表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された勇者は音楽家だったので、音楽で世界を変えることにします。  作者: 三門
第1章 追放と決断

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/35

第20話 弾かなかった理由

 夜の街は、いつもより落ち着きがなかった。


 通りを歩く人々の足取りが速い。

 小さな言い争いが、あちこちで起きている。

 酒場から聞こえる声も、どこか荒れていた。


 奏は、それを少し離れた場所から見ていた。


 ――弾けば、静まる。


 分かっている。

 この街では、もう何度もそうだった。

 音を出せば、人は耳を傾け、言葉を止める。


 奏の足元には、いつもの楽器があった。

 指を伸ばせば、すぐにでも音を出せる距離。


 それでも――奏は、動かなかった。


 胸の奥に、冷たい感覚が残っている。


 帝国での光景。

 玉座の間。

 音楽家と示された文字。


 ――居場所はない。


 あの言葉が、まだ消えていなかった。


 「……今日は、弾かないんですか?」


 少し離れた場所から、声がした。

 いつも、足を止めて聴いていく人物だった。

 控えめだが、よく通る声。


 期待と不安が入り混じった視線が、奏に向けられる。


 奏は、しばらく考えたあと、首を横に振った。


 「今日はやめておく」


 それ以上は、説明しなかった。


 その人物は、少し戸惑ったように視線を落とし、

 やがて何も言わず、その場を離れていった。


 夜は更けていった。


 誰かが仲裁に入り、

 誰かが肩をすくめ、

 誰かがその場を離れる。


 音がなくても、街は壊れなかった。


 奏は、その様子を静かに見つめていた。


 音楽があれば、楽になる。

 自分も、周りも。


 けれど、それは逃げでもある。


 音を使えば、考えずに済む。

 向き合わなくて済む。


 ――それは、まだできない。


 奏は楽器から手を離し、夜空を見上げた。


 星は、変わらずそこにあった。


 音がなくても、世界は続く。

 だからこそ。


 使うなら、

 逃げるためではなく、

 向き合うために。


 奏はそう心に決め、その夜は音を出さなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ