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追放された勇者は音楽家だったので、音楽で世界を変えることにします。  作者: 三門
第1章 追放と決断

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番外編① 王女が聴いた音

 王都には音があった。


 だが、音楽はなかった。




 式典の合図。


 軍の号令。


 整列のための太鼓。




 すべて、揃えるための音だった。




 心を動かすためのものではない。


 誰かを支えるためのものでもない。




 音楽は人を弱くする。


 感情は国を乱す。


 王族であるなら疑うな。




 そう教えられてきた。




 だがアリアは、ずっと違和感を抱いていた。




 なぜ。


 心が動くことが、罪になるのか。




 王都の空気は整っている。


 乱れがない。


 だが、どこか乾いている。




 その乾きを確かめるように、


 国境視察を願い出た。




 名目は帝国の動向確認。


 本音は、王都の外の空気を知るため。




 国境の街はざわついていた。




 商人の声。


 荷馬車の軋む音。


 土の匂い。




 王都より、少しだけ生きている。




 そこで噂を聞いた。




 妙な音を出す男がいる。




 兵ではない。


 商人でもない。


 だが、人が集まる。




 禁忌のはずなのに。




 ローブで姿を隠し、通りへ向かった。


 護衛には距離を取らせる。




 通りの端に、男が立っていた。




 楽器を抱えている。


 姿勢が良い。


 華やかではない。




 黒い髪だった。




 この大陸では珍しい色。


 夜のように深く、光を吸い込む色。




 服は質素だった。


 街で仕立てたものだろう。


 装飾はない。




 王都の貴族なら目も向けない。




 だが、視線が止まる。




 やがて音が鳴った。




 静かだった。


 派手ではない。


 誰かを煽る音ではない。




 ただ、まっすぐだった。




 胸の奥で何かがほどける。




 乱されるのではない。


 揺らされるのでもない。




 凍っていたものが、ゆるむ感覚。




 あれは戦の音ではない。


 命令の音でもない。




 人の音だ。




 男は目を閉じていた。


 睫毛が影を落とす。


 瞳は黒に近い深い茶。




 感情を隠しているようで、


 隠しきれていない。




 音が止む。




 拍手を求めない。


 賞賛を求めない。




 ただ、そこにある音。




 帝国が勇者召喚を行ったという報せを思い出す。




 失敗だったと伝わった儀式。




 目の前の男と結びつける理由はない。




 だが胸の奥が、わずかにざわめく。




 禁忌と呼ばれるものが、


 なぜこんなにも静かに心を満たすのか。




 もう一度、聴きたい。




 それが最初の感情だった。




 王女としてではない。


 一人の人間として。




 依頼は、その瞬間に形を持ち始めていた。


※本日中に番外編②も投稿予定です。

よろしければ続けてお読みください。

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