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追放された勇者は音楽家だったので、音楽で世界を変えることにします。  作者: 三門


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第2話 勇者召喚

白い光が、すべてを飲み込んだ。


 目を閉じているはずなのに、まぶしい。

 瞼の裏が焼けるように明るく、思わず奏は顔を背けようとした――が、身体が言うことをきかない。


 足元の感覚が消えている。

 重力が、ふっと抜け落ちたような感覚。


 浮いているのか。落ちているのか。

 分からない。


 ただ、音だけがない。


 さっきまで耳を支配していた、あらゆる雑音が消えていた。

 空調も、拍手も、自分の呼吸音さえも。


 ――静かすぎる。


 その異様な静寂を破ったのは、重い金属音だった。


 がしゃり、と金属が擦れる音。

 複数の足音。

 人の声。


 次の瞬間、奏の身体は床に叩きつけられた。


 「――っ!」


 息が詰まる。

 肺の空気が一気に吐き出され、反射的に咳き込んだ。


 冷たい。

 硬い。


 大理石のような床に、両手をつく。

 指先に伝わる感触は、さっきまでいた楽屋とはまるで違う。


 奏はゆっくりと顔を上げた。


 そこは、見覚えのない場所だった。


 高い天井。

 石造りの壁。

 赤い絨毯が一直線に敷かれ、その先に鎮座する玉座。


 玉座の両脇には、全身を金属鎧で覆った兵士たちが並んでいる。

 手には剣。

 視線は、明確に自分へ向けられていた。


 「……は?」


 間の抜けた声が、口からこぼれた。


 状況が、理解できない。


 ホールでもない。

 舞台でもない。

 夢にしては、感触が生々しすぎる。


 「成功だ……」

 「間違いない、魔法陣は完全に起動した」

 「勇者召喚は成ったぞ!」


 周囲から聞こえてくる言葉に、奏の思考が一瞬止まる。


 ――勇者?


 誰かが、玉座の前へ進み出た。

 壮年の男だ。豪奢な衣装に身を包み、威圧的な視線で奏を見下ろしている。


 その隣には、鎧姿の将軍らしき男。

 鋭い目つきで、まるで武器を見るように奏を観察していた。


 「貴様が――我がグラディウス帝国が召喚した勇者か」


 帝国。

 その単語が、現実味のなさをさらに増幅させる。


 奏は立ち上がろうとして、よろめいた。

 身体はある。服も、さっきまで着ていたスーツのままだ。


 だが、頭が追いつかない。


 「ゆ、勇者……? あの……ここ、どこですか」


 絞り出すように言うと、周囲が一瞬静まり返った。


 次いで、小さな失笑が起こる。


 「ふん、異界から呼ばれた者にしては、ずいぶんと間の抜けた反応だ」

 「まあいい。儀式は成功している。あとは資質の確認だ」


 将軍が合図をすると、兵士の一人が水晶のような球体を持ってきた。

 それを奏の前へ突き出す。


 「手を置け。貴様のステータスを確認する」


 ステータス。


 奏は、乾いた笑いが出そうになるのを必死で堪えた。

 頭のどこかで、「異世界ものの小説みたいだな」と思っている自分がいる。


 ――いや、落ち着け。

 これは、何かの悪い冗談だ。


 そう思いながらも、逆らう選択肢はなかった。

 奏はゆっくりと、水晶へ手を伸ばした。


 指先が触れた瞬間。


 水晶が、淡く光り出す。


 ざわ、と空気が揺れた。


 文字が、空中に浮かび上がる。


 奏は、思わず目を凝らした。


 読める。

 意味が、分かる。


 まるで当たり前のように、その文字を理解できてしまった。


 ――職業。


 そこに表示された文字を見た瞬間、奏の胸が嫌な予感で締め付けられる。


 そして。


 次の瞬間、玉座の間は――完全な沈黙に包まれた。


 誰も、何も言わない。

 ただ、全員が同じ一点を見つめている。


 奏も、ゆっくりとその文字を追った。


 浮かび上がっていたのは、たった一行。


 【職業:音楽家】


 「…………」


 一瞬、意味が理解できなかった。


 音楽家。


 それは、奏の人生そのものだった。

 音楽しか知らず、音楽だけで生きてきた自分を、たった一言で表す言葉。


 沈黙を破ったのは、将軍の低い声だった。


 「……音楽家?」


 眉がひそめられる。

 困惑とも、嫌悪とも取れる表情。


 「そんなものが、勇者だと?」


 その言葉を合図に、周囲の空気が一気に冷えた。


 嘲笑ではない。

 理解不能なものを見る、拒絶の視線。


 「聞いたこともない」

 「役に立つのか、それは」

 「戦に使えぬものを、呼んだというのか」


 奏の喉が、ひくりと鳴る。


 ああ。

 この感覚は、知っている。


 音楽しかない自分を、価値で測られる感覚。


 玉座に座る皇帝が、ゆっくりと口を開いた。


 「……名を呼ぶ必要すらない」


 その声は、感情の欠片もない。


 「我が帝国に、その者の居場所はない」


 その一言で、すべてが決まった。


 奏は、何も言えなかった。


 否定する言葉も、説明する言葉も、喉の奥で凍りついたまま出てこない。


 胸の奥が、ゆっくりと冷えていく。


 ああ――。


 やっぱり、ここでも。


 音楽は、

 理解される前に、切り捨てられるものだった。

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