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追放された勇者は音楽家だったので、音楽で世界を変えることにします。  作者: 三門
第2章

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第27話 まだ鳴らない音

騒ぎは終わった。


しかし市場の空気は、すぐには元に戻らなかった。


声は出ても笑いが少し遅れる。

人の目だけが、余計に動く。


奏は通りの端で楽器を抱え直した。


さっきまでの光景が、まだ目の奥に残っている。


子どもの小さな旋律。

固まる空気。

責める声。


そして止めたのは王女の言葉だった。


奏はアリアを見た。


アリアは周囲を一度だけ見回し、護衛の女性に小さく合図を送る。

ここでこれ以上は話さない、という線引きが見える。


王女は“場”を収めただけだ。


奏のために動いたわけではない。


そう見せるための距離でもあった。


アリアが奏に向き直る。


「今は、ここまでにしましょう」


言い方は柔らかい。

だが、王女の言葉だ。


奏は頷いた。


「……分かりました」


それ以上聞かない。


聞けないのではない。

今は聞くべきではないと分かっている。


アリアが踵を返す。


護衛の女性が一歩前に出て、人の流れを自然に押さえる。

王女の周囲だけ空気が少し固い。


その背中が人混みに溶けていく直前、アリアが一度だけ振り返った。


視線が奏の楽器に落ちる。


何も言わない。


確認する目だった。


アリアが消えたあと、別の気配が近づいてきた。


ガイウスだ。


騎士団長は奏の前で足を止める。

目は鋭いのに声は静かだ。


「王都では、目立つことはするな」


命令ではない。

忠告に近い。


奏は答える。


「するつもりはない」


ガイウスはわずかに目を細めた。


「ならいい。今の空気で弾けば、誰かが困る」


奏は一瞬息を止める。


“誰か”の中に自分も含まれている。


だがそれを騎士団長は言わない。


ガイウスは奏の楽器を見た。


「泊まる場所はあるのか」


「まだだ」


「なら案内を付ける。勝手に歩くな」


監視ではなく統制だ。


この国のやり方なのだと奏は理解する。


「……分かった」


少し離れた位置にあの少女がいた。


さっき子どもをかばっていた、粗い服の少女だ。

荷を抱えたまま動かない。


こちらを見ている。


逃げない。

近づきもしない。


ただ見ている。


奏は目を合わせた。


少女の目は揺れない。


怖がってはいない。


何かを確かめる目だ。


奏は視線を外した。


ここで声をかければ余計に目立つ。

王都はそういう場所だ。


ガイウスの合図で兵が一人近づく。


「こちらへ」


奏は頷き歩き出した。


今日は弾かない。


音を出すかどうかはまだ自分で決める。


誰かに決めさせないために。


通りの端を離れる瞬間、奏はもう一度だけ振り返った。


少女はまだそこにいた。


目だけが奏を追っている。


王都の静けさは変わっていない。


それでも。


何かが始まった気がした。

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