


弾くつもりはない。


それでも触れていないと落ち着かない。


昨日の市場の空気が、頭の奥に残っていた。


子どもの短い旋律。


固まった視線。


そして王女の言葉で、場が収まったこと。


奏は息を吐いた。


王女が助けたのは自分ではない。


市場だ。


それが余計に、王都の仕組みを感じさせる。


扉を叩く音がした。


短くはっきりした間隔。


奏が立ち上がり、扉を開ける。


ガイウスが立っていた。


軽装の鎧。

肩の線が無駄なく、目だけが鋭い。


「……カナデ」


名前を呼ばれた瞬間、奏の胸がわずかに固くなる。


この国では、名は役目の入口になる。


「王宮からだ」


ガイウスは余計な言葉を足さない。


「今日中に来い。時間は選べるが、断る類の話ではない」


奏は一瞬だけ黙った。


昨日の市場の件。


王女が見ていた。


そして騎士団長がここにいる。


繋がるのは自然だ。


「理由は」


「市場の件だ」


やはり、それだけだった。


奏は視線を落とす。


条件は出した。


王都へ行く。

だが何をするかは、その場で決める。


利用されると感じたら帰る。


その条件を、まだ握っている。


「……分かった」


ガイウスは短く頷いた。


「案内を付ける。勝手に歩くな」


奏は反射で言い返しそうになり、止めた。


王都は帝国とは違う。


だが自由でもない。


「分かった」


ガイウスは踵を返す。


去り際に一言だけ落とした。


「王女も、来ているはずだ」


奏の指先がわずかに止まった。


王女は距離を取っていた。


それでも場が王宮なら、距離では済まない。


扉が閉まる。


静けさが戻る。


奏は窓の外を見た。


人は動いている。

生活は続いている。

だが音は出ない。


禁忌は今もここにある。


楽器の取っ手を握り直す。


鳴らさない。


まだ鳴らさない。


けれど、王宮に行けば。


鳴らすかどうかを、また問われる。


奏はゆっくり息を吸った。


「行くだけだ」


自分に言い聞かせるように呟く。


選ぶのはそこでいい。


そして選べない形にされたら、帰る。


奏はそれだけを胸に残し、身支度を始めた。

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