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追放された勇者は音楽家だったので、音楽で世界を変えることにします。  作者: 三門
第1章 追放と決断

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第19話 再会

 昼の境界の街は、人が多い。


 買い物の声。

 荷車の音。

 子どもの笑い声。


 いつも通りのはずなのに、奏は落ち着かなかった。


 見られている気がする。

 そんな気配が、朝からずっと消えない。


 振り返っても、はっきりとは分からない。

 だから余計に、気持ちが悪い。


 奏は通りの端で立ち止まった。


 そのとき、人の流れの中から、ローブを着た小柄な人物が近づいてきた。

 顔は隠れている。


 少し離れたところに、もう一人。

 周りを見ている女性がいる。


 あのときの護衛だ。

 リディアだと、奏は覚えている。


 ローブの人物が、奏の前で止まる。


 「……昨日ぶりです」


 落ち着いた声だった。

 名乗りはしない。

 だが、誰かは分かる。


 奏は一度だけ周りを見る。

 人が多い場所だ。

 逃げようと思えば逃げられる。


 それでも、足は動かなかった。


 「何の用だ」


 短く言うと、ローブの人物は小さくうなずいた。


 「少しだけ、話がしたいです」


 「ここで?」


 奏がそう返すと、護衛の女性が周りを見ながら一歩だけ位置を変えた。

 人の流れを邪魔しない場所に立つ。


 ローブの人物が言う。


 「少しだけ、端に移ってもいいですか」


 奏は迷った。

 だが、これ以上、分からないままでいるのも嫌だった。


 「……わかった」


 通りの端に寄る。

 人の声は聞こえるが、さっきよりは落ち着いて話せる。


 ローブの人物が、まず確認するように言った。


 「ここ数日、変な視線を感じていませんか」


 奏は目を細めた。


 「……感じてる」


 「やっぱり」


 その返事が、早かった。

 知っている言い方だ。


 奏の胸が少し冷える。


 「お前も、見てたのか」


 ローブの人物は首を振った。


 「見ていたのは、あなたではありません」


 言い方はやわらかい。

 だが、意味は重い。


 護衛の女性――リディアが、静かに口を開く。


 「人の動きが揃っています。偶然ではありません」


 言い切りすぎない。

 ただ事実だけを言う声だった。


 奏は唇を噛んだ。


 「……何者だよ、そいつら」


 ローブの人物は、すぐには答えなかった。

 言えることと、言えないことがある。

 そういう間だった。


 「はっきりとは言えません。でも」


 ローブの人物は、言葉を選ぶ。


 「この街は、もともと安全とは言えない場所です」


 奏は苦笑する。


 「今さらだな」


 「今さら、だから言います」


 その言い方は、強くなかった。

 ただ、まっすぐだった。


 リディアが一歩だけ前に出る。

 奏に向けてではない。

 通りの向こうを見ている。


 「安全を考えれば、

 距離を取るべき状況です」


 奏は、目をそらした。


 距離を取る。

 それは、逃げるという意味にも聞こえる。


 帝国で追い出されたときの感覚が、よみがえる。


 奏はローブの人物を見る。


 「……で。俺に何をしろって」


 ローブの人物は、すぐに答えない。

 少しだけ間を置いてから、静かに言った。


 「あなたの音を、もう一度聞きたいです」


 奏は眉をひそめた。


 「今、その話か?」


 「はい」


 迷いのない返事。


 「あなたが音を出すと、空気が変わります」


 説明しすぎない。

 だが、嘘でもない。


 奏は息を吐いた。


 怖さは残っている。

 弾けば、また何かが動くかもしれない。


 それでも、今のまま何もしないのも違う。


 奏は少しだけ視線を落とした。


 「……考える時間をくれ」


 ローブの人物は、静かにうなずいた。


 「分かりました」


 それ以上、踏み込まない。


 リディアが小さく合図を送る。

 二人は人の流れに戻っていく。


 奏はその背中を見送った。


 何も決まっていない。

 だが、避けては通れない場所に来た。


 そんな気がした。


 奏は、ゆっくり歩き出す。


 答えを出すために。

 そして、視線の正体を確かめるために。


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