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追放された勇者は音楽家だったので、音楽で世界を変えることにします。  作者: 三門


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第17話 忍び寄る視線

 理由は、分からない。


 それでも、胸の奥が落ち着かなかった。


 アリアは、宿の一室で窓の外を見ていた。

 境界の街は、昼間と変わらない顔をしている。

 人の声も、荷車の音も、いつも通りだ。


 なのに。


 どこかが、ずれている気がした。


 音が聞こえないからではない。

 むしろ、その逆だ。


 何も起きていないのに、起きる前の空気がある。


 アリアは、指先を軽く握った。


 あの音楽家のことを思い出す。

 名前を知っているわけでもない。

 詳しい事情を知っているわけでもない。


 それでも、音だけは覚えている。


 苦しくて、張りつめていて。

 なのに、逃げていない音。


 「……」


 アリアは、小さく息を吐いた。


 そのとき、背後で気配が動いた。


 「周囲の人の動きが、少し変わっています」


 落ち着いた声。

 護衛の女性――リディアだった。


 「変わって、いますか」


 アリアがそう返すと、リディアは短く頷いた。


 「目立たないようにしていますが、

  慣れた動きです」


 「慣れた?」


 「調べる側の動きです」


 言い切りだった。


 アリアは、窓の外に視線を戻す。

 街の人々は、普段と変わらない。


 だが、よく見ると。

 同じ場所に長く立たない人。

 視線だけを動かす人。


 確かに、整いすぎている。


 「……あの人は、今日も街に?」


 自分でも、なぜその言葉が出たのか分からなかった。

 音楽家、と言わなかったことに、後から気づく。


 リディアは、一拍置いてから答えた。


 「確認しています。

  今日は、音を出していません」


 アリアの胸が、少しだけ締まった。


 「そう……」


 弾いていない。

 それが、なぜか引っかかる。


 リディアは続ける。


 「今のところ、直接の危険はありません。

  ですが――」


 言葉を切り、視線を鋭くする。


 「観測対象になり得ます」


 アリアは、黙ったまま聞いていた。


 「安全を考えれば、

 距離を取るべき状況です」


 それは、護衛としての正しい判断だった。


 アリアは、しばらく考える。


 そして、静かに首を振った。


 「いいえ」


 リディアの目が、わずかに動く。


 「様子を見るだけです」


 「……承知しました」


 反論はない。

 だが、警戒は解かれていない。


         



 ――リディアは、部屋を出て廊下に立った。


 外套の下に隠した手が、自然と動く。

 周囲の音。

 気配。

 距離。


 街の空気は、確かに変わっている。


 あの音楽家を見たときから、ではない。

 もっと前から、少しずつ。


 「……面倒なことになりそうだ」


 小さく呟く。


 音楽家は、弱い。

 武器もない。

 戦い方も知らない。


 だが、不思議なほど、危うくない。


 逃げない。

 媚びない。

 それでいて、無防備すぎる。


 排除すべき相手ではない。

 それが、リディアの率直な判断だった。


 だからこそ、厄介だ。


 廊下の先で、人影が動いた。

 一瞬だけ、こちらを見て。

 すぐに視線を逸らす。


 確認は、それだけで十分だった。


 リディアは、踵を返す。


 アリアを守る。

 それが、最優先だ。


 そして――

 あの音楽家が、すでに「守るべき対象」に入り始めていることに、

 リディアはまだ、気がついていなかった。


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