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追放された勇者は音楽家だったので、音楽で世界を変えることにします。  作者: 三門
第1章 追放と決断

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第24話 答えを出す前に

 アリアが去ったあと、通りはすぐに元の顔を取り戻した。


 人の流れ。

 店の呼び声。

 靴音と、風の音。


 特別なことは、何も起きていない。

 少なくとも、周囲から見ればそうだった。


 奏は楽器を抱えたまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 弾くつもりは、なかった。


 頭の中では、さっきの会話が何度も繰り返されている。


 ――ハルモニア王国。

 ――王女。

 ――国として、音を知る。


 国。


 その言葉が浮かぶたび、胸の奥がわずかに強張る。


 帝国での記憶が、どうしてもよぎった。


 玉座の前。

 値踏みするような視線。

 役に立たないと判断された瞬間。


 音楽が、自分の一部ではなく、

 ただの「使えない道具」として扱われた感覚。


 また、同じことになるのではないか。

 国に関わるとは、そういうことではないのか。


 奏は、ゆっくりと歩き出した。


 街道沿いの石畳を踏みしめながら、

 楽器の重みを腕に感じる。


 音楽は好きだ。

 それだけは、はっきりしている。


 だが、人に向けて弾くことが、

 いつからか怖くなっていた。


 期待されること。

 評価されること。

 音が自分の手を離れていく感覚。


 それでも弾き続けなければならない。

 そう思い込んでいた自分が、どこかにいた。


 「今日は弾かないのかい」


 通りの端で、聞き覚えのある声がした。


 振り返ると、以前にも声をかけてきた人物が立っている。

 特別親しいわけではない。

 ただ、よく顔を合わせる程度だ。


 「……今日は、やめておく」


 奏がそう答えると、その人物は少しだけ笑った。


 「そうか」

 「また、気が向いたらでいい」


 それだけ言って、去っていく。


 音楽の話は、それ以上なかった。


 奏は、その背中を見送りながら、

 胸の奥がわずかに軽くなるのを感じた。


 王女でもない。

 国の人間でもない。


 ただの、街の一人。


 その距離感が、今はありがたかった。


 夜になり、宿に戻る。


 部屋に入り、楽器を机の上に置く。

 蓋を開ければ、すぐに音は出せる。


 だが、手は伸びなかった。


 弾かないことを、逃げだとは思わなかった。

 むしろ、今は必要な時間だと感じていた。


 考えるための時間。

 自分の音を、もう一度見つめ直すための時間。


 国のために弾くのか。

 誰かのために弾くのか。

 それとも――自分のために弾くのか。


 答えは、まだ見つからない。


 だが、ひとつだけははっきりしている。


 考えることから、逃げるつもりはない。


 奏は静かに楽器の蓋を閉じた。


 答えはまだだ。

 だが、その前に向き合うべきものがある。


 そう、分かっていた。


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